第36話:初の“影討伐チーム戦”——アレン&ミリアと共闘
翌日。
学院の実戦訓練場は、朝から重たい空気に包まれていた。
観覧席には新入生たちがずらりと並び、ざわざわとした声が砂の上を這っていく。訓練場中央には、魔力をこめた石柱と結界柱が円形に立ち並び、内部は淡く靄がかかっていた。
「本日の特別課題──“影討伐チーム戦”。四人一組で疑似影を殲滅してもらう」
講師が淡々と告げる。声は冷静なのに、その目だけがいつもより鋭い。
(はい出た。“純粋な授業”って顔してるけど……絶対、俺の戦力チェックだよな)
説明の最中から、周囲の視線がじわじわこっちに集まってくるのが分かる。
「昨日の旧校舎の影、消したのってあの子らしいぞ……」
「いや、白髪の子じゃない? 光が爆発してたって……」
囁き声には、好奇心と少しの恐怖が混ざっていた。
(セリア……完全に注目されてるな。まあ、あの光見たらそうなるか)
「よし! ルイ、今日も頼むぞ!」
背中をドンッと叩かれて、前につんのめりそうになる。アレンがいつもの調子で笑っていた。
赤みがかった髪が揺れて、目がキラキラしている。緊張感という言葉を知らないタイプだ。
「うん、こちらこそ。よろしく」
ルイが姿勢を立て直すと、ミリアがすっと近づいてきた。銀髪が光を弾き、冷静な瞳がルイを観察する。
「ルイくん。今日こそ“本当の魔力量”を見せてくれる?」
わずかに口元を上げているが、目は笑っていない。
(やめて……本気出したら、色々オープンしちゃうんだよ)
「いや、その……出せる範囲で頑張る」
「なら、期待しておくわ」
そんなやり取りをしている間に、チーム編成は自然と決まっていた。
ルイ、セリア、アレン、ミリア。
誰かが命じたわけでもないのに、当たり前のように四人で並んでいる。
(どう見ても、これ主人公パーティだよな)
しばらくして、四人は訓練場奥の結界内へと案内された。
足を踏み入れた区域だけ、空気の色が違う。白い霧が薄く漂い、砂の上に黒い染みのような魔力が点々と残っている。
「この中に疑似影が三体以上潜んでる。連携していくぞ!」
アレンが大剣を肩に担ぎ、くるりと回しながら構えた。刃が光を受けて一瞬だけ強く反射する。
「ミリア、サポート頼む! セリアは……その、ルイと一緒に──」
アレンが言いかけるより早く、セリアがふるふるっと首を振り、ルイの横へぴたっと立つ。
「ルイは……わたしが守る!」
「え、俺、守られる側なの?」
アレンとミリアが同時に固まり、視線を交わす。
“逆じゃない?”と言いたげな顔を、二人とも全力で隠し切れていない。
(うん、そう思うよね。俺も思ってる)
霧の向こうで、何かが砂をかく音がした。
カシャ……カシャ……ッ。
白い靄を割って現れたのは、四足の影獣が三体。
漆黒の毛皮の代わりに、黒い霧がまとわりついている。
そのさらに奥で、形になりかけた人影が一つ。
人型になろうとしているのか、霧の輪郭が上下に揺れている。
ミリアが小さく息を呑んだ。
「三体じゃない……まだ後ろに……全部で六体……?」
(初心者チームに出す難易度じゃないよな、これ。
でも、今の俺にはちょうどいい。“全力は隠しつつ戦う練習”には)
影獣の一体が、牙をむいたようなシルエットで吠えかけた。空気がぴりぴりと震える。
「うおおおおおっ!!」
アレンが雄叫びとともに飛び出す。
大剣を振り抜いた軌道に風が走り、正面の影獣を横から吹き飛ばした。
「っ……重てぇ!」
手首を押さえながらも、口元は興奮に笑っている。
(パワーはあるんだけどな……力の乗せ方がガチンコすぎて隙が多い)
吹き飛ばされた影獣が砂を削りながら体勢を立て直し、アレンへ反撃しようと跳び上がる。
ミリアの足元で魔法陣が閃いた。
「《ライト・バインド》」
淡い光の鎖が影獣の四肢に絡みつき、動きを止める。
光と闇がぶつかる音が、耳の奥にじりじりと焼き付いた。
(ミリアの補助、かなり精密だな。アレンの無茶な突撃を帳消しにしてくる)
別の影獣が、今度はセリアのほうへ回り込んでくる。
霧の足跡が地面に黒々と残り、そのまま一直線に詰めてきた。
「……ルイに……触るなぁ!!」
セリアの声が震えながらも張り詰め、次の瞬間には白光が弾けた。
彼女の前に半円状の光壁が展開され、迫っていた影獣がぶつかった瞬間、弾かれてひしゃげる。
火花にも似た光の粒が、影の体からパチパチとはじけた。
(軽く叫んでこれだもんな。規格外の“光の防御”持ちすぎだろ)
だが本当に厄介なのは、その背後にじっと立つ“人型の影”だった。
黒霧がぎゅうっと凝縮され、細長い体と手足を作り出している。
目も鼻もないくせに、全身から“笑っている”ような圧が伝わってきた。
胸の黒核が、小さく震える。
『……鍵……』
(その呼び方、マジでやめろ。気持ち悪いんだよ)
人型影がふっと視界からかき消え、次の瞬間にはアレンの背後に回り込んでいた。
音もなく距離を詰める動きは、瞬歩に近い。
「アレン、後ろ!!」
ミリアが魔法陣を展開するが、影の腕が振り下ろされるほうが速い。
(ここだ……“ギリギリ抑えた一撃”を出す)
人型影の腕がアレンを叩きつけようとした瞬間、
ルイの足元で白と黒の線が同時に迸った。
「っ……!」
(暴発させない。上じゃなくて、下へ……!)
ルイは胸の魔力を一気に“地面のほうへ”叩きつけるように流し込む。
ズンッ、と低い音が訓練場全体に響いた。
足元の土が陥没し、小さなクレーターが生まれる。
バランスを崩した人型影が、足を取られて体勢を崩した。
「アレン!!」
「任せろおおおっ!!」
アレンがその隙を逃さない。
踏み込んだ足元にはまだ揺れる土煙が残っているが、構わず大剣を振り下ろした。
影の体が大きく吹き飛び、壁際まで弾き飛ばされる。
「ル、ルイ……今の……お前……」
アレンが驚いた顔で振り向く。
「いや、ちょっと魔力が漏れただけ」
(めちゃくちゃ狙って出したけどね。言わないけど)
ミリアがじっとルイを見つめる。
冷静な視線の奥で、何かを計算しているようだった。
「あなた、“魔力低い”んだよね?」
「うん。低いよ」
即答すると、ミリアがわずかに眉を寄せる。
「今の、低い魔力でやる芸当じゃないと思うんだけど……まあいいわ。仲間なら、それでも構わないし」
(……疑われてるけど、拒絶はされてない、か)
残った影獣たちは、セリアの光とアレンの剣で次々と霧散していった。
ミリアの補助魔法がそのたび正確に入り、誰も致命傷を負わない。
やがて霧は薄れ、静寂が戻る。
「よっしゃああ!! 終わったな!」
アレンが大剣を肩に担ぎ直し、その勢いでルイの肩をガシッと掴んだ。
「ルイ! やっぱお前すげぇよ!
絶対もっと強くなるだろ!!」
(いや、もうそこそこ強いんだけど……今さら言えない)
セリアは当然のようにルイの隣へ寄り、指を絡めるように手を握ってくる。
「ルイは……わたしが守るから」
(どう見ても守ってる側だよね、お前が)
戦いが終わったあとも、足元には影の残骸がじわじわと溶け残っていた。
黒い霧がふわりと昇り、中央へ集まり、やがて一本の線を形作る。
地面の上に、黒い“矢印”のような残滓が浮かび上がった。
ミリアが息を飲む。
「これ……何かを“指してる”。方向……?」
(確定だな。完全に“疑似門の本体”の位置、示してきてる)
黒核が、静かに脈を打った。
『……コッチダ……鍵……』
(分かってるよ。でも――簡単には、行かせないからな)
ルイは握られたセリアの手の重みを確かめながら、矢印の先を見据えた。




