白黒つける戦い【漆】
既に〈雷神再臨〉の強化時間は終焉を告げていた。
だが――――その余波はなおも俺の身体に刻まれている。
「電荷」が「超帯電」へと変換され、再構築された肉体の隅々まで、蒼白の電流が脈打つ。
鼓動が雷鳴と重なり、血潮すら電流へと変わっていく錯覚がする。
「助けを求めなくても良いのか?」
カインが煽り混じりの声色で問いかける。
この俺を挑発してるのか?
なら速攻で潰してやる!
「言ってろ、お前なんざ俺一人で十分だ」
言葉と同時に、雷光が地面を裂いた。
足が地を蹴るたび、稲妻が軌跡を描き、空気が弾け飛ぶ。
何度目の応酬かも覚えていない。ただ、あの“尋常ならざる対応力”が、俺の本能を戦場に縛りつける。
――――対応しきれぬ速度で叩き込むしか、勝ち目は無い。
「〈雷殲槍〉ッ!」
雷鳴が咆哮する。
その一突きは稲妻の槍となり、直線的な死を描く。
カインはそれを紙一重で回避するが、俺は畳み掛けるように三撃、五撃――雷槍の連打を放った。
距離を取られた瞬間、〈雷霆〉を設置し、落雷の軌跡と同調する。
空より稲妻を引き裂く勢いで叩きつける。
「〈深淵腕獣〉!」
轟音とともに、黒き腕が地より隆起した。
その異形が盾となり、稲妻を遮断する。
鍔迫り合う衝撃で地面が波打ち、閃光と闇がせめぎ合う。
だが、その一瞬――俺の姿は掻き消えた。
「〈飛雷神〉〈雷殲槍〉ッ!」
「がっ?!」
雷鳴が閃く。
次の瞬間、カインの横腹が抉れ、雷光が爆ぜる。
吹き飛ぶカイン。その隙を逃すまいと、俺は一気に距離を詰めた。
しかし――――――
「〈ニュクス〉」
夜が来た。
深淵が来た。
闇が来た。
すべての光が、喰われる。
音が消え、風が止み、沈黙だけが支配する。
大地が裂け、そこから伸びるは、無数の闇の触手。
まるで邪神がこの場に君臨したかのような光景だった。
――――――まるで、いつぞや見た“月機神”の降臨のよう。
「こんな芸当、特別スキルしか出来ない。つまり――――」
このゲームには、“スキルスロット拡張パッチ”が存在する。
かくいう俺も技術スキル枠にそれを使い、上限を突破している。
ならば――――こいつがそれを使っていない保証など、どこにもない。
「特別スキル2枠か? 贅沢だな」
「貴様も技術スキル3枠だろう」
カインが嗤う。
闇が波打ち、〈カタストロフ〉が発動。
肉体が膨張し、触手が増殖する。
「――――――上等ッ!」
俺は自らの肉体を雷で染め上げた。
脈動する光の筋が皮膚の下で走り、視界が白く焼ける。
〈雷神再臨〉――――再び発動。
「またあれか……!」
この短時間で再使用されるとは思っていなかったのだろう。
カインの表情が、驚愕に染まる。
地面を覆う闇から、再び触手が噴出した。
無数の闇腕が獲物を喰らわんと襲いかかる。
「遅いっ!」
雷閃。
俺は触手一本一本を瞬時に断ち切り、爆ぜる雷撃を纏いながら一直線にカインへ突進する。
雷が軌跡を描き、闇が引き裂かれ、光と闇が衝突する――――
「〈深淵腕獣〉!」
巨大な闇腕と触手が襲い来る。
その嵐のような連撃が、俺の身体を貫いた。
「終わ――――――――」
その瞬間、天が裂けた。
雷鳴。
閃光。
世界を塗り替える神の一撃。
カインの肉体が、跳ね上がった。
「っ?!」
残念だったな――――既にシールドのリチャージは完了している。
稲妻の守護が、俺を包む。
その隙間、カインのシールドが砕け、わずかに怯む。
「――――――〈雷殲槍〉ッ!」
閃光が奔る。
空気が弾け、視界が白で塗り潰される。
さらば、カイン。
お前は――――強かった。
その肉体が崩れ落ちる。
闇が消え、雷光だけが残る。
「あーしんどかった」
静寂が戻る。
稲妻が散り、焦げた大地の上に、ただ一人、俺だけが立っていた。




