第33話:緊急学院会議――“鍵の子”と“光の巫女”の扱い
影襲来から数時間後。
王立学院の最上階にある会議室は、深夜のはずなのに熱気を孕んでいた。
窓の外に広がる王都の灯りだけが静かで、室内は重い圧のような空気が張りつめている。
学院長レーヴェル、上層教員、結界班、ラザール。
その視線が一点に集まる会議卓の端、そこに――
ルイとセリアも小さく座らされていた。
(いや、なんで俺も会議出席なんだよ……。子供枠とかないの?)
セリアは緊張のせいか、ずっとルイの袖を握りしめている。
指先が震えていて、その体温だけがこの部屋の中で唯一“普通”だった。
学院長レーヴェルが、眼鏡を外して深い息を吸う。
その仕草ひとつで空気が締まる。
「影性魔物の“群体”が学院結界を突破し、寮付近まで侵入した。」
低い声が響き渡り、教員たちの背筋が自然と伸びた。
「第三層結界が破られかけました。
あれは端末ではなく……“上位影体の疑似門”です。」
(疑似門……名前からして嫌な予感しかしないんだが?)
隣でセリアが小声で囁く。
「……ルイ……こわかったね……」
「だ、大丈夫。俺がついてるから。」
(いや実際は俺もビビってたよ!?)
議論はすぐにヒートアップしていく。
「影の門が開くなど前代未聞!」
「“鍵の子”が狙われているとしか思えん!」
「学院に置いておけるのか?危険すぎる!」
(待って。なんか俺の名前出るときだけ声デカくない?)
セリアがぎゅっとルイの手を握り返す。
その温かさが、喧騒の中でも確かに存在していた。
「ルイは……どこにも行かないよ……!」
「……ありがとう、セリア。」
(ほんと……お前が味方でよかった……)
イスを押す音を響かせながら、ラザールが立ち上がる。
普段穏やかな彼の瞳が鋭さを帯びた。
「ルイ君は学院が保護すべき存在だ。監察局に渡す訳にはいかない。」
「しかしラザール! 複合核など危険そのものだぞ!!」
「深淵に傾けば、王都どころか大陸全域が……!」
(傾かねぇよ……。白もセリアもあるんだから)
ラザールは一歩前に出て言い切った。
「だからこそ、隔離ではなく“管理と育成”が必要なのです。」
「……つまり特別授業を?」
「魔力制御、影対策、混合魔力訓練。
通常の一年生の範囲では到底足りません。」
(いや、俺まだ6歳なんですけど!?)
ラザールは続けた。
「そしてもう一人。セリア君も“特別扱い”にすべきだ。」
「えっ……わ、わたし……!?」
会議室がざわめく。
「昨日の光魔力は異常だった……」
「王族級光核……いや、それ以上かもしれん……」
ラザールは静かに、しかし確信を持って言う。
「二人は互いの魔力特性を補完し合う。
片方が揺らげば、片方が安定させる。
それは――“鍵と巫女”の関係です。」
一瞬、空気が止まった。
数名の教員が息を呑む音すら聞こえた。
(鍵と巫女……マジで主役設定突っ走ってるんだが!?)
重い沈黙を破るように、学院長が立ち上がる。
背後の大きな窓から差し込む月光が、白髪に反射した。
「提案する。
ルイ・アークライト、およびセリア・リフィーナを学院“特別管理対象”とする。」
(特別管理!? 今めっちゃ嫌な響きしたぞ!?)
「通常課程とは別に“裏カリキュラム”を実施する。」
(裏……絶対ろくなもんじゃない)
「さらに夜間は寮を離れ、“結界強化室”に滞在させる。」
「えぇ!? 寮、出るの……?」
「安心しろ、セリア。一緒に行くから。」
(いや……これ実質寮追放では?)
誰も反論できず、沈黙のまま会議は終わった。
教員たちが退室し、広い部屋には四人だけが残る。
さっきまでの熱気が嘘のように静まり返っていた。
セリアがぽつりと声を漏らす。
「ルイ……なんか……ほんとに……すごいことになってきたね……?」
「うん……巻き込まれすぎて笑えないやつ。」
でもルイの胸の奥から恐怖は薄れていた。
セリアの手は温かくて、白核は静かに寄り添い、黒核も落ち着いている。
(大丈夫。セリアがそばにいるなら、俺は折れない)
最後に学院長が低く警告した。
「二人とも覚悟しておけ。
これから先は“学院生活”では済まない。
世界が、確実に動き始めている。」
(だったら、俺も逃げない)
その直後。
校舎の外、月明かりの下の影がゆらりと揺れ、細い腕のように伸びた。
『……カギ……見つけた……』
影の残滓はすでに、次の“門”の準備を進めていた。




