第34話:秘密の訓練場へ――“鍵と巫女”の初陣
翌朝。
学院は昨夜の影騒ぎを「なかったこと」として扱おうとしていたが、空気は隠しようがなく重かった。
廊下を歩くたび、あちこちから囁きが漏れる。
「……結界揺れたよな?」
「光ったの見た奴いるって……」
(いや無理矢理平常運転しようとしてるけど、雰囲気もうホラーだって……)
そんな中、ルイとセリアは早朝から呼び出されていた。
向かう先は学院の深部――地下階層、封印区。
石造りの螺旋階段は冷たい空気を吐き出していた。
壁に刻まれた古代の魔法紋様が青白く反応し、二人の影が揺れる。セリアはルイの袖をぎゅっと握りしめたまま離さない。
「ここが……私たちの訓練場所なの……?」
「そうだ。」
先頭を歩くラザールの足音は一定で、呼吸一つ乱さない。
その背中だけで“並の訓練ではない”と分かる。
「君たちは通常の訓練場では危険すぎる。
魔力反応が強すぎて、結界に悪影響が出る。」
(いや完全にバケモン扱いされてるんだけど俺ら……)
階層を下るたび温度が下がり、空気が密になる。
「ここは昔の英雄、核異常者、光過剰者……
“普通には扱えない者”のための訓練場だ。」
「言い方!!」
「事実だ。」
(ですよねーー!!)
巨大な石扉の前でラザールが立ち止まり、鍵をかざした。
低い振動が足元から響き、扉がゆっくりと開く。
その向こう――
岩地が広がる広大な鍛錬場。空中に魔力粒子が漂い、薄く黒霧が流れ、光が歪んで見える“異常空間”だった。
「……っ!」
セリアの背中から白い光がふわりと溢れる。
彼女の感情と同期した光が、空間の歪みに反応したようだった。
(うわ……また半覚醒モードきた……!)
「安心しろ。
ここは光を吸収し、闇を弱らせる構造になっている。」
「じゃ、じゃあ……ルイは……?」
「黒が漏れればすぐ分かる。
だからここで“制御訓練”をする。」
(結局ぜんぶ俺の管理じゃん……!)
ラザールが足元に魔法陣を描き始める。
紫の光が走り、空気がピリピリと張り詰めた。
「まずは“軽度の影”。昨夜より弱いが……油断すれば死ぬ。」
(軽度って言い方やめろ!!怖いんだよ!!)
黒く染まった陣から、泥が沸くような音と共に影が這い出た。
ドロ……ッ。
一体だけだが、存在が濃い。形は獣のようで、呼吸音が嫌に耳に残る。
「ルイ……こわい……」
セリアの手が震えた。
ルイはその手を包み込み、指先に力を込める。
「大丈夫。俺がいる。」
(いや俺もビビってるけど!!……白、頼むぞ)
『……白……守ル……』
(マジで頼む)
「ルイ、行け。」
「えっ!? 俺!?」
「“鍵”である以上、影との対峙は避けられない。」
(はいはい……分かりましたよ行きますよ……!)
ルイは影の正面に立つ。
影が不快な唸り声を漏らす。
『……カギ……』
「やめろその呼び方!!不気味すぎる!!」
自分でツッコみながらも、黒核が反応し、すぐ白核が覆うように抑え込んだ。
(落ち着け……呼吸整えろ……いける……!)
影が突如、地面に溶けるように姿を消した。
「え!?消えた!?」
次の瞬間――足元が黒く染まる。
ドロッ……!!
(そっちかああああ!!)
影の触手が足に巻きつく寸前、
「ルイ!!」
セリアの叫びと共に白光が爆ぜた。
足元を覆う光が影を押し返す。
「今だ!!」
(分かってる!!)
ルイの手に白と黒が混ざった火花が走り、そのまま影へ叩き込む。
パチィン!!
影は悲鳴を上げる間もなく蒸発した。
「……討伐成功か。」
ラザールが近づき、目を細めて評価した。
「やはりルイ君には“影特攻”がある。
完全な光でも闇でもない、“深淵が最も嫌う波動”だ。」
(そんなRPG的スキル俺にあったの!?)
しかしラザールの表情が急に険しくなる。
「だが制御を誤れば――」
彼の手がルイの胸へ伸びた瞬間、
『……監視者……離レロ……』
黒核が荒ぶり、心臓が跳ねる。
「黙れよ黒……!」
セリアがすぐにルイの腕を掴んだ。
「ルイは……わたしが守る……絶対、飲まれさせない……!」
「ありがとう……セリア。」
セリアの光核は昨夜よりずっと強く輝いていた。
(これ……覚醒、近いな)
ラザールが一息つき、二人を見る。
「数日は影討伐訓練を行う。」
「はい……!」
「……だが“本当の目的”は別だ。」
静かな声なのに空気が鋭くなる。
「――疑似門の“源流”を突き止める。」
(おい……完全に討伐行く流れじゃないかそれ)
「影の門は学院近くに“本体”が潜んでいるはずだ。」
「本体……!」
「いずれ戦うことになる。
ルイ、セリア――覚悟しておけ。」
白と黒が同時に震え、胸の奥が熱くなる。
(……俺たち二人が、ほんとに中心なんだな)




