第29話:特別授業“魔力操作実戦”──滲む力
影襲撃事件の翌日。
学院は「通常通り」の顔をして授業を再開したものの、
生徒も教師も昨日の異常を忘れられない様子だった。
(……まだ空気に残ってる。影の残り香だ)
魂核の黒が小刻みに震える。
『……外ニ……残滓……一……二……屋根……』
(やっぱり外壁に張りついたままか)
白が淡い光を返す。
『……気ヲ付ケテ……ルイ……』
(白も……セリアの影響で、ほんの少し強くなってる気がするな)
午後。
学院中庭では、リィナの大声が響いた。
「今日から“魔力操作の基礎”に入る!
広げる、縮める、形にする──ぜんぶやってもらうぞ!」
(うわ……これが一番危険なんだよ……
俺は“漏らしたら終わり”なんだって……)
周囲の生徒たちは思い思いに魔力を出し始めた。
「うおおっ!? 指しびれた!!」
アレンは剣の形に伸ばして自爆。
「この程度、基礎の基礎よ」
ミリアは綺麗な光球を安定して出し、得意げに胸を張る。
「……ひかる……? あれ……止まらない……」
セリアは白光がふわふわ漏れ続けていた。
(半覚醒の影響がもう出てる……昨日の共鳴で“開花寸前”状態だ)
「じゃあ次、ルイ!」
(来た……!! 避けられるわけがない……)
中庭の中心に出ると、
ラザールが腕を組みながら“観察対象を見る目”でこちらを見ていた。
(絶対俺のこと研究材料扱いしてるだろ……)
リィナが言う。
「ルイは魔力量ゼロって言われてるけど、
昨日の結界揺れで名前が出てた。しっかり見させてもらうぞ!」
(いや、ほんとに見ないでくれ……!!)
(……漏らすな……白も黒も絶対動くな……!)
胸の奥の二つの核を押さえ込みながら、
そっと指先へ魔力を通す。
白『……ルイ……がんば……』
黒『……抑圧……反動……来ル……』
(黙れッ!)
ほんの“ひとかけら”だけ魔力を流した――はずだった。
ビキッ……。
(……は?)
指先に、黒い霧が勝手に滲み出た。
(おいおいおいおい……!?
制御効いてないんだけど!?)
白核が慌てて覆いに来る。
『……止メル……!!』
白と黒が指先でぶつかり合い――
パチィン!!
空気が弾け、生徒たちが悲鳴を上げた。
「今の何!?」「空間が揺れたぞ!」
リィナが目をむく。
「ルイ!? 何したの!?」
「な、なんもしてないです……!」
(ほんとに何もしてないんだって!!)
そのとき、ラザールが静かに歩み寄ってきた。
一歩ごとに“魔力”ではなく“圧”がかかる。
「……魔力が二種類、同時に動いたな」
(うわ……完全にバレかけてる……!)
「白と黒。
相反する魔力が同じ核から……興味深い」
(その“興味”の向け方やめて!!)
「ルイ。
君は魔力を“制御”しているんじゃない。
“押さえつけて”いるんだろう?」
(ッ……!!)
黒核が警告のようにざわめいた。
『……覗イテイル……コノ者……危険……』
(ほんとに核の奥を覗こうとしてる……!)
ラザールが俺の肩に触れた瞬間――
『……触レルナ……!!』
黒が跳ね、白が広がり、
胸の奥でドクンッと核が脈打った。
(……脈動が……強い……!)
ラザールの目が鋭く細まる。
「……君の奥で“何か”が蠢いているな」
(それ深淵の主……いや言えないけど!)
「ルイ!!」
セリアの白光が突然溢れ出した。
足元から光の粒が舞い上がる。
「え……? なにこれ……」
(覚醒寸前だ……!)
ミリアが驚愕する。
「そんな……王族級光魔法の《芽》……?」
アレンも叫ぶ。
「セリアって……こんなにすげぇのかよ!?」
(違う……半分は俺のせい……!)
そこへ黒ローブが影のように現れた。
──王立監察局 特務監察官・カイ。
「……また興味深い反応が出ましたね」
(絶対この人、近くで張ってたよな……)
リィナが怒鳴る。
「なんで監察局は、面白い現象があると湧いてくるんだ!!」
「職務ですので」
カイは俺の胸を見つめ、淡々と言った。
「光と深淵……混ざり合う核。前例のない形ですね」
(前例ないと言うな……余計怖いから!!)
「──ルイ君。
近いうちに“個別面談”をお願いしたい」
(いやだ!!)
授業後。
(……まだ気配がある)
黒核が囁く。
『……屋根……影……残存……』
見上げると寮の屋根の端。
黒い“目”のような霧が貼り付いていた。
『……カギ……』
(確定だな。学院で何か起きる)
黒がさらに続ける。
『……“門”…開ク……
試練……間モナク……』
(試練……これは“学院最初の事件”の匂いしかしない)
夜。
白核が小さく震えた。
『……セリア……開花……近イ……』
(セリアの覚醒……事件の引き金になりかねない)
黒核は静かに、しかし不気味に囁く。
『……深部……動ク……
“主”ガ……覗イテイル……』
(深淵の主……完全に俺をロックオンしてるな……)
窓の外では、黒い影が
ゆらりと“笑った”ように揺れた。




