第47話:巨影襲来――学院総力戦の幕開け
その“気配”は、まず空の色を捻じ曲げた。
夕暮れだった学院の空が、ゆっくりと折り畳まれるように歪む。光は軋み、影は膨張し、風さえも息を潜める。
「……嘘だろ。魔獣のスケールじゃねぇ……」
アレンの声が震え、学院中の結界が悲鳴の金属音を放った。旧校舎の方角が、沼のように黒へ沈む。
(来たな……本門の“主力”)
胸の黒と白がざわめき合い、魂核が警鐘のように脈動する。ラザールは空を見上げたまま、わずかに目を細めた。
「……“巨影種シャドウ・コロッサス”。通常の門からは絶対出現しない、上位個体だ」
影がゆらりと揺れ、巨影が姿を現す。
人の十倍を超える巨体。黒鉄の外殻。立っているだけで大地が腐食する“影の戦巨人”。
胸の穴から、あの声が漏れた。
『……鍵……』
(またお前か……)
巨影が腕を持ち上げる。そのゆっくりとした動きだけで、学院の地面が震えた。
「全学生は避難! 教員は結界維持へ!
影討伐隊は迎撃陣を敷け!!」
校内が一斉に走り出す。サイラス教官が怒号を飛ばした。
「特待生は前へ出ろ!! アレン、ミリア、セリア……ルイ、君もだ!!」
(呼ばれるよな……どうせ)
セリアは震える肩を押さえながら立ち上がる。そこから淡く滲む金色の光は、もう隠しきれないほど強かった。
(お前……すでに覚醒寸前だ)
巨影が吠えた。影の衝撃波が校舎を薙ぎ払い、窓ガラスを粉々に砕き、地面を割る。
「ルイ……怖い……けど……逃げない」
(偉いよ。俺も……もう隠してばかりいられない)
黒がうねり、白が押さえ込む。だが、その均衡は限界ぎりぎりだった。
ラザールが一歩前へ出ると、足元の魔力が地を裂いた。銀白の刃を構えた横顔は、ただの教師ではない。
「──鍵よ。お前がどれだけ影を引き寄せる存在か……ここで証明される」
(どういう意味だよ……)
巨影が踏み込んだ。
ドォンッ!!
地鳴りが学院中を揺らし、影が壁や床から滲み出し始める。流れ込む黒は、世界そのものを染める勢いだった。
「来るぞ!!!!!」
アレンが叫び、セリアの光が弾け、ラザールが静かに剣を構える。
その刹那、ルイの魂核が爆ぜた。
黒と白が同時に脈動し、胸に焼けるような痛みが走る。
(ぐ……っ!)
影が足元から触手のように伸びてくる。何かを奪うために。
『鍵……返セ……』
(返すわけねぇだろ!!)
ルイは手を掲げ、白を解き放つ。閃光が四方に弾け、影の触手を焼き払った。
その光に、皆が息を呑む。
セリアは目を見開き、アレンは言葉を失い、ラザールだけが“理解したように”視線を細める。
「……これが……ルイ……」
巨影が咆哮し、拳を振り上げた。学院ごと押し潰す気配。
迎撃しなければ、本当に終わる。
その瞬間、セリアの全身から光が溢れた。
「ルイ……大丈夫。わたし……守るから……!」
金色の羽の幻影が彼女の背中に揺れ、光核が完全に覚醒する。
巨影が唸りを上げた。
──学院総力戦、開戦。




