第50話 学院壊滅寸前――黒い咆哮、光の覚醒
地面が不規則に震え続けていた。
影門の主とラザールがぶつかり合う衝撃は、もはや戦いではなく“災害”だった。
校舎は軋み、結界は悲鳴をあげ、生徒たちは立つことすらままならない。
「くそっ……衝撃が強すぎる……!」
アレンが剣を杖のように突き立てて踏ん張る。
その横で、ミリアが青ざめた顔のまま震える声で言った。
「これ……冗談じゃ済まない……本当に……学院が……」
(分かってる。これはただの事件じゃない。学院そのものが……影に沈む)
ルイの視界も揺れる。
魂核が暴れすぎて、呼吸が乱れ、胸の奥で白と黒が雷みたいに衝突していた。
(……本当にまずい。このままだと俺……壊れる)
その瞬間──影門の主が動いた。
巨体からは想像できない静けさで腕を引き絞り、空気が震えた。
次の瞬間。
ドォォォォォォォン!!
影の波動が学院全域に叩きつけられた。
「うわああああっ!!」
「きゃあああ!!」
影の圧力が地面をえぐり、塔を折り、建物を黒い霧で染めていく。
防壁に亀裂が走り、結界の光が粉々に砕けた。
「結界が……もたない!!」
「教師陣! 全力で維持しろ!!」
叫びも命令も、影の奔流に飲み込まれていく。
(まずい……本当に学院が沈む)
そのなか──セリアが駆け寄ってきた。
「ルイ……!」
光核が震え、背中の羽の幻影が明滅している。
「ルイ、さっきからずっと……胸、苦しそうで……!」
(見えてたか……)
ルイの胸では、黒と白が“爆発寸前”みたいに暴れていた。
視界が波打ち、音が遠のく。
「……っ、あ……」
膝が崩れる。
地面に手をついた瞬間、指先から黒い霧が漏れた。
(……嘘だろ……自分で抑えられなく……なってる……)
影門の主の“眼”が光を灯す。
『……鍵……そのまま……堕ちろ……』
「ルイッ!!」
セリアが抱きとめたが、彼女の光すら黒の圧に押し返されていた。
「こんなの……止められない……!
でも……でも、わたし──!」
セリアがルイの手を強く握った。
その瞬間。
まばゆい光が学院中に広がった。
セリアの背後に、
再び光翼が広がる。
今度は幻影じゃない。
一本一本の羽根が、ひとつの“本物の光”として形を成していた。
周囲の影の霧を焼き払い、黒の暴走を押し止める。
「ルイ……戻ってきて……
わたし、ひとりじゃ怖い……!!」
(セリア……)
その声が、黒に沈む意識を現実に引き戻す。
白が大きく脈動し、黒を押し返した。
(まだ……闇に落ちたくない……!
守りたい奴が……ここにいる!!)
影門の主が低く振動した声を放つ。
『……白の器……邪魔を……』
巨腕がセリアに向かって振り下ろされる。
「セリア!!」
だがラザールが割って入った。
黒い鎧を展開したまま、自分の体を盾にする。
「……ぐっ……!!」
衝撃でラザールの足場が砕け、地面に巨大なクレーターが生まれた。
(ラザール……お前……本当に何者だよ)
黒い鎧が軋み、ところどころ剥がれ落ちて血が滲む。
それでもラザールは倒れなかった。
「……鍵は……渡させん……
お前たち影にだけは、絶対にな……!!」
影門の主がラザールを見据える。
『裏切りし者……名を捨て、影を捨て……
それでも抗うか……』
ラザールは静かに剣を構えた。
「抗う。
俺の生は……もう“こっち側”にある」
ルイの胸で黒と白が完全に暴れ、痛みが意識を削る。
(……ぐっ……!!
このままだと……俺……)
影門の主が囁いた。
『堕ちればよい。鍵。
お前は本来……“深淵側”の器……』
(違う……!)
その瞬間。
「ルイは……深淵なんかに渡さないッ!!」
セリアがルイを抱きしめた。
光翼が大きく広がり、学院全体を照らす。
その光を浴びた瞬間、黒が一瞬だけ沈黙した。
(……セリア……お前の光……本当に……)
影門の主が低く唸る。
『光の器……
お前の存在は……“不自然”……』
ラザールが薄く笑った。
「不自然だろうな。
だがその“光”がなければ、ルイは今ここにいない」
セリアは涙を流しながらルイの頬に手を当てる。
「ルイ……帰ってきて……
わたし、ずっとそばにいるから……」
白が爆発するように脈動した。
黒を押し返し、魂核が大きく鳴る。
(……戻る……!
俺は……闇に落ちねぇ……!!)
目を開いた瞬間、
影門の主の“眼”が大きく揺れた。
『……白に……触れた……!?』
学院に光が広がる。
まだ戦いは終わっていない。
だが──ルイは沈まなかった。
その光景を見て、
影門の主は低く呟いた。
『……やはり……“あの男”の系譜……か……』




