第12話:王都からの封書と“黒の呼び声”
その日の昼過ぎ。
空気は澄んでいるのに、胸の奥だけがざわつく。
(昨日の黒い痕跡……絶対あれ“魔王軍の端末”だよな)
魂核の奥で黒が微かにうねる。
まるで何かを“警戒し、探している”みたいに。
「ルイ、おはよ」
セリアが笑顔で手を振ってくる。
(お前見ると黒い気配全部消えるのマジで何なんだ)
本当にセリアは“白の核”を持つ存在なんだと思う。
◆
村の中央では朝から騒がしい声が上がっていた。
「王都から……手紙だと?」
「こんな村に来るなんて珍しいぞ」
その中心で、セリア母が王都の紋章入りの封書を持っていた。
「……セリア。あなたに関わる内容よ」
「え……わたしに?」
(来たな……“巫女の血筋”の伏線)
セリア母は封書をゆっくりと開き、内容を読む。
「王都教会より通知──
“光属性の素質を持つ者がこの村にいる可能性あり、
今後正式に調査を行う”……だそうよ」
「し、調査……?」
セリアが不安そうに俺の手をぎゅっと握った。
(なるほど……もう教会の探知に引っかかったか)
教会は“光の器”を徹底的に探している。
天使勢力との繋がりもあるから厄介だ。
その時、リオネルが横から口を挟んだ。
「珍しいですね……王都が動くなんて。
ですが確かに、セリアちゃんの魔力反応は──」
「リオネルさん、」
セリア母の目が鋭くなる。
「言わないでちょうだい。
娘のこと、軽々しく口にしてほしくないの」
「……失礼」
(こえぇ……この家系、絶対只者じゃない)
◆
その後、リオネルは俺の方をちらっと見た。
完全に“意図的に観察してる目”だった。
(やべぇ。完全に怪しんでるじゃん)
「ルイ君……昨日より魔力が安定しているようだね。
君、本当に……何者なんだろう?」
(赤ん坊だが?)
だが心臓がドクンと跳ねた瞬間──
俺の魂核から、白い光がスッ……と滲み出た。
(……あ、出せるようになってきたな白……)
少しだけ意識して呼吸すると、
白い光は胸の奥で丸く収束し、黒を押し込む。
(よし……白魔力の制御、安定してきた)
その瞬間。
「……ッ!?
今、黒い残留が一瞬消えた……?」
リオネルが辺りを見渡した。
(ごまかせた……?)
リオネルの眉が寄る。
「……本当に、この村……何が起きているんだ?」
(俺だよ。たぶん全部俺だよ)
◆
夜。
その日は風が不自然に弱く、
森の方が妙に静かだった。
その静けさが逆に“何かを隠している”みたいな感じで、
胸の奥の黒は徐々にざわめき始める。
『……鍵……』
(まただ……昨日より強くなってる……)
寝ていたはずのセリアが、ふと目を覚ました。
「ルイ……泣いてる?」
(泣いてない。黒が暴れてんだ……)
魂核の黒い霧がドロッと波打つ。
昨日より圧が強い。
息が少し苦しくなるほどだった。
「ルイ……!」
セリアが俺を抱きしめる。
瞬間──
光が走った。
(お、おっ……!?)
魂核の黒が一気に静まる。
白が黒を包み、完全に押し返した。
黒い囁きが、すべて消える。
『…………』
深淵の声すら沈黙する。
セリアは震えながら俺を抱いた。
「……ルイ、怖かった……
胸が、痛くなるくらい……」
(ごめん……お前を巻き込んでるんだよな本当は)
でもそのおかげで、
俺は深淵に飲まれずに済んでいる。
セリアは涙目のまま微笑んだ。
「ルイはね、絶対わたしが守るんだから」
(いや……お前が一番守られてる側だろうがよ)
けれど今だけは、その言葉を否定できなかった。




