白黒つける戦い【壱】
「〈深淵腕獣〉!」
「〈雷殲槍〉ッ!」
白と黒が衝突する。
衝撃波が森を薙ぎ払い、樹々は軋み、空気は震え、地面が音を立てて亀裂が入る。
閃光と衝撃が交錯した瞬間、大気そのものが悲鳴を上げたかのように唸ったのだ。
カインは腕を振り下ろし叩きつける。
その質量は世界の底から這い出したような圧力が込められた”深淵の拳”――――――――
だがタイミング良く雷鳴を伴い槍を振り上げ、その一撃を弾き飛ばした。
続けてカインの腹部が脈動し、刃のように鋭い触手が咆哮を上げて伸びる。
それを俺は反射的に槍を返して薙ぎ払い、火花を散らす。
そのまま流れるように三連突。
最初の一撃がカインの頬を掠め、二撃目、三撃目は紙一重で躱された。
雷の軌跡が空を裂き、残光が稲妻の尾を引く。
「〈深淵腕獣〉ッ!」
カインの腕が蠢く触手に包まれ、膨張し、岩塊のような巨腕へと変貌する。
まさしく闇が形を持ち、世界を殴打するかの如く巨腕を振りかぶる。
俺は後方に跳び退き、掌に雷を掴んだ。
「〈雷霆〉!」
放たれた稲妻が空間を貫き、白き閃光が夜を裂く。
しかし、カインはその雷光を巨腕で掴み止め、電流を纏いながら嗤った。
――――――瞬間、俺の姿は掻き消える。
「〈雷殲槍〉ッ!」
背後から放たれた稲妻の槍を、触手が絡め取る。
かつての光景が脳裏を過ぎる――――――――あの、槍を奪われた瞬間の記憶を。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
力を込めて、俺は槍ごとカインの身体を持ち上げる。
雷鳴が轟き、空が閃光で染まった。
そのまま地面へと叩きつけると、大地が爆ぜ、周囲が閃光に包まれた。
触手は弾け飛び、カインは咄嗟に身を翻して距離を取る。
「てめぇ……二度も武器を盗ろうとしやがったな」
「俺のペットが、その方が良いと判断しただけだろう」
「手癖悪すぎだろ、その触手」
俺は呆れつつ、改めて槍を構える。
本人のPSも高ければ、不意打ち攻撃にも身体に飼ってるが対処してくれるから問題無いってか。
まさしく、対応力の化け物――――――――
他のギルドがこいつを警戒するのも頷ける。
「――――――だが、俺も悪くない選択肢だと思うぜ。新調したこの槍は、不思議と俺の手に馴染む」
金色に輝く穂先に赤と金の中華文様を纏った柄。
それはまるで鳳凰の翼を模したかのように輝き、雷光の羽を広げていた。
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雷凰槍
装備スキル〈紅雷反牙〉
切断攻撃力 50
雷攻撃力 90
概要 獣人の惑星に伝わる伝統的な雷槍。
穂先は金色に輝き、柄には赤の幾何学模様が刻まれている。
古来より「雷鳳の翼を宿す槍」と称され、振るうたびに雷鳴を呼ぶと伝えられる。
〈紅雷反牙〉
分類 装備スキル
概要 敵の攻撃に正確なタイミングで攻撃を合わせることで衝撃を相殺し、逆に雷撃の反動で相手を弾き飛ばす迎撃技である。扱いは難しいが、熟練者が振るえば鳳凰の咆哮を思わせる閃光を放つという。
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【月読工房】に依頼して作って貰った中華槍。
火力は雷帝槍に劣るが、攻撃を弾き飛ばすというスキルは対人戦で大きな活躍を見せてくれるだろう。
ここにきて新しい防御手段が誕生した訳だ。
「惜しいな。その力――――――俺の下でなら、もっと輝けたものを」
「勧誘か? 悪いが基本ソロプレイヤーなんでな、こっちから願い下げだ」
俺は笑った。
ギルドに属する気など毛頭ない。
この世界を、ゲームを、この闘争を、ただ全力で楽しんでるだけだ。
「なら何故、奴らに従っている?」
「従っている? そりゃ俺を知らな過ぎだな」
俺は――――――――
俺が協力したいと思ったから協力しているだけだ。
俺がお前を倒したいと思ったから対峙しているだけだ。
俺がゲームを楽しみたいと思ったから楽しんでるだけだ。
「この俺が、”そうあれかし”と叫んだからだ!」
天雷が迸る。
〈雷神再臨〉――――――――
その瞬間、全身が純粋な雷へと変貌した。
稲妻の軌跡を描き、俺は雷光と化して駆け出した。
「〈カタストロフ〉!」
カインの肉体が膨張し、銀黒の触手が爆発的に伸びる。
「〈雷殲槍〉ッ!」
雷の槍が唸り、触手の群れがしなやかに受け流す。
続けて触手が連撃を放つたび、俺は攻撃を合わせて打ち消し合った。
衝撃音と光が乱舞し、世界が閃光に包まれた。
触手と槍の応酬の末、互いに距離を離れてスキルを放つ。
「〈黒油粘液〉」
「〈雷霆〉」
黒と白の奔流が交わり、空間が炸裂。
吹き荒れる突風が砂を舞い上げ、天を焦がす。
互いに駆け出し、残光の尾を引いてぶつかる。
「〈深淵腕獣〉!」
「〈雷殲槍〉ッ!」
再び交錯――――――白と黒の閃光が世界を塗り潰す。
何かが破壊されたような衝撃が走り、次の瞬間、鼓膜を破るような轟音が辺りを包む。
「――――――っ?!」
その刹那、カインの肉体から雷光が炸裂した。
〈雷光聖結界〉のシールドが崩壊し、反撃として〈雷天罰〉が発動する。
天から一条の閃光が降り注ぎ、カインの巨体を貫いた。
「ちっ……被弾してたか」
――――――しかし、それは俺の守る盾が壊れたのと同義。
また少し経過しなければ、元に戻る事は無い。
着実にカインのダメージが蓄積されているのと同じように、俺自身の守りも削られていたのだ。
「いいねぇ、ヒリついてきた」
笑いながら、俺は雷を再び掴む。
稲妻が指の隙間で暴れ、音を立てて弾けた。
「〈雷霆〉〈雷霆〉〈雷霆〉ッ!」
雷鳴の雨が降り注ぎ、世界が白く染まる。
それでもカインは真っ直ぐに突き進んだ。
俺が手負いだと見抜いているのだろう。
「〈深淵腕獣〉ッ!」
――――――だが、それはお前も同じ事だ!
「〈雷殲槍〉ッ!」
「……っ?!」
閃光が走る。
稲妻の軌跡が触手を掻い潜り、カインの横腹を穿つ。
雷鳴が爆ぜ、カインの肉体が跳ねた。
「ぐおぁぁぁぁぁ!」
カインは巨腕を振り回そうとするが、横払いで弾き返す。
続けざまの触手攻撃を紙一重で躱し、間合いを取る。
「攻め時だと思ったか間抜け!」
「いや、攻撃が当たれば俺の勝ちに違いは無い!」
「当たればな!」
そう簡単に被弾してたまるか。
まだ、まだだ。
まだ俺は立っている。
まだお前も立っている。
「なぁ、おい! もっと踊ろうぜ!」
雷鳴と咆哮が、戦場を貫いた。
この信念と狂気の舞踏は、まだ始まったばかりだ。




