第43話:学院上層部の動揺──“本門”が夜に目を開く
影門が消えた旧校舎。
しかし、空気は“消えていない恐怖”で満たされていた。
(……影門が開いたのは、偶然じゃない。
誰かが、あれを“誘導”してる)
監察局の隊長は、沈んだ声で言う。
「生徒たちはここから退避させろ。
本日より旧校舎は完全封鎖だ。」
「お、おい待て。まだ何が起きたのか――」
アレンが声を上げる。
だが隊長の視線は、生徒ではなく
“学院の奥”へ向けられていた。
◆ ◆ ◆
◆ 学院上層部“評議会室”
重厚な扉が閉まると同時に、怒号が飛ぶ。
「第二の門だと!? なぜ報告が上がっていなかった!!」
「旧校舎の管理担当はどこだ!?」
「影門の発生は王都教会への即時報告対象だぞ!?」
学院長代理の老人が机を叩く。
「……答えろ。誰が情報を握り潰した?」
沈黙。
視線が数名の教師に向けられる。
その中で──
灰色のローブの男だけが、汗一つかかず落ち着いていた。
(……あ、こいつだ。)
ルイは瞬時に察した。
そいつの周囲だけ“魔力の流れが不自然に歪んでいる”。
影の残滓の匂いがする。
「……ふむ、旧校舎の異常は単なる魔力濃度の偏りだと思っていたが?」
しれっと言う男。
(嘘だろ。あんだけドス黒い影が出てたのに)
監察局隊長が一歩前に出る。
「その言い訳……雑すぎるな。」
男の目が細まった。
「ほう、では君は何を知っていると?」
監察局は即答した。
「──“本門”だろう。」
室内の空気が凍りつく。
「第二の門が開いた以上……
本命である“本門”が動き出すのは時間の問題だ。」
「ふ、ふざけるな!
本門など、ただの伝承に――」
監察局隊長は淡々と遮った。
「旧校舎の影……
“人の残滓”を使った操影術……
あれを隠す理由は一つしかない。」
男の口元がわずかに吊り上がる。
「言ってみろ。」
「──学院に、影門の黒幕が潜んでいる。」
全員の心臓が跳ねた。
(やっぱり居るんだな……)
しかし男は笑ったままだ。
「証拠はあるのか?」
「……第二の門が開いた。それが証拠だ。」
「はっ、そんな曖昧な……」
「──そして。」
監察局は静かに言う。
「影門は、今夜“本門”を誘導しようとしている。」
(誘導……?)
男の顔が固まる。
一瞬だけ、本気で驚いた“素顔”が出た。
(確定だな、お前が黒幕側なの。)
隊長は続ける。
「本門はまだ場所を確定していない。
だが深淵の残滓は、学院の……“中心部”を指している。」
「ち、中枢……!?」
「まさか学院の結界核が……?」
「そんな、影門の中心が学院なんて……!」
◆ ◆ ◆
◆ その頃──生徒寮
寮に戻ったルイはベッドに腰掛けていた。
セリアは涙目でルイの袖を握る。
「ルイ……今日の影……こわかった……
あれ、人の声だったよ……?」
「……ああ。分かってる。」
ルイの魂核はまだ微かに黒い波紋を広げている。
(影門の黒……俺の黒……
あれ、多分……同じ“根”だ)
セリアが不安げに問いかける。
「ルイ……黒い門って……なに?」
「……まだ言えないけど、
絶対にお前を巻き込まないようにする。」
セリアは首を振って言った。
「ルイはわたしが守るの!
ルイが怖がるほうがイヤ!」
(いや……俺のほうが黒に近いんだけどな……)
その瞬間だった。
ゴッ……!!
学院全体が、低く震えた。
「っ!? 今の……地震?」
(違う……魔力の震動だ)
魂核が青ざめるほど“反応”していた。
窓の外。
学院の中央塔の上空に──
黒い亀裂が一本、走った。
(……!!)
『……鍵ヨ……』
意識の奥で声が響く。
『本門ガ……“開ク場所”ヲ決メタ……』
(きた……!)
空に走る亀裂が、大きく口を開き始めた。
黒い霧が漏れ、雷光のような線が走る。
「ルイ……これ……なに……?」
セリアの声が震えている。
(分かってる……これはもう止まらない)
深淵の声が笑う。
『来イ……鍵ヨ……
学院ノ中心デ……待ッテイル……』
ついに“本門”が学院上空に姿を現し始めた。




