第31話:監察局の介入と“学院長会議”
裏訓練場での影討伐を終えた直後、学院の空気だけが夕焼けとは真逆の色をしていた。王都に降り注ぐ橙の光とは裏腹に、学院の建物の内部は重い気配に押し潰されているようだった。
(……これは明らかに“普通じゃない”雰囲気だな)
その原因は、会議室の中央に置かれた黒い封蝋の封書だった。
「……王立監察局、だと?」
学院長レーヴェルの低い声が石壁に響き、室内の空気がさらに沈む。長い机には上層教員、ラザール、結界術士らが並び、誰もが目の前の封書から目をそらせずにいた。
学院に関わる者なら誰でも、この紋章が何を意味するか知っている。
(監察局……ここに来るってことは、本当にヤバいやつだ)
「影の残滓が学院結界に接触した……という報告だが、本当か?」
学院長が問いかけると、結界術士が背筋を伸ばし、硬い声で答えた。
「はい。西棟の屋根上で確認しました。痕跡は微量でしたが、“外部からの干渉”は確実です」
その一言で、会議室の温度がさらに下がる。
(やっぱり……影の連中、もう外周まで来てる)
ラザールは腕を組み、静かに視線を落とした。
「昨日、裏訓練場に現れた影と同質です」
「つまり……学院はすでに“狙われている”と?」
「それだけではない」
ラザールの視線が鋭くなる。
その目は、確信を持つ者のそれだった。
「あれは……明確に“誰か”を追っていた」
(いやそれもう俺じゃん……)
胸の奥の黒がピクリと疼く。嫌な響きが混じる。
レーヴェル学院長は、溜息を一つ置いてから言葉を続けた。
「監察局からの要求は二つある」
「要求……?」
「一つは、“深淵反応”を持つ生徒の再調査」
(……はい、俺)
「そして――もう一つは」
学院長は封書を開き、静かに読み上げた。
「“光核の素質を持つ者も併せて報告せよ”」
ラザールの表情が一気に強張る。
「光核……セリア君のことを把握しているのか……?」
「影の残滓が結界に触れた際、同時に“光の波動”も観測されたのだろう」
(セリアまで巻き込むとか……ほんとやめろよ)
ざわつく教員たちの声が一気に混じり合う中、ラザールが静かに立ち上がった。
「学院長。今回の影が深淵の端末である可能性を考えると……狙いは――ルイ・アークライト君です」
(やめろぉぉぉ!!!名前言わないで!!!)
教員たちの視線が一瞬でルイへ集中する。
肌に刺さるような重い視線が突き刺さった。
「理由は明確です。彼の魔力波動は、“光”にも“闇”にも触れている。そして何より――」
ラザールは息をひとつ整え、重く言い切った。
「複合核の兆候がある」
その言葉で会議室の空気が爆発したように揺れた。
「複合核……禁忌だぞ!?」
「記録上にすら存在しない……!」
「もし本当なら、国家レベルの危険だ!」
(ちょっと落ち着け!? 俺まだ6歳児だぞ!?)
机を叩く音が響き、全員が黙り込む。
「落ち着け!!」
学院長が全員を睨みつける。
「ルイはまだ幼い子だ! 監察局に渡す気はない!!」
(学院長……まじでありがとう……)
ラザールも強く頷いた。
「監察局は“異常個体”と判断すれば即拘束。ルイ君が連中に渡れば――」
「実験材料だろうな」
(実験材料!? おい!? その言葉選びやめろ!?)
その瞬間。
――バチッ!!
会議室の窓の外で、結界が大きく火花を散らした。
『……みィつけた……かぎ……』
(ッ!? 今の声……影のやつだ!)
黒が胸の奥でうねり、冷たい波が背骨をなぞる。
『……鍵……ここ……』
(来るな来るな来るな……!!)
「結界に外部干渉!! 黒反応急増!
向こう側から“侵食”が始まっています!!」
結界術士の叫びと同時に、ラザールが剣を引き抜く。
「構えろ!! “影”が学院まで来た!!」
(まずい……セリア……!
寮にいるセリアのところへ行かないと……!)
椅子から立ち上がった瞬間、胸の奥で白が強く脈打った。
『……ルイ……いっちゃ……だめ……』
(……セリア!? こんな距離なのに、声が直接響く……?)
黒と白が同時に揺れ、視界が一瞬にじんだ。
『……鍵……もどれ……』
『……ルイ……危ない……』
(白と黒が……同時に反応してる……!? これ……ヤバすぎるだろ……!)
学院はこの瞬間、“外から迫る影”と“内側で揺らぐ光”の両方に揺さぶられた。
ここから先が、学院事件編の本編になる。
物語は、加速を始めていた。




