第30話:学院の“裏訓練場”――ラザールの真意と、“初めての影討伐”
王立学院の敷地奥深く。
表の訓練場すら“前座”に過ぎない区域に、教師でさえ数人しか入れない封鎖区画が存在していた。
その場所を、学院ではひっそりと 裏訓練場ブラックゾーン と呼ぶ。
ラザールは振り返ることなく歩きながら言った。
「ルイ、ついてきなさい」
その声は静かだった。叱る気配はない。
ただ──“確信を掴んだ者の声音”だった。
(……これ、完全に何か気づいてるやつだろ)
隣を歩くセリアが、不安そうに袖を引く。
「ルイ……怒られちゃうの……?」
「怒られるって感じじゃないな。たぶん……見られるやつだ」
そう答えながらも、胸の奥では黒核がざわめいた。
学院は影襲撃を「魔獣の残留反応」として処理したが、ラザールだけは違う。
本物の“影”だと分かっている者の歩き方だった。
やがて鉄扉の前に立つ。
ラザールが鍵をかざすと、低い振動音とともに重い扉が開いた。
中は岩盤むき出しの広大な闘技場。
古戦場の記録を再現したような荒々しい地形が広がる。
「……え、ここ。危険なやつじゃない?」
「ここは、ただの訓練場ではない。魔王軍と戦った英雄たちが、“制御不能な魔力や異質者”を鍛えるために使った区画だ」
ラザールがそう言うと、鉄扉が閉まり、静寂が落ちた。
ゆっくりとルイのほうへ向き直る。
「まず確認する。……ルイ。お前、本気で魔力を隠しているな?」
「…………やっぱり、分かる人には分かるんですね」
セリアが慌てて前に出る。
「ラザール先生! あの……ルイは──」
「セリア、下がりなさい」
彼は淡々と言った。
「この子の魔力は“光”でも“闇”でもない。……いや、両方だな。境界にある“複合核”だ」
(完全に核心まで来てるやん……!)
ラザールは淡く笑った。
「なぜ私が気づいたか、理由は分かるか?」
「……元から鋭い人、だから?」
「それもある。だが本当の理由は──
私は《王立監察局・魔力特異班》の元所属者だ」
「えっ……監察局……!?」
「そう。異質者を専門に見てきた。だから、分かる」
(お前、ただの教師じゃなかったのかよ……!)
そのとき、岩陰から“カサ……カサ……”と音がした。
黒い影が床を這い、こちらに向かってくる。
「影の残滓……! まだ残っていたか」
ラザールが剣を抜き、構える。
「ルイ、下がっていろ!」
「いや……来るなら、止めるしかないだろ!」
影が跳びかかった瞬間、
ルイの胸の奥で白と黒がぶつかり合い、意図せず“術式”が展開した。
足元に光の陣が現れる。
「なっ……《対影陣》……!? 何百年も失われた封陣だぞ……!」
「いや! 俺も知らないですって!!」
影が陣に触れ──
バチィィィィン!!
一瞬で蒸発した。
ラザールは呆然と目を見開く。
「……陣術で……影を単独討伐……? そんな芸当、七大賢者でも容易ではないぞ……」
「ルイ、大丈夫!?」
駆け寄ってきたセリアが抱きしめる。
「うん……平気。お前がそばにいると、黒も大人しいからな」
影の残滓が消えたあと、ラザールは深く息を吐いた。
「……ルイ。君は学院……いや王国の均衡を揺るがす存在だ。だが同時に、“世界中の深淵”を引き寄せる危険でもある」
「……そんなの、俺が一番分かってますよ。勝手に反応するし……」
ラザールは静かに膝をつき、頭を垂れた。
「だからこそ──私は君の盾になる。
力を隠すなら徹底的に隠せ。表の教員には誰一人として悟らせるな。……私が前面に立ち、全部受け止める」
「……本気で、俺の味方してくれるんですか」
「当然だ。君は“守るべき存在”だ」
セリアも隣に膝をつき、ルイの手を包み込む。
「ルイはね……わたしが絶対守るの!」
「え、お前まで……」
それでも胸の奥が温まるのをルイは感じた。
(味方が……初めてできたんだな、俺)
深淵の黒が微かに黙り込む。
『……盾……監視者……ルイ……守ル……?』
(黙っとけ)
裏訓練場には静寂だけが残る。
この影討伐の情報はすぐに
学院の“裏ルート”を通って王都中枢へ運ばれることになる──
誰にも知られぬまま、ゆっくりと波紋を広げていった。
ちゃんと読んでもらえてるのだろうか……
頑張って直したりもしつつコツコツ頑張りますね。




