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壮大な前座

 金属の階段を下るごとに、空気は湿り気を帯び、低い振動音が床から伝わってくる。

 壁を伝う青い光は徐々に弱まり、代わりに赤い非常灯がぽつりぽつりと灯っていた。


 数分後、階段の終端に辿り着く。

 そこは完全な闇だったが、ケロスのランプが淡く灯り、周囲を照らし出す。

 頼りとなる光源はそれだけだった。


 無数のケーブル、錆びた装置、そして――――――床一面に広がる金属の格子。

 その下には、青白い液体がゆっくりと流れている。


「……なんだ、冷却液か何かか?」

 

「正確にはエネルギー伝達液。塔全体の電力循環に使われていたようだ。だが、今は……」


 ケロスが手を伸ばし、液体の表面をスキャンする。

 液体の奥に何かが沈んでいるのが、俺にも分かった。

 人影――――いや、機械の残骸。


「……人型?」


「メンテナンスユニットだ。古い型だが、どれも完全に停止している」


 だが、その瞬間。

 その「完全に」という言葉を打ち消すかのように、液体の中から“青白い目”がひとつ、ゆっくりと開いた。


「……待て、動いたぞ!」

 

 ケロスのライトがその方向を照らす。

 液体が爆ぜ、金属の腕が飛び出した。


[|EC-Guardianエレクトロガーディアンが起動しました]


 全身にケーブルをまとい、青白い稲妻を纏った人型兵器。

 その手には、雷光を帯びた機械仕掛けの槍。

 そして瞳の奥で淡く光るコアが、敵意を露わにする。


「でけぇな……こりゃストームオウルどころの騒ぎじゃねぇぞ」

 

「注意しろ、あれは塔の守護者。出力が桁違いだぞ」


 エレクトロガーディアンが槍を構えた瞬間、床の格子が一斉に光りだす。

 電流が走り、空気が焼ける音が響いた。


 だが、ここは狭い地下。

 攻撃を避ける隙間すら作るのに精一杯だ。


「くそっ、回避する場所もねぇのかよ!」

 

 俺は即座に飛び退き、金属の柱を背にした。

 そしてその直後、エレクトロガーディアンは槍を床に叩きつけ、雷の爆発が狭い空間を振動させる。


 咄嗟にケロスが前に出る。

 

「〈グラヴィティ障壁〉!」

 

 腕から展開された球状のフィールドが雷撃を弾き飛ばしたが、その衝撃で床が軋み、亀裂が走る。


「一応は防いだが……長くは持たねぇな」

 

「分かっている。決着を急ぐぞ」


 エレクトロガーディアンが再び槍を掲げた瞬間、俺はブレードガンを構える。

 

「行くぞ、ケロス!」

 

「了解!」


 雷光と重力、そして刃が交錯する。

 塔の地下に、金属の悲鳴と稲妻の閃光が木霊した。

 

 「〈グラヴィティ砲〉」


 続けて、ケロスはその変形させた右腕の砲口から紫色の重力弾を放つ。

 対するエレクトロガーディアンは槍に更なる電気を帯電させ、重力弾を撃ち落とさんと叩きつける。


 その槍の穂先の空間が歪むが、曲がる事を拒むかのように抵抗を続けていた。


「〈刃閃〉ッ!」


 動きを止め隙だらけとなったエレクトロガーディアンの横腹に向けて〈刃閃〉を撃ち込む。

 金属音を掻き鳴らして火花を散らす。

 それでも致命傷になる様子が無く、多少切り傷を与えるのみだった。


「硬ぇ……知ってたけどな!」


 道中のスパークスパイダーでさえあの硬さだったんだ。

 当然、こいつはそれ以上の硬さを持ってるに違いないと薄々分かっていたが……実際、現実としてお出しされると精神的に来るものがある。


「ケロス、主な火力源はお前だ。俺は翻弄して奴の動きを鈍らせる事に専念、隙が出来たら〈刃閃〉を切り込むが……その間、動きを解析してくれ」


「了解」


 俺はケロスに役割を伝えつつ、引き金を引いて牽制する。

 銃撃も有効打になるとは思えないが、少しでも俺にヘイトを向けてくれれば、隙を見てケロスが攻撃を叩き込んでくれるだろう。


「……来た!」


 予想通り、エレクトロガーディアンの赤く光るセンサーが俺を捉える。

 その視線が一点に定まると、槍が一閃――――――床を抉るように貫く。


「ぐっ……!」

 

 瞬間的に横に飛び退くが、同時に放たれる電撃が壁を伝って俺の背後で炸裂した。

 危機一髪で回避出来た俺はエネルギー弾を撃ちながら、慎重に距離を取りつつ動きを観察する。


「〈グラヴィティ砲〉」


 ケロスの砲撃が炸裂する。

 重力弾がエレクトロガーディアンの槍を弾き、機体の軸を歪ませる。

 その僅かな隙間に――――――俺は再度〈刃閃〉を放つ。

 

 鋭い光刃が機体に突き刺さるも、やはり金属の表面は頑強で僅かに凹む程度に留まっている。

 火花が散り、空間に金属臭とオゾンの香りが漂う。


[スキル〈挑発者〉が発動しました]


 その瞬間、エレクトロガーディアンは怒りにも似た動きで反撃に出る。

 槍を地面に突き刺すと、床一面に青白い電磁の渦が広がり、踏み込んだ者を弾き飛ばすように強烈な衝撃が巻き起こした。


「不味い……!」


「〈グラヴィティ砲〉!」

 

 俺は慌てて後退し、床の亀裂を飛び越えながら立て直す。

 幸い、ケロスの重力弾がタイミングをずらしてくれたおかげで、致命的な打撃は避けられた。


「どうだ、奴の攻撃パターン、読めたか?」


 俺が問いかけると、ケロスは砲撃のタイミングを計りつつ返答した。


「少しはな。槍を振るう前に必ず一瞬、肩の関節を巻き上げる。その時に押し込めば隙が生まれるはずだ」


 機械であっても必ず攻撃と攻撃の“間”はある。

 その隙を逃さず攻撃するしか勝機は無い。


「ふぅ…………」


 俺は深呼吸をして狙いを定める。

 一瞬の隙を、針に糸を通すかの如く慎重に機を待つ。


「――――――〈刃閃〉ッ!」

 

 俺は走り込み、光刃を横腹に深く突き立てる。

 金属の軋む音が耳を打ち、火花が夜空のように散った。


 その瞬間、エレクトロガーディアンの動きが僅かに鈍る。

 完全ではない、だが確実に()()()


「今だ、叩き込め!」

 

 ケロスが咆哮し、〈グラヴィティ砲〉の重力弾をさらに叩き込み、空間がねじれて機体のバランスが崩れる。

 そして――――――俺は再び飛び込み更に〈刃閃〉を発動させる。


 金属の悲鳴と稲妻の閃光が地下の狭い空間に響き渡る。

 次第に機体の動きが鈍くなり、エネルギーが漏れ始めた。


「あと少し……!」

 

 俺は息を荒げ、最後の一撃を決めるべく刃閃を準備する。

 心臓が跳ね、血液が沸騰するような緊張感が、戦場を包み込んだ。


 狭い地下に反響する金属の軋む音。

 エレクトロガーディアンは体勢を立て直すが、その動きはもはや鈍重で、攻撃の隙間も明確になっていた。


「よし……ここだ!」

 

 俺は踏み込み、全力で〈刃閃〉を発動させる。

 光刃が閃き、金属の横腹を貫く。


 機体の内側から青白い光が迸り、鋭い金属音が地下空間に木霊する。

 エレクトロガーディアンは両腕を広げ、槍を床に叩きつけながらよろめいた。


「〈グラヴィティ砲〉!」

 

 ケロスも間髪入れず重力弾を叩き込み、機体の下半身を押し潰すように捻じる。

 亀裂が入った装甲板が剥がれ落ち、電流が迸る。


 ――――そして、最後の一撃。


「〈刃閃〉ッ!」


 俺は光刃を突き刺し、全力で押し込む。

 金属が裂ける音と共に、青白い光が炸裂した。

 エレクトロガーディアンは制御を失い、床に崩れ落ちる。


[エレクトロガーディアンを撃破しました]

[素材アイテム︰高密度装甲×5]

[武器︰ボルトランス]

[スキル〈雷耐性強化〉に進化しました]

[スキル〈雷槍〉を獲得しました]


「やっと倒した……!」


 レアそうな素材アイテムに強そうな武器、更に新たなスキルも獲得出来た。

 

 強敵を撃破出来て脳汁が止まらない……!


「――――――で、エネルギーコアは?」


 しかし素材アイテムにエネルギーコアは()()

 ………あいつが落とすんじゃないの?


「エネルギーコアはここを管理しているAIが持っている。こいつは前座だ」


「ふぁっ?!」


 そう言えば、そんな話だった。

 エネルギーコアはこの塔を管理するAIが落とす。

 あのエレクトロガーディアンは……別にA()I()じゃない。


「…………マジィ?」


 項垂れても現実は変わらない。

 だが……流石に休憩挟みたいな。


「なぁケロス、少ししたら帰ってくるから待っててくれないか?」


「待機命令だな。問題無い」


 俺は半分現実逃避しつつ、ログアウトボタンを選択した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 視界が白く反転し、意識が現実へと戻る。

 頭の中に響いていた電子音が徐々に遠のき、代わりに静かな自室の空気が耳を包んだ。


 VRポッドの蓋がゆっくりと開き、淡い光が差し込む。

 天井に貼り付けられたステータスパネルの表示が変化していくのを眺めながら、俺は深く息を吐いた。


「っはぁ……マジで疲れるな。まぁ面白かったけども」


 精神的な疲労がじわりと身体に広がる。

 実際には動いていないはずなのに、脳の再現度が高すぎて筋肉が重く感じる。

 全身にうっすら汗が滲み、視界の端に浮かぶ残像がまだ消えない。


 ベッドの上で体を起こし、伸びをする。

 壁際の冷却ボトルを開け、一口飲んだ瞬間、全身が現実へと引き戻される。


「しかしあの塔……下層でこれって、上層どんな地獄なんだよ」


 スパークスパイダーにエレクトロガーディアン、そしてこれから戦うであろう管理AI。

 一戦一戦が重くて神経が焼き切れそうだ。


 視界の端に浮かぶHUDにメッセージが届く。

 ゲームのフレンドリストからだ。


『先んじてMulti Horizonsをやり始めたバカタレさんへ、せっかくなら僕も誘って欲しかったな〜』


『ゲーム内で今何処に居るの? キルしに行くから』


 失礼、言い間違えた。

 ()()からのメッセージだった。

 俺は短く返信を打つ。


『少なくとも、お前には見つからん場所だ』


 軽く顔を洗い、再びポッドへ潜り込む。

 カバーが閉じ、視界が暗転した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 再ログイン。

 薄暗い地下空間に戻ると、ケロスが静かに待機していた。

 機械の眼光が僅かに光り、俺を認識する。


「帰還を確認。問題は無いな」


「あぁ、少しばかりエナドリ飲んできた」


「情報によれば、それは身体に悪い飲料だ」


「わかってるって……だが気合いにはなるだろ?」


 軽く笑い合い、俺は獲得した武器やスキルを確認しつつ、装備を整える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ボルトランス

切断攻撃力 30

雷攻撃力 20

エナジー増幅 10

エナジー回復 2

概要 雷を纏った機械槍、その一撃は電撃を起こし敵前に風穴を開けると言う。更に持つだけで自身のエナジーを増幅してエナジーの回復量を底上げする。


〈雷耐性強化〉

分類 基礎スキル

概要 〈雷抗体〉の進化スキル。雷属性攻撃によるダメージを50%程半減し、電磁エリアでのエナジー回復速度低下を大幅に減少する。


〈雷槍〉

分類 技術スキル

消費エナジー 5

概要 槍を持つ武器を所持時にのみ使用可能、雷の如く貫き攻撃する槍術。切断攻撃力の250%、雷攻撃力の200%のダメージを与える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「中々に強い性能の武器とスキル手に入れてたんだな」


 倒した相手を考えれば寧ろ妥当ではあるが、どちらにせよ序盤で手に入るような装備してないのは確かだな。


 まずはボルトランス――――――攻撃力関係は別に良い、高ければ高い程良いから。

 

 エナジー増幅とエナジー回復も付いちゃったか……現状は技術スキルに頼ってる戦法なんで、エナジーなんてなんぼあっても良いからねぇ……。

 元々1秒に1のエナジー回復だったのに、ボルトランスを装備するだけであら不思議……1秒に3のエナジー回復する素晴らしい性能になったでありませんか。


「『貰って良いのか』って気持ちと『苦労に見合った武器だから当然だよな』って気持ちが押し合ってるが……いや、ここは素直に有り難く思っておこう」


 これから管理AI戦な事考えれば、装備的にもまだ全然足りないだろうからな……防具なんて初期装備だし。


 次に〈雷耐性強化〉――――――これは概要からも察するに〈雷抗体〉が進化したものだろう。

 これは素直に嬉しいし、スキルも進化するって証明にもなってくれているが、正確な進化条件の検証も必要になってくるな。

 実戦使用頻度が高ければ良いのか、被弾するデータさえあれば良いのか……それも込みで、どんどんスキルを使っていきたい所だ。


 最後に〈雷槍〉だが――――――倍率の上がり幅が今までの比じゃない。

 〈刃閃〉でさえ切断攻撃力130%だけだったのが、切断攻撃力の250%、雷攻撃力の200%と跳ね上がってる。

 その分エナジー消費も5と一見激しいようにも見えるが、既にボルトランスによるエナジー増幅と回復の補正により手軽で使いやすくなっている。

 メインウェポンとして優秀と言えるだろう。 


「これらを武器スロットとスキルスロットに入れて……よし、完璧だな」 


 準備は万端、目先の目標は管理AIの討伐及びエネルギーコアを入手する事。 


「行くぞ、ケロス。塔の最深部へ」


「了解。扉を起動する」


 重々しい金属音と共に、奥の扉が開いた。

 内部から吹き出す熱風が頬を撫で、薄く焦げたような金属の匂いが漂う。


 その奥には――――――巨大な空洞。

 天井まで届く無数の導線と、浮遊するリング状の装置群。

 中心部には、青白く光る球体が静かに脈動していた。

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