第17話:森に潜む“影”深淵偵察の気配
村を出て半日。
街道へ向かうため、森の中の小道を歩いていた。
朝の光は穏やかで、木々は綺麗に揺れている。
しかし──空気だけは妙に冷たい。
(……嫌な感じがする)
魂核の奥で、黒がゆっくり揺れていた。
白も反応している。
まるで“外敵がいる”と警告しているように。
◆
先頭を歩くエリオットが足を止めた。
「……誰だ」
森の奥をじっと見つめる。
父さんが警戒し、母さんが俺を抱える腕に力を入れる。
「魔獣か?」
「いや……魔力の質が違う」
(そりゃそうだろ。あいつらだよ……)
深淵側の“偵察魔”。
魔王軍の情報収集部隊みたいなやつが、
村の異常に気付いて様子を見に来るのは想定済みだ。
エリオットは剣に手をかけたまま動かない。
「……気配を隠している。
だが分かる……
“こちらを観察している目”だ」
(教会のやつ、感はいいんだよな……性格以外は)
◆
その瞬間、森の奥の影が――
“スッ”
不自然な動きで揺れた。
「っ……!!」
母さんが思わず俺を抱きしめる。
エリオットは即座に前へ出た。
「名乗れ。
応じぬなら、敵と判断する」
返事はない。
ただ──静けさだけが深くなる。
(やばい雰囲気になってきたな……)
魂核がビリビリ震える。
『……鍵……』
(来た……!)
◆
黒い影が、木の上から“落ちるように”降りてきた。
人型だが、完全に黒い靄に包まれた存在。
手足は細長く、目の位置には紫の光。
『……見つけた……鍵……』
低い声が森に響く。
「深淵系……!?」
エリオットが剣を構えた。
「な、何だあれは……!」
父さんが後退る。
「魔獣じゃない……人でもない……」
母さんの声が震えている。
(偵察魔だろ……くそ、面倒なの来た)
◆
『……鍵……還レ……
主ノ許ニ……』
(いや帰らねぇよ)
影の視線が、明確に俺へ向けられる。
その瞬間、魂核の黒が爆発しそうに揺れた。
(あっぶね……!
セリアいねぇと黒が制御効かねぇ……!)
黒が“応答しよう”としている。
しかし。
白がふわりと揺れて、黒を包みこんだ。
静まれ、と。
(助かった……お前ほんと優秀だな白……)
◆
『……抵抗……確認……
排除シ……奪還スル……』
「来るぞ!!」
エリオットが叫ぶ。
影が地面を滑るように迫る。
異様な速度。
「ルイを守って!!」
母さんが叫び、父さんが前へ出る。
しかし影は一瞬で距離を詰め──
「っ……!!」
エリオットの剣が、影の腕を切り裂いた。
黒い霧が散る。
『……光ヲ……持ッテイル……?』
「当然だ。
教会騎士を舐めるなよ」
(いや……お前光属性持ちだったんかい)
◆
影は再び俺の方へ向かう。
(来るっ……!)
魂核が反応し、俺の体が反射的に手を伸ばした。
白と黒が同時に脈動。
指先から──
“バチッ”
白黒の混じった微弱な衝撃が走った。
『……ッ……!?』
影の脚が揺らぐ。
(え?今……俺……攻撃した?)
エリオットも父さんも目を見開いた。
「今の……赤ん坊の……?」
「ルイ……!?」
(いや、俺もびっくりしてる)
◆
影は後退し、
震えるように体を揺らす。
『……複合核……確認……
危険……退避……』
そして霧に溶けるように森の奥へ消えた。
「逃げた……?」
「いや……様子をうかがっているんだ……」
「なんて恐ろしい……」
(マジか……
また俺、バレたじゃん)
エリオットが俺を見て、呟いた。
「赤子が……“深淵の霧”を弾いた……
信じられない……」
(俺も信じてない)
◆
母さんが泣きそうな声で抱きしめた。
「ルイ……怖かったね……!」
(いや、怖かったのは俺じゃなくて影の方だろ)
魂核は静まり返っていた。
遠くで黒が、薄く囁く。
『……来イ……鍵……
主ハ……待ッテイル……』
(誰が行くかバーカ)
こうして、旅は最初から波乱の連続となった。




