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旧人類の終焉、月機神の目覚め【後編】

「ざっけんな、上昇スピードどうなってんだぁ!」


 俺達は崩れかけの足場を踏み抜く勢いで、月の頭頂部を目指して駆け上がっていた。

 眼下では、青の稲妻が奔り、電流の海が生き物のように泡を吐きながら蠢いている。


 いや、落ちたら即死の電流の海が直々に俺達の事殺しに来てるんだけどぉぉぉぉぉ!


「あ、そこ危ないわよ」


「え? ――――ぶねぇ!」


 目の前を電撃のピラニアが掠め、足場ごと噛み砕いた。

 更に上空では、クラゲが静かに膨張していく。


 ウキウキ海とのチェイス中☆にピラニアとクラゲが妨害しに来てるんだが!

 ふざけやがって……こうなったら俺の切り札を……!


「もし辛かったら、あの雷になるやつ使っても良いのよ?」


「よし、意地でも使わんで登りきってやる!」


 そこまで言うなら〈雷霊再臨〉に甘えるのは辞めておこうじゃねぇか!

 俺くらいになれば、このくらい余裕で避けれるわ!


「……そういうお前ら二人はどうなんだよ。ただ強がってるだけなんじゃねぇのか?」


「ふ、ふふん。私達は全然余裕よ。そうよね美食家?」


「………え? ごめん、聞いてなかった」


「凄い必死!?」


 どちらにせよ足を止めると死ぬんだ。

 むしろ俺と美食家の反応が普通なんだよ!


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」













「………っしゃおら到着ぅ!」


 最後の足場を蹴り飛ばし、俺達はついに頭頂部へと辿り着いた。


「……全然余裕だけど?」


「……見栄を張る前に目の前の事に集中しなさい」


 直後、俺達が駆け上がってきた大穴から、巨大な雷柱が爆発した。

 空気が裂け、世界が青に塗り潰される。

 さらに地面を破り、無数の鋼鉄の触手が月面を貫いて伸び上がった。


「何か……巨大化してない?」


「私にもそう見えるわね」


 その大穴から、巨大な()が這い出て来る。

 ゆっくりと身体を外に出せば、そこには巨大化した月機神オクトボルタが姿を現していた。


「巨大化は負けフラグではあるけど、質量攻撃って普通に強いからねぇ……」


 大穴の奥から、“それ”は這い出てきた。

 ――――月の機械神オクトボルタ。

 しかし、いつの間にか惑星フェロスを覆い隠すほどの巨体となっていた。

 機械仕掛けの蛸足が大地を穿ち、雷光を纏いながら、空間そのものを軋ませている。


 触手の表層には青白い稲妻が走り、神経のように脈打つ。

 だが、その中心――――――胸部に宿る“黒い核”が、禍々しい血脈を全身へと巡らせていた。


 まるで神の体内に、別の意志が寄生しているかのように。


 ここで海面が上昇する前の状況の記憶を遡る。

 確か、月機神オクトボルタは突然体内から黒いケーブルのような線が飛び出て、()()していたようにも思える。


 黒いケーブル――――――そんな攻撃する敵が居たような。


「あの棒人間共、やっぱり関係あったんじゃねぇか」


 《螺旋交塔》でロボットの雑魚敵が出てこない時点で怪しむべきだったんだ。

 この異常の根源は()――――――つまり、あの棒人間共と《蒼白塔》に出てきた黒い男はグルで、あいつらが月機神オクトボルタ――――――いや、MOTHERを暴走してたって事じゃねぇか。


 その瞬間、突然自身の身体が光り出す。

 俺だけじゃない。

 三人全てから光の球が飛び出した。


[記憶断片ログ:ZETA-07を失いました]

[記憶断片ログ:ZETA-06を失いました]

[記憶断片ログ:ZETA-05を失いました]

[記憶断片ログ:ZETA-04を失いました]

[記憶断片ログ:ZETA-01を失いました]


 俺の記憶断片ログ、そしてトロイの断片ログZETA-03と美食家の断片ログZETA-02も一緒に光の球として月機神オクトボルタに向かって飛んでいった。


 光を取り込んだオクトボルタは一瞬だけ静止し――――――次の瞬間、その黒い核を電撃で攻撃した。


 黒い血を散らし、狂うように。

 まるで、“理性”を取り戻そうとしているかのように。


「行くぞ、このチャンスを逃すな!」


 何が起きているのかは分からない。

 だが、今が攻撃チャンスだと言う事だけは分かる。

 ――――――狙いは、あの黒の核!


『▇▇▇▇▇』


 ノイズの咆哮。

 黒の核が震え、無数の黒線が出現し、オクトボルタの全身を包み込む。

 そして再び、海が牙を剥いた。

 電撃のピラニアが群れをなし、カジキマグロの予告線の軌跡を描く。


「ちっ……!」


 紙一重で回避し、俺は雷を纏って吼える。

 発動――――――〈雷霊再臨〉!


 雷鳴が形を取り、手に雷を握る。


「〈雷霆〉ッ!」

「〈グルメデスショー〉!」

「〈ルナティックリフレクション〉!」


 雷撃、斬撃、銃撃――――――三つの閃光が交錯し、世界を一瞬だけ真昼に変える。

 轟音が天を裂き、黒の核に渾身の衝撃を叩き込んだ。


 それこそが、“神を討つ瞬間”そのものだった。


[月の機械神オクトボルタを撃破しました]

[特殊イベント︰異常からの解放]

[報酬:上位因子核、スキルスロット拡張パッチ]


『さらば旧人類――――いや、”人の子”よ』


 意識が遠のく直前、月の機械神オクトボルタは満足そうに、塵となって消えていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目が覚めれば、そこは俺の宇宙船の中だった。

 何が起きたか確認する為にログを開けば、まず目に入ったものがある。


[終末クエスト『旧人類の終焉、月機神の目覚め』完了]


「つまり……俺達は成し遂げたって事で良いのか?」


 素晴らしい偉業を成し遂げたというのに、あまり実感が湧かない。

 あの神が死ぬ間際の優しそうな顔、そして色々と暗躍している事が分かった黒の集団――――――情報量が多すぎて咀嚼するには現実離れしている。


 一旦宇宙船から降りれば、そこには既に美食家とトロイが話していた。


「うーん……なんだか、”思ってたんと違う”感が凄い」


「そうね。私が思ってたより、スッキリしない。むしろ、もっと謎が増えてしまったわね……あ、起きたのね」


「……あぁ。この事件の裏に暗躍してる奴が居ると見て間違いなさそうだ」


 ロボットの雑魚敵の代わりに登場した黒の棒人間共、突然襲撃してテスラ博士とケロスを殺した黒の男、そして月機神の心臓部にあった黒の核――――――――


「ねぇ、《螺旋交塔》のボスの死に際の言葉覚えてる? あいつ、『異常神』って言ってたわよね」


「じゃあ、その異常神の差し金って事だね。全く、僕達の邪魔をして……いつか、その神も殺しに行かないと」


 美食家は『圧倒的強者が凄惨な滅亡を迎える』シチュエーションを求めて神殺しを提案した。

 だけど、蓋を開ければその神から『殺してくれてありがとう』と言わんばかりの笑顔を見せられたんだ。

 美食家からしたら、目的を邪魔した奴らが非常に不服なんだろう。


「ケロスも……その仲間にやられた。情が入ったNPCを殺されるのは心が痛いな」


「なら、その異常神に関連する事があれば、ハクにも共有しておくよ。そして、またこうして神殺しやろうよ」


「あぁ、その時になったら宜しくな」


 兎にも角にも、ひとまずは神殺しは終わりを迎えた。

 ともなれば、この惑星とも『さよなら』を告げる必要があるが……その前にやりたい事がある。















 俺はとある場所に宇宙船を走らせていた。

 向かうは《蒼白塔》だ。


 到着すれば、《蒼白塔》は酷く錆付き、”蒼白”の欠片も無い寂れた塔になっていた。

 俺は塔の前に何故か美食家が持っていた十字架を立てて、トロイから受け取った酒を添える。


 ――――――そして、この花もな。


「エレボリア――――――これを買った時は、まさかこうなるとは思いもよらなかったぞ」


 まさしく縁起の悪い花だ。

 花言葉は『黄泉への旅路』――――――――例えゲームの中のキャラクターであろうとも、例えただのNPCであろうとも、俺はこいつに敬意を払うべきだと思っている。


「さようなら、()()


 そして――――――さようなら、惑星フェロス。


これにて第一章終了でございます。

ここまで読んでくれた方々へ「ありがとうございます」、そしてこれからも「宜しくお願いします」を送ります。

間章を投稿後、時間を開けて第二章開始します。

それでは、またどこかで。

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