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【別視点】白黒つける戦い【陸】

 突風が戦場を薙ぎ払い、焼け焦げた砂塵と血の匂いが入り混じる。

 その中心、激戦区の一角では――――タチキリとオレンジの戦いが、最終局面を迎えていた。


 赤黒の太刀が風を裂くたび、世界の色が揺らぐ。

 その軌跡は、まるで夜空に紅蓮の筆で描かれた軌条のようで、古めかしい和風の建造物は次々と瓦礫へと変わり、木々が悲鳴のように枝葉を散らす。

 そして――――そこにいた様々なプレイヤーたちまでもが、彼女の斬撃の暴風に呑み込まれていく。


 彼女の刀は、優雅でありながら絶対的な死を孕んでいた。

 舞う斬撃は嵐そのもので、天地すら切り分けんと空を裂くようだった。


「自分のギルドメンバーごと、お構いなしか」


 鋭くも落ち着いた声で、対峙する男が呟く。

 【オーロラ団】ギルドリーダー、オレンジ――――――

 彼女の相対する彼の眼差しには、覚悟と冷静が同居していた。

 次々と押し寄せる殺意を帯びた刃を、エナジー・ブレードで寸分違わず弾き返していく。

 だが彼の動きには焦燥が滲んでいた。

 攻め切れない――――――それは、背後の仲間たちを守るため、動きを制限しているからだ。


「リーダー、俺達の事は気にしなくてもいい」


 背中越しに飛ぶ声。

 【オーロラ団】副リーダーのクロフォード――――

 巨躯の男は超大型の鋼鉄アックスを振り回すが、タチキリの舞うような速撃には届かない。重い鉄塊が空を唸らせるも、彼女の影すら捉えられなかった。


「いや、誰一人犠牲にはしないさ。この僕が居る限りね」


 そうは言ったものの、押され始めているのもまた事実。

 タチキリの刃は確実に、仲間たちの喉元へと迫っている。


「〈無明一閃〉」

「〈瞬煌ノ刃〉」


 瞬間、黒と金が衝突した。

 闇を塗る墨の斬撃と、陽光の如く輝く閃光。

 光と闇が拮抗する刹那、戦場そのものが震える。


 爆ぜる閃光を弾き返し、オレンジはさらに出力を上げる。

 エナジー・ブレードの輝きが、太陽色から月の光へと変わり――――――淡く、冷たい光が戦場を包んだ。


「〈月映〉ッ!」


 空を翔けるような一閃。

 放たれた斬撃が、銀の軌跡を描きながら彼女を狙う。


「〈風返〉」


 タチキリは太刀で受け流すが、勢いを殺しきれない。

 その防御の隙を狙い、クロフォードが襲いかかる。


「〈ヴォルテクス・スウィング〉!」


「…………っ!」


 暴風のような斧撃が唸りを上げ、タチキリの身体を吹き飛ばす。

 瓦礫を砕き、地面を割るその一撃。

 勝敗は決したかのように見えた――――その時。


「――――――〈終ノ太刀〉」


 空気が凍りついた。

 世界が白と黒に塗り分けられ、色彩が消える。

 そこに立つタチキリの輪郭だけが、唯一の存在として残されていた。


 七色の刀身が、静かに光を孕む。

 彼女の瞳には何の感情もない。

 ただ――――”終焉”そのものだった。


「おい……これ!」


「あぁ……来るぞ、彼女の大技――――――特別スキルが」


 それは現行最高火力の特別スキル。

 いかなる防御も意味をなさず、放たれれば最後、周囲すべてを斬り裂く。

 ”一刀両断”の言葉すら、生温い。


 オレンジは静かに目を閉じ、深く息を吸った。

 全身の神経を一点に集中させ、呼吸すら武器に変える。


「来い……!」


 そう、彼は恐れていなかった。

 絶望を見てなお、前を向く――――――それが、リーダーとしての矜持だった。


 最強の一撃――――――それを覆す為に。


「〈一刀星墜〉ッ!」


 彼のエナジー・ブレードが噴き出す光は流星の尾のように奔り、タチキリの〈終ノ太刀〉と正面からぶつかる。


「私の斬撃を……?!」

「君の一撃を……超える!」


 白と黒が交錯し、色が弾け飛ぶ。

 衝突の衝撃が地形を歪ませ、光の奔流が天を貫いた。

 それはまるで、一つの星が墜ちる瞬間のようだった。


 凄絶な光の中で、タチキリの身体がゆっくりと倒れ込む。


「たまには……斬られるのも良いわね……」


 淡く笑みを浮かべ、彼女は静かに崩れ落ちた。


「大丈夫か!」


 真っ先にクロフォードが駆け寄る。

 砂塵の中、オレンジは息を荒げながらも剣を下ろした。

 その姿は、勝利を掴んだ戦士の静かな余韻を纏っていた。


「あぁ、これで制圧だ。()の加勢に行かないと……」


「あんま無理すんな。せめて特別スキルのクールタイムが終わってからだ」


 勿論、あの一撃は特別スキルでないと出す事が出来ない。

 そんな大技を使えない状態でカインとハクの戦いに加勢しても足手まといになるだけだった。


「だが――――――」


 その時、通信が震えた。

 アルデンテからの報告だった。


『報告です。《羅煌都》にて大規模な暴動発生及び、暴動と禁薬の元凶もそこに居るとの事なので先んじて向かいます。ボム娘は離反した為、私の側を歩かせています』


「……そんな気がしてたが、やっぱり離反したか」


「でも、《羅煌都》で暴動が起きてるなんて……まだこの戦いは終わっていないのに」


 オレンジは唇を噛む。

 戦場の選択は二つ――――――ハクの援護か、それとも、《羅煌都》の鎮圧か。

 どちらも、今を左右する重大な局面だった。


 さらに続けてメッセージが届く。


『じゃ、全員そっちに向かってくれ。これが済んだら俺も向かう』


『まさか一人でカインと戦うつもり?』


『なんだ、心配してくれるのか? 安心しろ、きっちりキルしてやる』


 オレンジは一瞬迷うが、意を決したように書き込む。


『分かった。ハク以外、全員向かってくれ』


 事態は【エクリプスレギオン】に留まらず、更なるうねりが待ち受けている。

 だがその前に、この”白黒つける戦い”は彼に掛かっているのだった。

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