第16話:旅立ちの朝、そして“見送り”
――出発の朝。
まだ陽は昇りきっていないのに、
村の入口には多くの村人が集まっていた。
俺を抱く母さんも、
荷物を担ぐ父さんも、
どこか決意を固めた顔をしている。
(ついに……村ともお別れか)
魂核は静かだった。
だが深く沈んだ黒が、かすかに脈打っている。
“ここから先の世界は、簡単じゃないぞ”
と言っているように。
◆
「ルイ!」
セリアが駆け寄ってきて、俺の服をぎゅっと握る。
「……行っちゃうの?」
(いや、泣くな……やめてくれ……)
まだ旅に出るだけだ。
学院に行けばまた会える可能性だって高い。
だが、幼いセリアにそんな理屈は通じなかった。
「ルイがいないと……
わたし、また怖くなるよ……」
(お前の白の方が強いんだよ……)
俺の魂核が白く瞬いた。
セリアはその光に気づくと、
涙目のまま微笑んだ。
「……うん。待ってる。
ずっと、ずっと……待ってるから」
セリア母が肩を抱き寄せる。
「大丈夫よ。
いつか必ず、また会えるわ」
(会えるどころか、同じ学院に入る伏線が立ちまくってる)
◆
その時、背後から声がした。
「準備は整っているか?」
振り向くと――
白い外套の青年が立っていた。
(おいおい……教会の“同行者”かよ)
昨日の調査班とは別の人物らしい。
しかし胸の紋章は同じ“教会”のもの。
「私はエリオット。
王都までの護衛兼、監視役を務める」
(監視って言っちゃうタイプね……)
父さんが苦い顔をする。
「……あまり子どもを疑うような真似は」
「任務です。」
(こいつ、絶対融通きかねぇタイプだ)
◆
と、その瞬間――
森の奥で黒い霧が揺れた。
誰にも見えないほどの微かな波。
だが、
俺の魂核はビクリと反応した。
『……行かせはしない……鍵よ……』
(またかよ……)
黒い霧の気配に、白がふわりと広がる。
黒を押し返し、沈黙させる。
「ルイ……?」
セリアが首をかしげる。
(なんでもない。多分“魔王軍の偵察”が近くにいるだけだ)
そう思った瞬間、
リオネルが剣の柄に手を置いた。
「……今、何か……感じたか?」
(この人、感覚鋭すぎん?)
深淵の気配を“薄く”感じ取れるタイプらしい。
後の伏線にもなる。
◆
村長が前へ歩み出た。
「ルイ……
この村は小さく、守れるものも限られている。
だが王都は違う。
そこなら……お前を育てることができる」
(育てるとは言ってないが……)
だが、今は素直に受け入れておく。
行くしかないのだ。
◆
「ルイ!!」
セリアが最後に俺を抱き寄せた。
「ぜったい……帰ってきて。
わたし、ずっと祈ってるから……」
白い光が、花のように広がる。
それは俺の魂核に優しく重なり、
黒い影を完全に鎮めた。
(……ありがとう)
◆
父さんが歩き出す。
「行くぞ、ルイ」
「王都は遠い。
だが必ず辿りついてみせる」
エリオットが先導に立った。
「では、出発します。
“鍵候補”ルイの護衛任務を、開始する。」
(言い方ァ!!)
村を出る瞬間、
セリアが精一杯の声で叫んだ。
「ルイーー!!
また会おうねええええ!!」
(……うん。またな)
こうして――
俺たちの旅は始まった。




