セクター01は過去を未来に繋ぐ
「皆、空を見ろ」
謎を抱えたまま《螺旋交塔》から出た俺達は、ケロスに言われて空を見上げれば、月が一際青白く煌めいていた。
ドクンドクンと以前より脈打ち、その度に青い稲妻が空を震わせる。
もうすぐで、神の目覚めが訪れるのかもしれない。
「神殺しはすぐそこまで迫ってきている。急いだ方が良いかもしれないね」
「んな事言ったって、まだセクターは三つも残ってるんだぞ?」
今残っているのは《セクター03》《セクター02》《セクター01》の三つであり、神が目覚める前に全て攻略するのは厳しいような気がする。
出来て一つで、他の二つとなると間に合わないようなきがしてならない。
「――――――それなら、人数を分けましょう。私が《セクター03》を担当するから、美食家は《セクター02》、ハクは《セクター01》に行きなさい」
三つのセクターを一気に攻略する気か?
確かにそれなら神殺し二間に合うかもしれんが……その分負担がかかり過ぎるぞ。
「僕はトロイの提案に賛成かな。少しでも成功率を上げるには、それ相応のリスクを取るべきだと思わないかい?」
――――――お前らはそういう奴だよな。
俺は口から飛び出そうになった否定的な言葉を飲み込んだ。
こういう時に現実的な事を言った所で、士気が下がって、結局成功しなかった時が一番萎えるからな。
「……分かった。ケロスは俺と来てくれ」
「良いだろう。ここまで来たのならお供するまで」
俺達三人は互いに顔を見合わせ頷いた。
ここから先は笑っても泣いても一度切りの勝負だ。
全力を尽くして相手するまで。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
EXダンジョンクエスト『蒼白塔は過去を未来に繋ぐ』
報酬:不明
タスク
1.《セクター01》に行く
2.管理AIを撃破する
神を討つには弱体化が必須。
蒼白塔の制御を断ち切れ。
健闘を祈る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《セクター01》に到着すれば、その塔は儚くも美しい白い塔だった。
周りの荒廃した街並みとは合っておらず、どこか別の世界から突然現れたかのような違和感さえ感じる。
「行くぞ」
俺とケロスは《セクター01》――――――《蒼白塔》へと駆け出していった。
――――――――その瞬間。
「何だ、景色が……!」
景色が蒼白に染まった。
「また、あの夢の空間か? あそこまで滅茶苦茶じゃねぇと良いが……」
視界の眩い光が遠のいた頃、荒廃した世界とは思えない程荘厳な街並みが広がっていた。
蒼白の道、蒼白の建物、蒼白のロボット達――――――――
この《セクター01》の影響か、いつの間にか神秘的な世界へと足を踏み入れていたのだ。
「ケロス、何か知ってるか?」
そうケロスに問いかけるも、一瞬反応が遅れた。
それ所か、驚愕して固まっているようにも見える。
「――――――ここは、崩壊前のフェロスだ」
「崩壊前の……つまり、過去を見させられてるのか」
ここは過去の夢、かつてフェロスが繁栄を極めていた頃の世界という事だろう。
警戒を怠らず前に進むと、ある小さなロボットに声をかけられる。
俺は槍を出そうとするが、ケロスに静止させられた。
「やぁ、そこのお兄さん達。僕が育てたお花買わない?」
「花? ちょっと見せてくれよ」
そこにあったのは色とりどりの花達であり、どれも色や形が異なっている。
そこで一際目立つ、紫色の花があった。
その花の名前は”エレボリア”――――――どうしても、俺が買うならその花だと強く思ってしまう。
「これにするよ」
「……よりによってその花? 結構、縁起の悪い花だよ? それ」
「それでもだ。料金はいくらだ」
俺は手持ちの金額を確認していると、その小さなロボットに止められる。
「いや、料金はいい。変な老人が「どうしても置かせてくれ」って言われた品だからね。むしろ、もってってくれ」
そんなに縁起が悪い花なのか……でも、俺自身が欲しいと感じてるんだ。
タダで貰えるなら貰っておこう。
[エレボリアを購入しました]
「本当にそれを買うとはな」
ケロスまでそれを言うのかよ。
そこまで言われるこの花――――――その由来を知りたくなったな。
「花言葉は『黄泉への旅路』だ。基本的には、不慮の事故で無くなった友人に供えられる花として知られている」
本当に縁起悪い花じゃん。
死者への手向けとして献花するくらいしか価値のない花なのだろうな。
ま、観賞用か。
「んじゃ、寄り道もここまでにして……《セクター01》の内部に入るか」
俺達は《セクター01》に入れば、ボチボチ談笑しているホログラムの人間とロボットが居る。
奥には受付があり、俺達を見かけるや否やお辞儀をして話しかけてくる。
「ようこそ《蒼白塔》へ、どのようなご要件でしょうか?」
「……あ〜ここの管理者に合いたいんだが」
「テスラ博士への対談希望ですね。少々お待ち下さい」
その言葉を聞いた瞬間、ケロスは驚愕し過ぎて硬直する。
過去の夢であろうと、その時のステラ博士に出会えるなんて、ケロスからすれば喉から手が出る程だろう。
長く独りでフェロスに残った彼は、例えロボットであろうとも感情や意思はある。
つまり、過去を振り返り寂しく思った事だってあるのかもしれない。
こここそが、ケロスにとっての褒美になるだろう。
「今しがた確認が取れました。そちらのエレベーターで最上階へとお進み下さい」
俺とケロスは胸が躍るような気持ちでエレベーターの中に入り、最上階へと登っていく。
2F、3F、4F――――――次々と階層の表示変わる毎にその気持ちが膨らんでいく。
これを機に、俺はこの合間の時間でスキルを確認する。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
〈ノイズステルス〉
分類 基礎スキル
概要 自身の存在をノイズとして、世界から認知されづらくなる。隠密度を+50%する。
〈雷式︰リアリティ・リライト〉
分類 技術スキル
消費エナジー 3
概要 自身の周囲に属性サークルを展開し、自身の雷攻撃力と雷与ダメージを30%アップする。
〈雷殲槍〉
分類 技術スキル
消費エナジー 10
概要 〈雷槍〉の進化スキル。雷の出力が上昇し、攻撃した後二重の霊撃が相手を襲う。切断攻撃力の250%、雷攻撃力の250%×2のダメージを与える。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
遂に〈雷槍〉が進化した事で、〈雷霆〉に劣らない火力を叩き出せるようになった。
――――――しかし、これが活躍するのは対神戦になりそうだ。
「てっきり、戦闘があると思い込んでいたが――――――案外すぐに終わるのかもな」
ここはあまり敵が居ない。
ボーナスステージと言っても良い程であり、ここで戦闘は無いのかもしれない。
「……私はあまり終わって欲しくないがな」
……そうだろうな。
俺は今凄い悩んでいる。
――――――ケロスをここに置いていこうか、それとも現実に連れ戻すか。
きっとケロスは神狩りでも活躍してくれるだろう。
きっとケロスは俺達を支えてくれるだろう。
しかし、この虚しく過去を見つめる姿を見てしまえば――――――無理に参加させる必要も無いとすら思えてくる。
「――――来たか」
最上階に到着した事を知らせるベルが鳴る。
エレベーターを開ければ、そこには白衣に身を包んだ女性――――――ステラ博士が居た。
「おや、君達は新入りの方だね? ようこそフェロスへ! 我々は貴方達、来訪者諸君を歓迎するよ!」
――――――この文面、聞き覚えがある。
語尾が違うが、その声色や質感は――――――間違いなくスリーサイズのものだった。
俺は一瞬漏れそうになった殺意をなんとか抑える。
あれはスリーサイズではない、ステラ博士だ。
今はそう思い込むんだ、ケロスの為に。
「…………私の名はケロスと言う。会えて光栄だ、ステラ博士」
そう、ここは過去の夢。
きっと、ケロスとステラ博士が出会う前の出来事なのだろう。
それを分かっているのか、ケロスは敢えて初対面を装っている。
「うむ、この惑星の末端でも私の栄光が伝わっているのは素晴らしい事だ。どうだろう、これからお茶会なんてものは」
「あぁ、話したい事がいっぱいあるんだ」
「そこのお連れの人はどうかな?」
「いや、俺は遠慮するよ。ここで待ってるから、二人で楽しんでくれ」
「ならケロスさん、行こうか」
ステラ博士はケロスの手をつなぎ、となりのベランダに出た。
二人は席に着き、雑談を始めている。
――――――さて、どうするか。
受付のロボットの会話から察するに――――――このステラ博士こそが《セクター01》の管理者であり、こいつを殺す事で神への弱体化が進む。
そんな気がしてならないんだ。
俺個人の感情では別に殺したって良い。
しかし理性が「殺すな」と囁いている気がする。
この幸せを壊し、神殺しに近づくか――――――
この幸せを守り、神殺しから遠ざかるか――――――
「難しいな…………」
ぶっちゃけテスラ博士――――というよりスリーサイズに恨みあるから容赦なく殺せるが、それと同時に俺はケロスとの思い出が深い事に気が付いた。
日数にして僅か3日足らずではあるものの、この惑星に漂流してから一緒に攻略した仲間だった。
例えNPCであろうと、ケロスの想いを無下には出来なかった。
――――――戻るか。
俺は黙って背を向ける。
あそこはケロスとステラ博士だけの場所だ。
邪魔は出来ない。
俺は美食家とトロイにどう言い訳をしようか考えながら足を踏み出した。
後ろから、破壊音が聞こえた。
「――――――――は?」
振り返れば、そこには既に二人は地に倒れ伏しており、漆黒の身体を持つ何者かが立っていた。
[異≠常ノ使卜▇▇▇▇▇▇▇が出現しました]




