第3話:魔力が視える赤ん坊 そして“魂核”の異常
生まれて数日。
俺──ルイは、赤ん坊の身体に慣れるどころか、驚きの連続だった。
何より驚いたのは──
(……世界が光ってる)
周囲に、ふわふわ浮かぶ粒子のような“光”が見えるのだ。
空中を漂い、風とともに流れ、時に濃く、時に薄く形を変える。
視界いっぱいに広がるその輝きは、前世にはなかったもの。
(これ……魔力、だよな?)
そう理解したのは、本能的な感覚だった。
ただの光じゃない。
触れれば反応する。
意識すれば流れが変わる。
(しかも、これ……俺に集まってきてないか?)
周囲の魔力が、まるで磁石に引き寄せられるように俺へと流れ込んでいた。
理由は分からない。ただ、普通じゃないことだけは確かだ。
さらに──
(……胸の奥、熱い)
小さな身体の中心、心臓の少し下あたり。
そこに“球体のような力”が渦巻いているのが分かる。
(魂……核?)
そう感じた。
魂の中心に宿る核──魂核。
しかしその色が、普通じゃなかった。
(みんなは淡い光なのに……俺のだけ、真っ黒だ)
黒い霧が幾重にも絡まり、
中心にだけ微かな白い光が脈動している。
まるで“深淵”と“光”が同居しているような、不気味な光景。
(これ……絶対やばいやつ)
そんな俺の頭の中に、ふっとかすかな気配が走った。
『……見えているか。さすがは鍵よ』
(うわっ!? まだいるのかよ!!)
あの暗闇で聞いた声だ。
だが前より遠い。もうすぐ消えるような薄さ。
『魔力に触れ、魂核の異常に気付くとは……実に面白い』
(全然面白くないんだが!?)
『安心するな。
お前の核が“黒い”のは必然。
だが中に残る“白”こそ、お前がお前である証だ』
(白い光……?)
『いつかお前は選ぶだろう。
黒へ沈むか、白を貫くか』
(おい、それどう考えてもフラグだろ)
『良き選択を。
そして……この世界を壊すなよ、鍵よ』
(待て! 壊すって何だよ!?)
『いずれ分かる。余はもう去る』
(いや説明不足!!)
声は完全に途切れた。
赤ん坊の身体でも分かる。これが最後だ。
聞きたかったことはいっぱいある。
深淵って何なのか。
俺は何の“鍵”なのか。
黒と白の意味は?
未来に何が起きる?
でも──答える者はいない。
(……まぁ、焦っても仕方ないよな)
そんなことを考えていると、
部屋の扉が開き、小さな足音が近づいてきた。
「赤ちゃん、起きてる?」
幼い声。
覗き込むように顔を近づけてきた少女。
陽だまりのような金の髪。
澄んだ青い目。
ふわっと微笑む無垢な表情。
村の家の子──セリアだった。
「わぁ……きれいな目……。ルイって言うんだね」
(この子……)
彼女を見ると、魔力の光がふわっと揺れた。
普通の人には見えないはずの魔力が、セリアの周りだけ妙に整っている。
(……なんか、ただの幼女じゃなさそうだな)
そう思った瞬間、彼女が俺の手をそっと握る。
「ふふ……不思議。なんかあったかい」
その言葉に、胸がドクンと鳴る。
(セリア……お前、俺の“異常”、気づいてる?)
このとき俺はまだ知らなかった。
彼女が“巫女の素質”を持ち、
ルイの秘密に最初に気付く人物になることを。
そして──
後に命を賭けて彼を“光へ引き戻す”存在になることを。




