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楽しい内ゲバ

 装備を待っている間、俺はレストランの《黄昏の饗》と呼ばれる場所で食事を摂りながら、俺は戦闘報酬のスキルの獲得ログを開く。


〈リコンストラクション〉、〈飛雷神〉、そして――――〈雷霊再臨〉。


 表示されたデータを指先でなぞるたび、微かに電子の粒子が弾けた。

 それぞれの文字の奥から、まるで雷鳴の鼓動が響くように思えたのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


〈リコンストラクション〉

分類 基礎スキル

概要 自身の身体を徐々に再構築する。常時体力自然回復10増加する。


〈飛雷神〉

分類 技術スキル

消費エナジー 2

概要 「雷印」を特定の場所に付与し、再度使用した瞬間に「雷印」の場所に瞬間移動する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 どれも破格の性能だ。

 だが――――――真に異彩を放つのは、最後の一つだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


〈雷霊再臨〉

分類 特別スキル

クールタイム 6分

持続時間 20秒

ストック上限 8

概要 身体を”雷そのもの”に分解して高速で戦場を駆け、攻撃をする毎に「電荷」が蓄積される。強化が終了すると蓄えた電荷で自分を再構築(回復+大爆発)して通常形態に戻る、自己強化型の短期戦バーストスキル。


変身中は移動速度が+40%され、「電荷」1スタック毎に移動速度+3%蓄積する。雷攻撃力を+10%され、「電荷」1スタック毎に雷攻撃力+5%蓄積される。

更に常に最大体力の0.8%、エナジー自然回復8を付与されるが、2秒間攻撃しなければ1スタック減る。

また、「電荷」を1獲得毎に持続時間 +1.25秒される。


変身解除後は現在の「電荷」の量に応じて+3%の回復と、自身の半径4mの雷攻撃力200%のダメージを与える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 なぁにこれぇ。

 ………細かい事が無茶苦茶書いてあるが要約してやろう。


 つまり、『雷に変身して、攻撃当てれば当てる程強くなる。変身後は爆発する』だ!


 ……そのスキルの文面から、ただの強化技ではないことがひしひしと伝わってくる。


 それはもはや、人が雷霊に至る儀式。


 戦闘の度に身体を焼きながら、雷として再誕する。

 まるで神話の再現――――――――と表現すれば、厨二心とロマンが刺激されてしまう。


「いやぁ、こういうの見ると胸が躍るなぁ!」


「へぇ? それ、私にも教えて頂戴?」


「あぁそれがな――――――って教える訳無いだろ」


 いつの間にか、俺の正面にトロイ――――――いや、”セキュリティ”が居た。

 多分、これは警戒度が下がったプレイヤーに対しての偽名なんだろうなと思いながら、注文した包み焼きハンバーグを頬張る。


 余談だが、この全盛期VRMMOでは食事の味にも拘る風潮があるらしい。

 そのお陰で、このハンバーグも現実とほぼ同じの美味しさで提供してくれるから、先達のクリエイターさんには感謝してもしきれないな。


「お前も何か頼むか?」


「なら私は白魚のレモンソテーにするわ。戦闘後は、軽いものがいいの」


 良いねぇ大人の女性って感じがする。

 実年齢を聞くのも失礼だから知らないんだが、こういうのを見ると、ちゃんとした社会人なのかなと思わなくもない。

 どっかから聞いた噂では実技の賞も取っているらしいから、もしやスポーツ選手だったりするのだろうか。


「………何よジロジロと見て」


「別に? ただ雰囲気が出てるなって思っただけだ」


「ふん、私からしたら”姉と弟”の食事とそう変わらないわよ。口説くのは百年早いわ」


 別に口説いちゃいないが――――――

 そう言いかけたが、辞めた。

 こんな状況じゃ、そう誤解されても仕方ない。

 それなら、むしろ楽しむべきだ。


「それで、わざわざ俺に会いに来てどうしたんだ?」


「……貴方、初期装備同然で挑んでたらしいじゃない」


「あぁそうだ。あの”ポンコツロボット”に操作権奪われて、フェロスに漂流した時はどうなるかと思ったが……意外となんとかなるものなんだな」


 漂流したての時を思い出す。

 とは言ってもつい昨日の出来事だが、スリーサイズと喧嘩して惑星落とされて、やっとの事で這い上がって来たというのに逃げられたからな……なんか思い出しただけでムカついてきたな。


「ふーん……?」


 ……………………。

 ………………………………。

 …………………………………………。


「……………………嫉妬?」


 その瞬間、セキュリティの圧が増幅した。

 完全に地雷を踏んだと確信する。

 言おうかどうか迷ったが、最終的には好奇心が勝ってしまったようだ………。


「まぁ待てよセキュリティ、まずはこの飯を食べてからだ。それまでは抑えようじゃないか」


「――――――えぇ……そうね。一旦ね、一旦」


 おぉ怖い怖い。

 その奥には『絶対◯す』の四文字が見え隠れしてるな。


「それで、そのポンコツロボットって?」


「聞いて驚け? そいつはスリーサイズだ」


「………はぁ?」


「すまん、言葉が欠けてた。”スリーサイズ”って名前のロボットが居るんだ」


 不味い、眉がピクピクしてる。

 こればかりは俺も分かる。

 変な名前してるあいつが悪いよな、うんうん。


「要するに、案内AIロボットなんだが……そいつと喧嘩して、そいつが怒ってあの惑星に落としたのが事の始まり」


「………………貴方、本当に喧嘩売る天才ね」


 セキュリティは深々とため息を吐いた。

 その表情は心底呆れているようだ。


「AI相手に喧嘩って、普通はしないわよ?」


「でもさ、言葉の節々がムカつくんだよ。あれ絶対、プログラムに悪意混ぜてるだろ」


「それはただの被害妄想………で、そのスリーサイズは今どこに?」


「逃げられた。行方は知らん」


 あいつ、何故か知らんが一向に姿現さないんだよな。

 せっかく”抱きしめて”やろうと思ったのに………勿論、そのまま磨り潰すつもりだけど。


「良かったら、私がその行方探ってあげない事もないけど?」


「……マジか、それ助かるな」


 これを機にスーパースターであるあのスリーサイズに、こちら側から会いに行くしかないな。

 きっと、俺が居なくて寂しい想いをしているだろうからな〜はっはっはっは。


「だけど、流石に高く付くわよ?」


「この残った素材を、お前に預ける。俺の大切な金のなる木だ」


「なんで某海賊漫画風なのよ……良いわ。それで手を打ちましょう」


 ………良し!

 これであのポンコツをボコs……可愛がる事が出来るぞ!

 有難う、本当に有難う。


 俺は内心感謝の雨を降り注ぎながら、包み焼きハンバーグを味わって食べる。

 そして食事が終わって、俺達は席を立ち会計を済ませる。


「よし、分割――――――俺が全部払います」


「宜しい」


 せっかくの美人が圧で台無しだよ?

 全く、一体誰が彼女の顔を般若にしたのか……!

 俺か。


 俺達は店を出る。

 ここの店は普通に美味しかったから、また食べに行きたい所だな。


「………………」


「………………」


 …………………………。


「〈クイックバレット〉ッ!」


 雷鳴のような銃声が、夜を裂く。

 銃弾が電磁の尾を引きながら一直線に迫る。

 俺はマトリックスのように身を反らし、風を裂く弾丸を紙一重で回避。

 頬をかすめた熱が、焦げた鉄の匂いを残した。

 俺は飛び上がり、追加で放たれた銃弾を回避する。


「どうした! 全然当たってねぇぞ!」


「〈デットライン〉」


 返す刃のように、真紅の弾丸が逆光を切り裂く。

 俺は空中で反転し、きらめく弾丸の雨をかろうじて抜ける。

 地に足をつくと同時に、セキュリティの姿が霞んだ。


 ――――速い。

 視界に映る残像が三重、四重と重なって見える。

 完全に人間の動きじゃねぇ。


「〈雷槍〉!」


 叫ぶと同時に、俺の手に雷が集う。

 雷の槍が空を裂き、音を追い越して放たれた。

 だが、セキュリティはその軌道を読んでいたかのように、僅かに体を逸らし、俺の横を疾風のように抜けていく。


 だが、次の一撃は逃さない。


「もう一撃だ、〈雷槍〉!」


 再び雷槍を放つ。

 稲妻が尾を引き、地面を抉りながら一直線に走る。

 その瞬間、セキュリティは足元を滑らせ、宙返りのように蹴りを放ってきた。


「ちっ……!」


「これで終わり?」


 頬を掠めた。

 鋭い痛みと同時に、視界が一瞬白く弾ける。

 反撃に雷を掴み――――――


「ぬかせ! 〈雷霆〉」


 雷を掴み投げ打つ。

 空気が震え、雷鳴が街路を貫く。

 閃光が夜を白く染め、セキュリティの横腹を灼いた。


「…………っ!」


 体勢を崩しながらも、彼女は冷静に構え直す。

 息ひとつ乱さず、銃口をこちらに向けた。


「〈クイックバレット〉!」


 閃光のように光弾が放たれ、避けた瞬間にセキュリティは既に位置を変えている。


 残響が遅れて追いつく。

 距離、ゼロ。

 至近で交差する視線。


「〈デットライン〉!」


 真紅の弾丸が煌めいた。

 ――――――攻撃が読めねぇ!


「ぐっ……!」


 腕を掠める衝撃。

 肉を裂く痛みが電流のように走り、体力ゲージが一気に減少する。

 赤く点滅するUIが視界の隅に灯った。


「あと一発ね!」


 セキュリティが、わずかに口角を上げる。

 その眼光は氷のように冷たく、戦闘AIのような精密さでこちらを狙う。


「攻守交代のつもりか? なら、俺も真似させて貰うぜ!」


 ――――――ここからが本番だ。


 空気が弾けた瞬間、世界が静止する。

 視界に走る稲妻。

 音が遅れて、追いつく。


「〈雷霊再臨〉」


 轟音。

 雷鳴と共に、俺の身体が分解された。

 粒子となり、雷そのものへと変貌していく。

 皮膚は光に溶け、神経は電流と化す。

 鼓動が消え、代わりに心臓の代わりを雷が打った。


「……特別スキル!」


 セキュリティの目が見開かれる。

 次の瞬間、世界が光で塗り潰された。


 稲妻が地を走り、瓦礫を貫く。

 俺はもはや肉体を持たぬ雷霊。

 速度は常識を超え、視界の中を幾筋もの光跡が走り抜ける。

 攻撃するたび、雷が体に宿り、"電荷"が増幅する。


 一撃、また一撃。

 閃光が軌跡を描き、周囲の建物が砕け、光の粒子と化す。

 雷槍を纏った拳で殴り抜け、蹴りと共に稲妻を散らす。

 まるで、戦場そのものが呼吸しているかのようだ。


「速い……それで私を追い詰めたつもり?」 


 セキュリティの頬に冷や汗が伝う。

 それでも、彼女は退かない。

 弾倉を蹴り出し、空中で組み替え、即座に再装填。

 反射の動きで放たれる弾丸は、雷光を裂き、数発が掠る。


 だが――――――もう遅い。


 「電荷」は臨界に達していた。


「〈雷霆〉ッ!」


 俺の身体が閃光に包まれ、世界が白に染まる。

 雷鳴が全域に轟き、街路が震え上がる。

 光が爆ぜた瞬間、己が形を取り戻す。

 再構築。

 回復と同時に、炸裂する雷の奔流。


 白閃が夜を喰らい、視界の全てが焼き尽くされた。

 雷光の奔流が周囲を包み込み、爆風が走る。

 遠くに、セキュリティのシルエットが吹き飛び、しかし――――――その口元には笑みがあった気がした。


 轟音に紛れて、彼女の声が微かに聞こえていた。

 ――――――――〈ルナティックリフレクション〉と。


 その瞬間、煙の中から銃弾の雨が飛び出した。


「なっ……!」


 そして、俺の視界は暗転した。

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