第57話:王都ギルドへ──初めての登録と“裏社会の影”
翌朝の学院は、静けさというより“停止”に近かった。
正門には修復魔導師だけが足早に行き来し、生徒の姿は一人もない。
完全な封鎖状態が、朝の冷たい空気の中で異様に響いていた。
(学院……マジで休校ムードだな。あれだけの被害なら当然か……)
ルイとセリアは、そんな校門を背にして早朝の馬車へ乗り込んだ。
向かう先は王都中心街──冒険者ギルド。
そして同行者は、もちろん。
「……なぁ、ラザール教官」
「なんだ、ルイ君」
「昨日からずっと思ってるんだけどさ……」
「うん?」
「監視って……堂々とついて来すぎじゃね?」
ラザールは平然と歩幅を合わせながら言い切った。
「隠密向きではないのでな、私は」
(堂々と言うなよ……!)
セリアがクスクス笑う。
「ラザールさんって、不器用なんだよね」
「ほう……セリア嬢は手厳しいな」
「褒めてるんですよ?」
微妙な表情を浮かべたラザールの顔に、馬車の中で一瞬だけ柔らかい空気が流れた。
そうして馬車が王都の中心へ滑り込むと──
冒険者ギルドが視界に現れた。
巨大な石造りの建物。剣と羽根を組み合わせたギルド紋章。
朝日を反射して淡く輝くその佇まいは、まさに“物語の入口”だった。
「ここが……冒険者ギルド……!」
セリアが目を輝かせる。
その横でルイは苦笑いを浮かべた。
(ゲームや漫画で見た“ギルド”。ほんとはテンション上がるやつなんだけど……俺は監視目的なんだよな……泣)
ラザールが職員と短い会話をして戻ってきた。
「手続きは私がやる。ルイ君、これに名前を書け」
差し出された羊皮紙には大きく刻まれている。
《特別審査枠:王都監察局直轄・臨時許可》
(特別枠!? どう見ても怪しいやつだろコレ!!)
係員が苦笑しながら言う。
「普通の冒険者は十五歳からなんですが……特例ですね、はい……」
(笑ってるけど目が笑ってねぇ!!)
手続きを終えると、木製の冒険者カードが渡された。
カードの中央には魔石が埋め込まれ、淡い光を吸い込んでいる。
「Fランク……?」
「当然だろう。初期ランクだ」
「いや、俺まだ戦ったことほぼ無いし……」
「昨日の巨大影に向かって歩いた勇気だけで、Eはあると思ったのだが」
「上げようとすんな!!」
セリアがくすっと笑う。
「ルイ、冒険者なんだ……なんかかっこいいね」
「いや、ただの監視対象になっただけだからな……?」
「ルイはルイだよ?」
(……お前に言われると、なんか本当にかっこよく聞こえる)
そのとき、ギルドの奥のテーブルから声がした。
「よう、新入り。朝っぱらから“監察局付き”とは珍しいな」
黒革のコートに片目の古傷。
場の空気を自然に支配する“危険な匂い”。
「……ラザール教官。あれ誰?」
「裏都方面の情報屋だ。関わるな。
あれは“ギルドの表側には存在しない人物”だ」
(裏社会キターーーーー!!)
情報屋の男──クロウがニヤリと笑う。
「小僧、気をつけろよ。
王都は“影”が動き始めてる。
昨日の学院の騒ぎ……お前、何か知ってんだろ?」
「……!」
(やば……何か勘づいてる……)
ラザールが音もなく前へ出た。
「引っ込んでいろ、クロウ。お前の出番ではない」
「へいへい。ただの忠告さ。
――“鍵の少年”には気をつけろよ?」
その言葉で、ルイの背筋が冷たくなる。
(こいつ……本当に知ってる……!!)
ギルドから出たあとは、セリアがずっと袖を掴んでいた。
心配と恐怖が入り混じった小さな手。
「ルイ……なんだか怖い……」
「大丈夫。俺もよくわかんねぇけど……なんとかなるよ」
本当は心臓がうるさいほど脈打っている。
だけど、それを見せるわけにはいかなかった。
ラザールが歩きながら低く言う。
「王都の裏社会が動いている……
学院事件の余波が表にも裏にも広がり始めているな」
(もうすでに大事件の影響出てるのかよ……)
「ルイ君。
君が動けば、確実に世界が動く。
だから──」
ラザールは前を向いたまま続けた。
「どんな小さな行動も、見逃せない」
(プレッシャー重すぎんだろ……!!)
冷たい風が三人の間をすり抜けた。
こうしてルイは、
“冒険者”という新たな肩書を持ち、
王都の表と裏の世界へ足を踏み入れた。
これが──少年期の、確かな始まりだった。




