第26話:初授業―隠す者と“見抜く目”
入学式から一夜が明けた。
王立魔導学院の朝は、昨日よりもさらに張り詰めた空気に包まれていた。
今日から正式な授業──
新人をふるい落とすことで有名な“初期適性授業”が始まる。
(強さを隠す方が、試験より難しいんだよな……)
魂核の白と黒は静かに脈動していた。
『……白、安心……光ガ多イ……』
『……黒……外ニ……影ガ一……二……近ヅイテイル……』
(昨日も窓から覗いてたし……魔王軍か、深淵の偵察体か)
1-A教室に入ると、すでに数名の生徒が席に着いていた。
「おーい、ルイ! 今日から本番だな!」
アレンが元気よく手を振る。
「凡人扱いのわりに騒がしいわね。授業でボロを出さないでよ?」
ミリアが腕を組んだまま刺すような視線を向ける。
(ツンデレの機嫌、今日も絶好調……)
セリアは袖をぎゅっと握り、不安そうに見上げてきた。
「ルイ……最初の授業……大丈夫かな……」
「平気。むしろ俺が気をつけるのは、強すぎてバレる方」
(ほんとそれ)
チャイムが鳴り、教室の空気がピンと張った。
白銀の髪を持つ男が静かに入ってくる。
(……雰囲気が普通じゃない)
魂核の黒がビリッと震えた。
『……嫌ナ目……隠レタ“上位”……』
(上位魔術師……?)
男は教壇に立つと、静かに名乗った。
「はじめまして。
このクラスの“魔力理論・基礎担当”──
ラザール・ヴァンデルトだ」
「ヴァンデルトって……王家直属の……?」
「S級魔導師だろ!? なんで新人授業に……?」
(特別候補生が三人もいれば、そりゃ“上”が来るよな)
ラザールの視線が教室をゆっくり巡り、
一瞬だけ俺の目に止まった。
(見てる……いや、“覗かれてる”感覚だ)
授業が始まり、ラザールは魔力理論を淡々と説明していく。
「魔力とは自然魔力と魂核の共鳴で発生する。
だが――“魂核そのものが歪んだ者”も存在する」
(初っ端から俺に刺してくるのやめろ)
セリアが小声で呟く。
「ルイ……あの先生……なんか怖い……」
(分かる。全部見透かすタイプだ)
その時、ラザールがふいに言った。
「では……前に出てもらおう。
ルイ・グレイフィールド」
(はぁぁぁああ!?)
「なんでいきなり……?」
ミリアが思わず声を出す。
「ルイ……気をつけろよ……?」
アレンが心配そうに言った。
(気をつけたいのはこっちなんだよ……完全に狙われてるじゃん)
前に出ると、ラザールは低く呟く。
「……噂の“魔力量ゼロ”か。
だが私は信じていない」
(っ……バレてるフラグが立った!!)
ラザールは俺の目を覗き込む。
「君の魂核……“普通ではない”。
だが、何なのか誰にも掴めていない」
(白と黒の複合なんて例が無いんだから当然だ)
指を鳴らし、ラザールが言う。
「魔力操作の基礎──
“魔力火花スパーク”を見せてもらおう」
(いやそれ……魔力量モロに出るやつじゃん!?)
少しでも強く出せば終わる。
(……絶対に抑えろ。白も黒も……動くな……)
手を上げ、魔力を極限まで抑えながら表面にだけ流す。
指先に──
パチ……。
淡い火花が弾ける。
(よし……本当に最低限だけ……!)
「おお……!」
「意外とやるわね……」
「ルイ……すごいよ……!」
(すごくねぇよ!? 汗だくだぞ俺!!)
だが──ラザールは違った。
「……ふむ。
“漏れを抑えている”な」
(ぎゃああああああ!!!)
ラザールが俺の肩に触れた瞬間──
魂核が大きく揺れた。
『……ッ……!!』
(触れただけで魂核に響くって何者だよ……!)
ラザールは小声で呟く。
「……白と……黒……?
いや……この混ざり方は……異常だな」
(完全にバレてるんだけど!?)
だが、大きな声ではこう言った。
「──君は、“不思議な子”だな。
評価は後日行う。戻れ」
(絶対“後でじっくり調べる”気だ……!)
席に戻るとアレンが笑う。
「すげえじゃんルイ!」
ミリアは鋭い目で言う。
「隠してるでしょ? あなた」
(今日はもう休ませてください……)
隣ではセリアがほっとしたように微笑んだ。
「でも……ルイ、かっこよかったよ……!」
(俺の火花そんなイケメン技じゃなかったはず……?)
その瞬間──魂核の黒が鋭く唸った。
『……窓……外……“影”ガ近ヅイテイル……』
(またかよ!!)
見ると、黒い霧のような“何か”が
学院の結界に触れようとしていた。
霧はまるで“俺を探すように”ゆっくり形を変える。
(深淵……? 魔王軍……?
いや……もっと嫌な種類の気配だ)
ラザールも気づき、ゆっくり言った。
「……来たか。
“外の影”が本格的に動き始めたな」
(本格的って何!? 初日だぞ!!)
こうして学院初日の授業は──
“凡人演技 vs 見抜く教師”の攻防と
外から迫る“影”の侵入により、
ただの授業では終わらなかった。




