第19話:影の使徒との激突──深核暴走の予兆
旧礼拝堂の空気は、まるで水のように重かった。
黒い霧が床から滲み、
古びたステンドグラスが“黒い涙”を流すように歪む。
『……鍵……』
(こいつ……完全に“俺だけ”狙ってる)
影の使徒はゆっくりと歩み寄る。
人型だが、皮膚の代わりに“影”が蠢き、
顔には表情も口もない。
ただ一つ――
胸の奥の“赤黒い核”だけが脈打っていた。
◆
「ルイ、下がれ!!」
ユリウスが叫び、剣を抜く。
だが影の使徒は、
ユリウスの動きを“見もしない”。
『……関係ナイ……
鍵……ダケ……喰ラウ……』
「ッ!!」
時空が裂け、
影の手がルイへ一直線に伸びる。
近い。
速い。
さっきのフラグメントより数段上。
(まずい――!)
ルイは咄嗟に黒核を引き出す。
深核が脈動し、瞬間的に影を払うように爆ぜる。
「っ……!」
(やべ……これ、制御効いてない……!)
◆
ラザールが影の使徒に切りかかる。
「《影断ち・零》!」
黒い軌跡が放たれ、
影の使徒の腕を斬り飛ばす。
だが――
ズル……ッ
切り口が黒い液体のように再生する。
ミネルが顔を歪める。
「再生速度が……早いっ!!」
「普通の影じゃない……!」
(いや、これ……
影門事件の“奥の影”と同じ匂いがする……!)
◆
影の使徒が再び腕を伸ばす。
標的は――ルイ、一点。
『……黒……呼ンデイル……』
「……!!」
深核が脈動した瞬間、
ルイの視界が一瞬だけ“黒く塗り潰される”。
(っ……!
来た……暴走の前兆……!)
頭の奥で、声がする。
『……タリナイ……もっと……出セ……』
(だめだ……これ以上引き出したら……俺じゃなくなる)
◆
「ルイ!!」
ユリウスが割って入ろうとするが――
「あいつ、俺以外を“見てない”!」
影の使徒がユリウスを無視して、
縛りつくようにルイへ迫る。
まるで――
深核に吸い寄せられているようだ。
◆
「仕方ねぇ……!」
ルイは息を吸い、
深核を“ほんの一瞬だけ”解放する。
黒い紋様が腕に浮かび、
瞳が金色から黒金へ変化する。
(0.1秒だけなら……暴走しない……はず!!)
黒い力が咆哮した。
「――《影咬きシャドウ・ファング》!!」
深核由来の上位技。
本来なら影狩り部隊でも扱える者はほとんどいない。
黒が獣の牙のように実体化し、
影の使徒の胸核を噛み砕こうとする。
『……ガ……ァ……』
一瞬押し込む。
だが――
『……足リナイ……鍵……ノ……闇……』
(まだ再生する!?)
影の使徒の全身が“第二段階”のように膨張した。
ラザールが叫ぶ。
「ルイ!!これ以上深核を使うな!!
暴走する!!」
「分かってるけど……!!
止めないと――!!」
◆
その時。
ルイの胸元で、
微かな“白”が灯った。
(……え?)
セリアはいない。
だが――
光核が、ルイの暴走を“自動で”抑制している。
『……白……邪魔……』
影の使徒が初めて“敵意”を露わにした。
(やっぱり……セリアの光だけは、相性が真逆なんだ……)
◆
ルイは深呼吸し、黒と白を同時に引き寄せる。
(大丈夫だ……
光核がいる限り、黒は暴れない……!)
「いける……!」
◆
影の使徒が吠え、
深淵の残滓が爆ぜる。
『鍵……喰ラウ……闇ノ……主……望ミ……』
「誰がてめぇなんかに“食われるかよ”!!」
ルイはデュアルブレードを構え、
黒と白を同時に通す。
「――《双核斬・断影デュアル・スラッシュ》!!!」
黒と白の奔流が一閃し、
影の使徒の胸核を“正確に貫いた”。
◆
影の使徒は、
苦しげな呻きを漏らし――
『……マ……タ……会ウ……鍵……』
そのまま霧となって消滅した。
(……はぁ……はぁ……
やばかった……完全に押されてた……)
◆
「ルイ!!」
ミネルが駆け寄る。
「大丈夫!?
さっきの、絶対暴走しかけてたでしょ!!」
「……ちょっとな」
ルイは苦笑しながら胸を押さえる。
(セリア……ありがとう。
お前の光がなかったら……俺、戻れなかった)
◆
ラザールは影の残滓を確認しながら言った。
「……これはただの使徒じゃない。
“深淵側の意志”を帯びている。」
「どういうこと……?」
「おそらく……
深淵は完全に“ルイを鍵として認識した”。」
(……また規模デカい話になってきたな……!!)
◆
ユリウスが険しい顔で告げた。
「ルイ。
お前はもう“王都の事件”だけじゃ済まない。
深淵そのものが、お前を見ている。」
(っ……そんな……)
「覚悟しろ。
次は――もっと重い任務になる。」
◆
こうしてアンダーブルグでの初戦闘は幕を閉じた。
だがこの戦いは――
“影の序章”にすぎない。
次に来るのは、
もっと大きな闇。
深淵はルイの名前を、すでに“知ってしまった”。




