第18話:アンダーブルグ潜入──“影孤児”との遭遇
アンダーブルグの路地裏は、昼間なのに“夜の匂い”がした。
薄暗い建物。
崩れかけた石段。
排水路に漂う鉄と土のような臭い。
そのすべてが、ルイの深核を刺激する。
(……影、絶対いる。ここ、やばい場所だ)
ユリウスとミネルは周囲を警戒しながら歩く。
ラザールは無言で前を見据えている。
その表情は、
学院で見せていた“優しい教師”のものではなく――
冷静で、どこか“無感情”な狩人の顔だった。
(先生……今は完全に裏の顔だ)
◆
奥へ進むにつれ、
視線を感じるようになる。
建物の隙間。
崩れた屋根の上。
石壁の陰。
子どもたちの、細い視線。
(影孤児……ここは本当に“影に食われかけた”子たちの場所なんだ)
そのうちの一人、
小さな少女がルイの前にふらりと姿を現した。
白っぽい髪。
細い腕。
虚ろな瞳。
けれど――ルイを見た瞬間だけ、
その瞳が反応した。
「……黒……の、ひと……?」
(え……見えてるのか、俺の深核が)
◆
ミネルがすぐに少女の前に出た。
「危ないから下がって! ここは――」
少女はふらりと首を振るだけで、
そのままルイの服を掴んだ。
「ちがう……こわく、ない……
黒……やさしい……」
(は?)
ルイが驚くより先に、
少女の肩が“ガクッ”と落ちる。
その背後――
影が伸びていた。
『……ケケ……鍵……よこセ……』
「ッ!!」
ルイは反射で少女を抱き寄せ、跳んだ。
影の手が地面を抉る。
石畳が黒く腐食していく。
ミネルが叫ぶ。
「影だ!! 全員構えて!!」
◆
ユリウスが前に出るが、影が散るように逃げる。
「索敵散開! 影の“芯”を見失うな!」
だが――ルイだけが、方向を指さした。
「あっち!!」
深核が震えている。
まるで“案内”されているように。
ユリウスが目を見開く。
「ルイ、お前……影を追えるのか!?」
「分かる……黒が教えてくる……!」
(これ、俺……深核の“感応”使えてる?)
◆
「任せろ。俺が追う!」
「ルイ、無理に前に出るな!」
ラザールが声を飛ばす。
だが影の反応は速い。
逃せばアンダーブルグ全域に広がる。
「大丈夫! 行ってくる!」
少女をミネルに渡し、
ルイは狭い路地を駆ける。
黒い足跡のような気配だけが道を示してくる。
(絶対……逃がさない!)
◆
影が飛び込んだのは――
アンダーブルグでも最も危険とされる“旧礼拝堂”。
崩れた天井。
割れたステンドグラス。
空気は冷たく、湿っている。
(ここ……なにかいる)
深核が震える。
暗闇の奥から、低い声が響いた。
『……鍵……深淵ノ……器……』
影の形は“人型”に変わっていた。
(さっきのレイスとは違う……!)
ラザールの声が後ろから飛ぶ。
「ルイ、油断するな! あれは“影の使徒”だ!!」
「影の……使徒?」
「影門をくぐり、深淵に触れた“元・人間”だ……!」
(元、人間!?)
◆
影の使徒は、
ゆっくりと人型の腕を広げた。
『……我ラ……深淵ヨリ告グ……
鍵……返セ……』
その瞬間、
礼拝堂が“黒”に染まった。
(うわ、これやばい!!!)
◆
「来るぞ!!」
ルイはデュアルブレードを構え、
深核と光核を同時に呼び起こす。
セリアはいない。
双核同調は使えない。
それでも――
(やるしかねぇ!!)
◆
こうして――
ルイと“影の使徒”との戦闘が始まる。
これはアンダーブルグの闇へ踏み込む
最初の戦いであり、もっと深い闇の序章に過ぎない。




