少女 in パラレルワールド
「桜ー!遅刻するわよー!」
「あと5分ー。」
「朝ごはん食べる時間なくなるわよ!!」
「もうそんな怒鳴らないでよ……起きるって!」
桜は心地よい布団から抜け出して、下の階へおりた。
「はい。これ温めて食べて。桜が遅いから冷めちゃったじゃない!」
「わかったわかった。」
桜は母から受け取った朝ごはんを電子レンジで温めようとした。だが電子レンジのボタンの配置が変わっていて使い方がわからない。
「お母さんー?電子レンジ替えたの?」
「は?電子レンジ?なーにそれ?魔力石レンジでしょ?」
「早く魔力込めちゃいなさい。遅刻するわよ?」
「は?」
どうやら私は変な世界に来てしまったようだ。
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とりあえず学校に行くことにした。魔力石レンジ?というのは魔力が必要らしく使えなかった。お母さんには熱でもあるんじゃないかと心配されたが、情報収集のために外へ出ようと思った。
(道を歩いている感じ、変わったところはないな。車も走ってるし、信号もある。建物でさえ変わっていない。お母さんだけがおかしくなってしまったのかもしれない。)
- 学校
「おはよー!」
「おはよ佳澄」
学校に行くと友達の佳澄がちゃんといる。そして佳澄が持っているのはスマホだ。やはりお母さんだけがおかしくなってしまったのかもしれない。
「聞いてよ佳澄ー!」
「どうしたの?」
「なんかお母さんが変なものに、はまっちゃったみたいで……。」
「宗教とか?」
「そうかも……。人には魔力があるって話しててさ…。」
「ん?それのどこが変なの…?」
「えっ?魔力なんてあるわけないじゃん!」
「桜こそ何言ってるの?この魔力フォンだって魔力で動かしてるんだよ?」
「は?魔力フォン……?スマホでしょ?」
「ス……?なにそれ。熱でもあるの?」
「だってそれって電気で動いてるでしょ!充電だって今してるじゃん……。」
「これは学校の魔力装置から魔力を充填してるだけだよ。自分の魔力使うのもったいないじゃん笑」
「てか電気?もしかして科学とか信じてるの?あんなの迷信だよ笑」
「え?迷信?」
「うん。みんなが持つ魔力で生活してるじゃない。」
「きっと桜疲れてるのね。休んだ方がいいじゃない?」
佳澄と会話をしても話が噛み合わない。……この世界では私の方がおかしいんだ。だが自分の中には科学が発展した世界の記憶がはっきりとある。元の世界に戻らなければ。
「ねぇやっぱり疲れてるかも。今日は早退するね。」
「わかった!お大事にね。」
やはり早退することにして、図書館へと向かう。元の世界では魔法に関する話がフィクションや伝説として書かれていたはずだ。この世界では科学がその立ち位置にあるのではないかと考えた。
- 図書館
(確か……この辺に魔法に関する物語とか集められてた気がする……。あっ!あった!……やっぱり科学の本に変わってる。)
置いてある本のいくつかをピックアップして読み進める。ほとんどがファンタジーのように扱われている。やはり前の世界と同様に中世以前に広く信じられていたようだ。
その中でも比較的新しい本で、科学を研究しているという人物が載っている本があった。……最近の出版のようだ。今、会えるかもしれない。桜はSNSで彼の名前を検索してみた。
科学研究所。そこに彼はいるらしい。急いで桜はそこへ向かうことにした。このスマホではない魔力フォンとやらは魔力じゃないと充電できないらしいのだ。桜は魔法なんて使えないので、今ある充電がなくなったら手がかりがつかめなくなってしまう。
図書館を飛び出し、電車のようなものに乗って研究所がある場所へ向かった。
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- 科学研究所
「ここ…だよね。」
桜がついたのは天文台のような場所だった。電車(魔法輸送車というらしい)から降りて、しばらく歩いた寂れた場所にそれは建っていた。
正面へと回り込むと厳重にロックされた扉があった。
ピンポーン!
「すみませーん!」
ピンポーン!ピンポーン!ドガン!
正面玄関らしきところにあったチャイムを何度も押していると、中から爆発音のような音が聞こえた。
ガチャ
「……はい。今忙しいんですけど何の用ですか?新聞なら要りません。」
「あっ!すみません!科学について知りたくて!」
「科学について?……ふざけてるわけじゃなさそうだな。どうぞ。」
白衣姿の若い男性が中から出てきた。何かの勧誘かと思われたみたいだったが、科学について触れると中へ入れてくれた。
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「えっと……あなたは成宮博士の助手の方とかですか?」
「え?違うよ。俺が成宮 翔、本人だよ。」
「そうなんですか!?」
(てっきり博士はもっと年いってる人だと思っていた。)
「それで?君はどうして科学に興味を?」
「あの信じられないかもしれないんですけど……私、科学が発展した世界から来たんです。」
「……」
「あの……?やっぱり信じられないですよね笑」
「でも私、そこの世界に帰りたくて!」
(やっぱり科学を研究しているとしても、魔法が常識の世界じゃ信じられないか……)
ガシッ!
「すばらしい!」
「キャッ!」
成宮博士は興奮したように、桜の肩を掴んだ。
「良ければその世界のことを聞かせてくれ!」
「えっと……それなら……」
桜は元の世界の話を成宮へし始めた。
みんな魔力は持っていないこと、ほとんどのものは電気の力で動いていること。電気を使う家電やスマホなどの道具の話。
どの話も成宮には魅力的に聞こえるらしく、合間合間にたくさんの質問をされた。それに答えると彼は楽しそうに記録をとっていった。
「ありがとう!とっても興味深い話ばかりだ!実際に俺も見れればいいんだがな……。」
「それは良かった。でも私がここに来た目的は元の世界に帰ることなんです。」
「そうだったな。だがあいにくそんな話は聞いたことがないんだ。」
「えっ!じゃあ帰れないってことですか!?」
「いやそうとは限らない。これを使ってみよう!」
「なんですかそれ?」
成宮はレーダー装置のようなものを取り出した。
「これは電磁波を発してる場所を特定できるんだ!といっても今まで何も映ったことはないが。」
「ん?これ何か反応ありませんか?」
「……本当だ!これは君がこの世界に来たことに関係あるのかもしれない!」
「それなら!帰れるかもしれない!」
「うん。確認しに行こうか。俺も気になるしね!」
「はい!ありがとうございます!」
「じゃあ外へ行こう。」
2人で天文台の外へと出る。
「でもこの反応、ここから遠くないですか?」
「あぁでも歩いていくわけではないから。」
「自動車か何かですか?」
「自動車?そんなものが君の世界にはあるんだね。」
「でも違うよ。飛行魔法さ。」
「えっ!」
成宮は軽く浮き上がって、桜の方へ手を差し出す。恐る恐る桜がその手をとると、2人の体はさらに高く浮き上がった。
「わぁー!飛んでる!」
「そっか!空を飛ぶのは初めて?」
「飛行機って乗り物で飛ぶことはありますけど、人だけで飛ぶなんて信じられない!」
「魔力を持たなくても空を飛べるんだね!やっぱり科学ってすごいなぁ!」
「ふふふ、私からすれば魔法の世界の方がすごいですよ!」
「お、やっと笑ったね。」
「あれ……私今まで笑ってませんでした?」
「うん!とっても怖い顔してたよ笑」
「たぶん不安だったんです。でもあなたのおかげで帰れる希望が持てたし、魔法を純粋に魅力的なものだと感じました。」
「そっか良かった!というか翔でいいよ。タメ口でいいし。」
「じゃあ翔で。私のことは桜で!」
「わかった桜。じゃあ目的地まで急ごう!」
翔は飛ぶスピードを上げて、レーダーの反応場所へと向かった。
2人の足元には、様々な街の風景が見える。パッと見は桜の世界と変わらないように見える。しかしよく見ると、子供たちが公園で魔法の練習をしていたり、火事の消火活動に使っている水は人から出ていたり、日常に魔法が溢れている。
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やがてレーダーの反応があった場所へとついた。
そこにはポツンとエレベーターの扉があった。だが不思議なことに建物が存在しない草原にエレベーターだけがある。
「これがレーダーに反応してたものだね。」
「エレベーター?」
「エレベーターっていうのか。この箱。」
「えっと建物の別の階に行く時に使う移動手段かな?」
「へぇー!こちらでは魔方陣に乗ったらすぐ階移動してるから不思議だな。」
「魔方陣!?」
「うん!だいたいのものが魔法石か魔方陣、あとは人が唱える魔法のどれかで動いてるよ!」
「そうなんだ!魔法とかファンタジーの世界の話だったから興味深いなー。」
桜はなぜかこのエレベーターに乗れば帰れるという確信があった。そのため気が楽になり、この世界に興味を持てるほど心に余裕ができた。
「ねぇ桜?このエレベーターとやらは、なぜだかすぐ消える気がしないんだ。」
「私もそう思ってた!」
「ほんと?ならさこの世界を一緒に見てまわるかい?」
「いいの!?」
「もちろん!俺が案内するよ!」
そうして2人は再び浮かび、空中散歩を楽しんだ。ときどき下に降りては魔法のものに触れ、空では他の飛んでいる人たちに挨拶した。
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とあるお土産屋さんに寄ったときのこと
「これ桜にあげるよ。」
「これなーに?」
「ペンダントの石の中に魔力が込められていて、握ると自分が大切にしてる思い出の声が聞こえるんだ。」
「すごい!いいの?」
「うん。あのエレベーターに乗ったあとにどうなるかはわからないけど、あげたいって思ったんだ。」
「ありがとう。大切にする!もし消えてしまったとしても心の中で大切にする!」
「心の中で……いいね。」
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2人は再びエレベーターまで戻ってきた。
「じゃあ行くね……とても楽しかった。」
「俺も楽しかったよ。科学の世界があるってわかったことでより研究しようと思えた。」
「いつかまた会えたらいいね。」
「きっと元の世界にも俺がいるよ。」
「たぶんね。きっとこの世界にも私がいるんじゃないかな。」
「……世界を越える道具を作ってみせるよ。」
「……!うん。楽しみにしてるね。じゃあ……」
「あぁまたね。」
桜はエレベーターへと乗り込んだ。ボタンは上に行くボタンと閉めるボタンしか存在していなかった。
きっとまた会えると思い、翔へ軽く手を振って扉を閉めた。
エレベーターが動き出し、しばらく上昇したかと思えばどこかへ到着した。
ウィーン……ざわざわ……ざわざわ
到着し、エレベーターの扉が開いた。人の気配がたくさんする。恐る恐る外へと出ると、自宅の最寄駅だった。
「えっ!駅だ!」
驚いてエレベーターを振り返るが、通常のエレベーターへ変わっていた。
「あれ?桜ー?」
「佳澄!」
「桜、熱あるから早退したんじゃなかった?」
(えっ!もしかして元の世界に戻れてない……!?)
「私って今日変なこと言ってたりした?」
「言ってたよー!魔法があるって話してたよ!」
「えっ!?私が?」
「うん。スマホって何?って。」
「そっか……」
(あっちの世界の私と入れ替わってたのか。)
「ごめん佳澄!もう大丈夫!ちょっと行くとこあるからまたね!」
「それなら良かったー!また明日ねー!」
佳澄と別れて、桜は電車へと飛び乗った。
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- 魔法研究所
「やっぱりあった。こっちじゃ逆なのね笑」
ピンポーン!
「すみません!」
ドタドタ……ガチャ!
「……桜!」
扉が開かれるとこちらでは初めましての彼がいた。




