第4話:幼馴染との日常と“初めての魔力操作”
生まれて数か月。
赤ん坊の身体にもだいぶ慣れてきた頃、俺はこの村のゆるい空気にも少しずつ馴染んでいた。
家の外は広い畑と森に囲まれていて、
時折風が吹くと魔力の粒がふわっと流れ、光の帯のように見える。
(やっぱり……見えるのは俺だけっぽいな)
村人たちは誰も反応しない。
その光は、俺にだけ世界の“仕組み”を教えるかのように漂っている。
「ルイ、今日も起きてる?」
例の少女──セリアが、毎日のように家に来た。
母さんと仲が良いらしく、
俺の顔を見ると必ずニコッと笑う。
「ほら、これ見て。お花だよ」
握られた小さな手に、白い花。
魔力に照らされると淡く揺れる。
(……心地いいな。なんか不思議な感じ)
セリアが俺の手を握ると、
彼女の周りの魔力がすーっと整って、まるで呼吸するように流れが均衡になる。
(やっぱり、この子……何か特別だよな)
そのとき──
俺の胸の奥、魂核がふっと熱を帯びた。
(え? なにこれ……魔力が……動く?)
意識を向けるだけで、周囲の光がわずかに集まり、
俺の手のあたりにふわりと漂った。
「……わぁ、光ってる……?」
セリアが目を丸くする。
(見えてるのか……!?)
いや、違う。
セリアの反応は“なんとなく感じた”程度。
視えてはいない。
けれど、魔力の“温度”のようなものを察知したらしい。
「ルイって……なんか、あったかいね」
(お前のほうがよっぽど不思議だよ……)
だが俺の意識は別のところに向いていた。
(……魔力、動かせる)
赤ん坊なのに、魔力操作ができている。
それも自然と。
(これ……よく考えたらとんでもないんじゃ……)
だが次の瞬間。
胸の奥で、黒い何かが“ざわり”と蠢いた。
(……っ!?)
周囲の魔力が一気に濁り、
黒い霧のようなものが手にまとわりつき始める。
「……ルイ?」
セリアが不安そうに首を傾げる。
(まずい……この黒い気配……深淵の……!!)
俺は本能的に意識をそらした。
黒い霧はスッと消え、魔力の粒だけが静かに散った。
「ふぅ……」
赤ん坊の身体なのに、思わずそんな声が漏れる。
「ルイ、大丈夫……?」
(お前のほうが怖いわけないか)
セリアは俺を抱きしめるように寄り添ってきた。
その瞬間──胸の黒は、完全に沈んだ。
(……セリアの魔力が、黒を抑えてる?)
それはまるで、
光が闇を“封じている”かのような感覚だった。
偶然なのか。
必然なのか。
今の俺には分からない。
ただ、胸の白い光──魂核の中心の“わずかな白”が、
ほんの少しだけ強く脈打った気がした。
そして、母さんが部屋に入ってきて声をかける。
「セリアちゃん、いつもルイと遊んでくれてありがとうね。
この子、大きくなったら仲良くしてあげてね」
セリアは嬉しそうに頷いた。
「うん! ルイ、大きくなったら一緒に遊ぶ!」
(……その約束、きっと俺の未来を変えるな)
そう確信できるほど、
彼女はこの世界の“鍵”になる存在だった。
そして俺は──
“世界を開く鍵”。
ふたりの出会いは、まだほんの序章に過ぎない。
(よし。次は……もう少し歩く練習だな)
深淵も、魔力も、魂核も。
全部いつか向き合わなきゃいけない。
だが今はただ、
ルイとしての日常を積み重ねていくしかない。
こうして、
俺の“幼少期の始まり”が静かに幕を開けた。




