第28話:学院初夜――揺らぐ魂核と“白の覚醒”
影襲撃事件から数時間後。
学院は一応“通常通り”を装っていたが、空気は落ち着ききれなかった。
生徒たちのざわつきは消えず、結界が揺れた瞬間の異様さがまだ残っている。
(あれを“何もなかった”で押し通すには無理があるだろ……)
「結界が揺れたって本当?」
「影が侵入したって噂……やばくない?」
そんな声を背に、俺はセリア・アレン・ミリアと寮へ戻った。
部屋に入ると、セリアが不安げな目で俺を見つめる。
「ルイ……あの影……絶対ルイを見てたよね……」
(ほんとに、こいつは本能で察知するタイプだよな……)
セリアは布団に座りこみ、胸を押さえて震えていた。
「胸が痛かったの……影が結界を叩いたとき……
“離れろ”って言われたみたいで……」
(それは光核の反応だな)
魂核の白がセリアに寄った瞬間、ふっと光を灯す。
『……白……同ジ……“核”…』
(セリアの光核が……俺の白と共鳴してる)
黒核は怯えるように囁いた。
『……白……強イ……守ル……同ジ……器……』
(いや……守られてんの俺のほうなんだが)
消灯後。
部屋が静まった頃、胸の奥で黒核が突然“真っ黒”に染まった。
(うっ……!)
『……深部……開ク……!!』
(開くな開くな開くな!!)
黒が渦を巻き、視界に“黒い文字列”のようなものが浮かぶ。
(前より……はっきり見える……)
『……カギ……戻レ……“主”ノ元ヘ……』
「戻らねぇっての!! 二度と行かねぇ!!」
白核が強烈な光を放ち、黒を押し返した。
しかし白も明滅し、息を荒げるように揺れている。
『……黒……深クナッタ……
“影”…主ノ……力……分身……』
(昼間の影……深淵本体の端末か……ほんとやめてくれ)
そのとき、勢いよく扉が開いた。
「ルイ……!」
裸足のまま駆け込んだセリアが、俺に抱きついてきた。
「胸が痛いの……!
ルイのところに……来ないとダメって感じがして……!」
(完全に核反応の共有じゃん……)
セリアが触れた瞬間──
ドンッ!!
白核が光の波を放ち、部屋が一気に明るくなる。
『……白……強イ……“光核覚醒”…前兆……』
(やっぱり覚醒ルート入ってる……)
セリアは必死に抱きしめながら震えていた。
「ルイが苦しいと……
わたしも苦しくなっちゃう……どうして……?」
(それは……お前が“鍵を導く巫女”だからだよ)
白核が静かに告げる。
『……光ノ巫女……
鍵ヲ導ク……者……』
(巫女ポジ、ガチで確定か……)
セリアの光が広がるたびに、黒核は抑え込まれ、白核は安定していく。
(……支えてくれてるの、完全に俺のほうなんだよな)
窓の外から、弱々しい声が聞こえた。
『……カギ……』
(またか……)
その声は今までよりずっと弱い。
『……学院……外ニ……“門”…開ク……
“試練”…近イ……』
(試練……? 深淵、俺に何させようとしてんだ)
黒核が不気味に囁く。
『……試練……主ノ……“贄”…
堕トス……準備……』
「縁起でもねぇこと言うな!!」
セリアが抱きしめながら心配そうに言う。
「ルイ……怖い夢見てるの……?
大丈夫……?」
(大丈夫じゃねぇよ……でもお前がいるから耐えられる)
同じ頃、学院最上階ではラザール・リィナ・学院長セレスタが密談していた。
「鍵の反応……予想より早い」
「深淵の影も動いたな。結界が破られるのも近い」
「白と黒の混合核……もう放置はできん」
リィナが険しい表情で問う。
「あの子は“危険”か?
それとも“希望”か?」
学院長は短く答えた。
「──そのどちらでもある。
だが彼がいなければ、この世界は守れない」
ラザールが言葉を重ねる。
「扱いを誤れば……世界が滅ぶ」
(おいおい……俺の人生、重すぎるだろ)
その夜。
セリアは俺の横で眠りについた。
柔らかな光が暴れた黒核を包み込み、静かに和らげていく。
(……ありがとな)
白と黒が重なるように脈打つ。
『……白……安定……
“覚醒”マデ……残リ……少シ……』
(セリアの覚醒……絶対なんか起きるやつだよな)
窓の外の影は薄れ、夜がゆっくりと過ぎていく。
だが分かっていた。
(これはまだ“序章”)
(本番は、学院事件からだ)
深淵の影。
魔王軍の気配。
学院内部の思惑。
──すべてが、“ルイ”を中心に動き始めていた。




