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まだ白黒つかない戦い

「この有様は何だガルバード。俺達が遠征に行っている間、こいつ一人に壊滅させられたのか」


 カインの声には、怒りと失望が混じり合っていた。

 焦げた大地には、ねじれた金属と血に濡れた土、そして空気に漂うのは、焼け焦げた匂い。

 かつて栄えたギルドの前線拠点は、今や静寂と死の色に染まっている。

 ガルバードは「済まない」と一言呟くのみだった。


「遠征……って事は戦力の大部分は他に行ってるのか。通りで、ここの奴ら雑魚ばかりな訳だ」


 俺は肩を竦める。

 せっかく楽しい殺し合い(PVP)ができると思ったのに、拍子抜けだ。

 まあ、依頼では“暴れてこい”としか言われてねぇ。

 結果として目的は達成している。


 ―――――――それとも。


 この目の前のリーダーの首を持ち帰る方が、よほど報酬になるかもしれないな。


「一回だけ聞く。誰の差し金だ?」


「さぁ?」


「そうか――――――死ね」


 その一言と同時に、俺は地を蹴った。

 次の瞬間、漆黒の外套から銀黒の()()が爆ぜるように伸び、俺の槍と激突する。

 金属と肉の擦れる異音が森に木霊し、火花と粘液が散った。


「今のに対応するか」


 カインの眉が僅かに動く。

 その瞬間、俺は蹴り飛ばされ地を滑る。

 すぐに体勢を立て直し、反転して槍を突き出した。

 ――――――だが、再び外套の影が槍先を絡め取った。


「中々に気色悪い構造してんな」


「貴様の動き程じゃないさ」


 互いに距離を取る。

 俺の手には雷光が集まり、空気がビリビリと震える。

 カインの影では、蠢く粘液が不穏に泡を吹き上げていた。


「〈雷霆〉」

「〈黒油粘液〉」


 閃光と黒液が衝突する。

 爆ぜた雷鳴が夜空を裂き、闇を照らす。

 互いの術が空中でぶつかり合い、稲妻と黒の奔流が拮抗していた。


「〈雷霆〉〈雷霆〉」


 俺は空中で跳躍しながら、雷を二重に撃ち出す。

 好機と見たカインが迫るが――――――俺は瞬間転移の如く地へ閃光の軌跡を残す。


「〈雷殲槍〉ッ!」

 

 カインは咄嗟に空中で黒い外套の触手で防御するが、空から降り注いだ二つの雷がその身を灼いた。

 地を揺らす衝撃に焼け焦げた匂い。

 俺はそのまま槍の穂先を振り下ろし地面に叩きつけようとするが、カインは受け身を取って体勢を立て直した。


「……ちっ」


「どうした、不思議そうだな」


 カインは体力回復ポーションを使おうとしたが、()()()効果が無い。

 苛立ち、舌打ちをする。


 俺のスキル〈希望喰い〉によって、相手は回復効果が使えず体力の最大値も削られているからな。

 生命力を蝕み続け、俺は着実に追い詰める事が出来る。


「ならば……〈カタストロフ〉!」


 瞬間、空気が震えた。

 カインの肉体が音を立てて膨張し、銀黒の触手が爆発的に増殖する。

 筋肉が弾け、皮膚の下で何か異形の構造が蠢いていた。

 バイザーの奥で、二重の瞳孔が光る。

 腕は巨獣の如く肥大化し、爪は黒く、鋼のように光る。

 外套の隙間から溢れ出る触手の群れは、もはや人ではなかった。


「強化系の特別スキルか? にしても気色悪いが」


「……当たりだ。これから貴様をグチャグチャになるまで磨り潰す。何度も、何度も、何度も……もう、逃げられるなどと思わぬ事だ」


「逃げる? 誰から? お前か? それとも……その体内に潜む化け物からか?」


「あるいは……その両方からだ」


「なら問題ねぇな――――――逃げるまでもねぇ」


 俺は己の肉体を雷光へと変換する。

 神の怒りが宿る音が轟き、世界が白く染まった。


 そっちが強化系の特別スキルならば、俺も強化系の特別スキルでお相手してやろう。


「〈雷神再臨〉」


「身体を雷に――――――」


 ど こ を 見 て る ん だ ?


「〈雷殲槍〉ッ!」


 雷光が森中を奔る。

 それに対応するカインの反応速度も尋常ではないが、俺の速度は雷そのものだ。

 すれ違いざまに斬撃を叩き込み、その稲妻が世界を裂く。

 それでも奴は触手の盾で耐え抜いていた。


「〈深淵腕獣〉」


 右腕に無数の触手が吸い込まれ、瞬時に膨張―――――次の瞬間、巨人の腕が森を薙いだ。

 木々がへし折れ、その爆風が大地を抉る。


「火力が高いが、動きは鈍重。なるほど、俺相手に多用しない訳だ」


 俺はそれを軽々と攻撃を掻い潜りながら、カインの懐に潜り込み一筋の雷光を叩き込む。


「〈雷殲槍〉ッ!」


 だが――――――タイミング良く、槍を()()()た。

 黒い外套から伸び出た触手が「やっと捕まえた」とばかりに離さない。 


「こいつ……!」


「ふんっ!」


 カインが巨腕を振り下ろす。

 俺は咄嗟に槍を手放して跳び退った。


「あ、てめぇ! 武器返しやがれ!」


「……これで自慢の槍術は使えまい」


 カインは俺の槍をアイテム欄に仕舞い、嗤う。


 俺の武器を盗むたぁ良い度胸してんじゃねぇか。


「ちっ時間切れか……」


 強化時間が終わり、超帯電へと変換される。

 俺は再び雷を手に攻撃を仕掛け――――――


 その瞬間、空を裂く銃声。


 弾丸が俺の頬を掠め、カインの肩を撃ち抜いた。

 木霊する金属音。

 カインが舌打ちし、低く呟く。


「小僧、時間切れだ」


「は? おいお前逃げる気じゃ」


 カインの身体が、闇に溶けるように消え始めた。

 空気が歪み、音が消える。


「お前「逃げられると……」とかって宣ってたくせに形勢不利になると逃げるのかよ! ちょっ、おい、逃げんなって、せめて槍を置いて――――――おーい!」


 叫びも虚しく、カインは消えた。

 ……俺の槍ごと。


 あ、あいつ……槍持って逃げやった!

 よし、あいつは確殺決定だ。

 この宇宙何処に逃げても絶対キルしてやる。


 ――――――更に一発、弾丸が飛来する。


「……って、さっきから飛んでくる弾は何なんだよ! 嫌がらせか! 嫌がらせだろ!」


 雷光の残滓の中、俺は銃口の閃きを捉えた。

 カインに投げそびれた稲妻を、今度は隠れた狙撃者に向けて放つ。 


「〈雷霆〉ッ!」


 俺は掴んだ雷光を謎の狙撃者に向けて投擲した。

 影が飛び出し、銀色の銃群が宙に浮かんでいた。


「質問は二つ。君は獲物? それとも美味しい獲物?」


 無数の銃を操り、その銃口を全てこちらに向ける。

 プレイヤーネームは――――――トリガーHappy。

 その瞳には狂気の輝きが宿る。


「獲物はお前だろ」


「……へぇ?」


 その一言で、世界が弾けた。

 銃口の群れが一斉に火を噴き、静寂が喧騒変わる。

 俺は雷光の軌跡を描きながら、弾雨の中を駆け抜ける。


「……ははっ! 銃が凄くても、肝心の射手がポンコツAIMなら宝の持ち腐れだな!」


 挑発と共に稲妻が弾丸を焼き払い、空を裂く。


「……そこまで死にたいのなら!」


「待った!」


 森の奥から橙の髪を揺らす青年が現れた。


「邪魔しないでオレンジ、このガキを許せない」


「お互い、何とか矛を収めてはくれないか? ……君、【エクリプスレギオン】を襲った謎のプレイヤーだろ」


 その青年――――“オレンジ”と呼ばれた彼が俺を見つめる。

 彼に敵意はなく、むしろ観察者のそれだった。


 俺の矛は取られたばっかなんだが……まぁ、今はどうでもいいか。

 これ以上暴れれば面白くない方向に事態が進みそうなのもまた事実。

 これくらいで辞めておくのがベストだろう。


「あぁ、確かに【エクリプスレギオン】とやり合ってたな」


「……じゃあ貴方、あの獲物共じゃないの?」


「むしろ獲物共を狩りに来た側だ」


 オレンジは俺のプレイヤーネームをチラリと見やる。


「ハク、君には僕達と共に来てもらう」


「え、もしかして、仲間に引き入れるのつもり?」


 トリガーHappyが凄く嫌そうな顔をする。

 先程まで盛大に殺し合いをしていた奴を仲間に入れるんだ、その気持ちも分からんでもない。


「……今は仮でいい。最終的に本当に参加するかは彼が決めるべきだ」


「まぁ俺はギルドに入る予定は無いが、傭兵って事なら参加してもいいぜ?」


 そうして、雷光が静かに消える。

 焦げた森を背に、俺は二人と共に連れられ歩き出した。

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