楽しい内ゲバ
装備を待っている間、俺はレストランの《黄昏の饗》と呼ばれる場所で食事を摂りながら、俺は戦闘報酬のスキルの獲得ログを開く。
〈リコンストラクション〉、〈飛雷神〉、そして――――〈雷霊再臨〉。
表示されたデータを指先でなぞるたび、微かに電子の粒子が弾けた。
それぞれの文字の奥から、まるで雷鳴の鼓動が響くように思えたのだ。
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〈リコンストラクション〉
分類 基礎スキル
概要 自身の身体を徐々に再構築する。常時体力自然回復10増加する。
〈飛雷神〉
分類 技術スキル
消費エナジー 2
概要 「雷印」を特定の場所に付与し、再度使用した瞬間に「雷印」の場所に瞬間移動する。
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どれも破格の性能だ。
だが――――――真に異彩を放つのは、最後の一つだ。
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〈雷霊再臨〉
分類 特別スキル
クールタイム 6分
持続時間 20秒
ストック上限 8
概要 身体を”雷そのもの”に分解して高速で戦場を駆け、攻撃をする毎に「電荷」が蓄積される。強化が終了すると蓄えた電荷で自分を再構築(回復+大爆発)して通常形態に戻る、自己強化型の短期戦バーストスキル。
変身中は移動速度が+40%され、「電荷」1スタック毎に移動速度+3%蓄積する。雷攻撃力を+10%され、「電荷」1スタック毎に雷攻撃力+5%蓄積される。
更に常に最大体力の0.8%、エナジー自然回復8を付与されるが、2秒間攻撃しなければ1スタック減る。
また、「電荷」を1獲得毎に持続時間 +1.25秒される。
変身解除後は現在の「電荷」の量に応じて+3%の回復と、自身の半径4mの雷攻撃力200%のダメージを与える。
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なぁにこれぇ。
………細かい事が無茶苦茶書いてあるが要約してやろう。
つまり、『雷に変身して、攻撃当てれば当てる程強くなる。変身後は爆発する』だ!
……そのスキルの文面から、ただの強化技ではないことがひしひしと伝わってくる。
それはもはや、人が雷霊に至る儀式。
戦闘の度に身体を焼きながら、雷として再誕する。
まるで神話の再現――――――――と表現すれば、厨二心とロマンが刺激されてしまう。
「いやぁ、こういうの見ると胸が躍るなぁ!」
「へぇ? それ、私にも教えて頂戴?」
「あぁそれがな――――――って教える訳無いだろ」
いつの間にか、俺の正面にトロイ――――――いや、”セキュリティ”が居た。
多分、これは警戒度が下がったプレイヤーに対しての偽名なんだろうなと思いながら、注文した包み焼きハンバーグを頬張る。
余談だが、この全盛期VRMMOでは食事の味にも拘る風潮があるらしい。
そのお陰で、このハンバーグも現実とほぼ同じの美味しさで提供してくれるから、先達のクリエイターさんには感謝してもしきれないな。
「お前も何か頼むか?」
「なら私は白魚のレモンソテーにするわ。戦闘後は、軽いものがいいの」
良いねぇ大人の女性って感じがする。
実年齢を聞くのも失礼だから知らないんだが、こういうのを見ると、ちゃんとした社会人なのかなと思わなくもない。
どっかから聞いた噂では実技の賞も取っているらしいから、もしやスポーツ選手だったりするのだろうか。
「………何よジロジロと見て」
「別に? ただ雰囲気が出てるなって思っただけだ」
「ふん、私からしたら”姉と弟”の食事とそう変わらないわよ。口説くのは百年早いわ」
別に口説いちゃいないが――――――
そう言いかけたが、辞めた。
こんな状況じゃ、そう誤解されても仕方ない。
それなら、むしろ楽しむべきだ。
「それで、わざわざ俺に会いに来てどうしたんだ?」
「……貴方、初期装備同然で挑んでたらしいじゃない」
「あぁそうだ。あの”ポンコツロボット”に操作権奪われて、フェロスに漂流した時はどうなるかと思ったが……意外となんとかなるものなんだな」
漂流したての時を思い出す。
とは言ってもつい昨日の出来事だが、スリーサイズと喧嘩して惑星落とされて、やっとの事で這い上がって来たというのに逃げられたからな……なんか思い出しただけでムカついてきたな。
「ふーん……?」
……………………。
………………………………。
…………………………………………。
「……………………嫉妬?」
その瞬間、セキュリティの圧が増幅した。
完全に地雷を踏んだと確信する。
言おうかどうか迷ったが、最終的には好奇心が勝ってしまったようだ………。
「まぁ待てよセキュリティ、まずはこの飯を食べてからだ。それまでは抑えようじゃないか」
「――――――えぇ……そうね。一旦ね、一旦」
おぉ怖い怖い。
その奥には『絶対◯す』の四文字が見え隠れしてるな。
「それで、そのポンコツロボットって?」
「聞いて驚け? そいつはスリーサイズだ」
「………はぁ?」
「すまん、言葉が欠けてた。”スリーサイズ”って名前のロボットが居るんだ」
不味い、眉がピクピクしてる。
こればかりは俺も分かる。
変な名前してるあいつが悪いよな、うんうん。
「要するに、案内AIロボットなんだが……そいつと喧嘩して、そいつが怒ってあの惑星に落としたのが事の始まり」
「………………貴方、本当に喧嘩売る天才ね」
セキュリティは深々とため息を吐いた。
その表情は心底呆れているようだ。
「AI相手に喧嘩って、普通はしないわよ?」
「でもさ、言葉の節々がムカつくんだよ。あれ絶対、プログラムに悪意混ぜてるだろ」
「それはただの被害妄想………で、そのスリーサイズは今どこに?」
「逃げられた。行方は知らん」
あいつ、何故か知らんが一向に姿現さないんだよな。
せっかく”抱きしめて”やろうと思ったのに………勿論、そのまま磨り潰すつもりだけど。
「良かったら、私がその行方探ってあげない事もないけど?」
「……マジか、それ助かるな」
これを機にスーパースターであるあのスリーサイズに、こちら側から会いに行くしかないな。
きっと、俺が居なくて寂しい想いをしているだろうからな〜はっはっはっは。
「だけど、流石に高く付くわよ?」
「この残った素材を、お前に預ける。俺の大切な金のなる木だ」
「なんで某海賊漫画風なのよ……良いわ。それで手を打ちましょう」
………良し!
これであのポンコツをボコs……可愛がる事が出来るぞ!
有難う、本当に有難う。
俺は内心感謝の雨を降り注ぎながら、包み焼きハンバーグを味わって食べる。
そして食事が終わって、俺達は席を立ち会計を済ませる。
「よし、分割――――――俺が全部払います」
「宜しい」
せっかくの美人が圧で台無しだよ?
全く、一体誰が彼女の顔を般若にしたのか……!
俺か。
俺達は店を出る。
ここの店は普通に美味しかったから、また食べに行きたい所だな。
「………………」
「………………」
…………………………。
「〈クイックバレット〉ッ!」
雷鳴のような銃声が、夜を裂く。
銃弾が電磁の尾を引きながら一直線に迫る。
俺はマトリックスのように身を反らし、風を裂く弾丸を紙一重で回避。
頬をかすめた熱が、焦げた鉄の匂いを残した。
俺は飛び上がり、追加で放たれた銃弾を回避する。
「どうした! 全然当たってねぇぞ!」
「〈デットライン〉」
返す刃のように、真紅の弾丸が逆光を切り裂く。
俺は空中で反転し、きらめく弾丸の雨をかろうじて抜ける。
地に足をつくと同時に、セキュリティの姿が霞んだ。
――――速い。
視界に映る残像が三重、四重と重なって見える。
完全に人間の動きじゃねぇ。
「〈雷槍〉!」
叫ぶと同時に、俺の手に雷が集う。
雷の槍が空を裂き、音を追い越して放たれた。
だが、セキュリティはその軌道を読んでいたかのように、僅かに体を逸らし、俺の横を疾風のように抜けていく。
だが、次の一撃は逃さない。
「もう一撃だ、〈雷槍〉!」
再び雷槍を放つ。
稲妻が尾を引き、地面を抉りながら一直線に走る。
その瞬間、セキュリティは足元を滑らせ、宙返りのように蹴りを放ってきた。
「ちっ……!」
「これで終わり?」
頬を掠めた。
鋭い痛みと同時に、視界が一瞬白く弾ける。
反撃に雷を掴み――――――
「ぬかせ! 〈雷霆〉」
雷を掴み投げ打つ。
空気が震え、雷鳴が街路を貫く。
閃光が夜を白く染め、セキュリティの横腹を灼いた。
「…………っ!」
体勢を崩しながらも、彼女は冷静に構え直す。
息ひとつ乱さず、銃口をこちらに向けた。
「〈クイックバレット〉!」
閃光のように光弾が放たれ、避けた瞬間にセキュリティは既に位置を変えている。
残響が遅れて追いつく。
距離、ゼロ。
至近で交差する視線。
「〈デットライン〉!」
真紅の弾丸が煌めいた。
――――――攻撃が読めねぇ!
「ぐっ……!」
腕を掠める衝撃。
肉を裂く痛みが電流のように走り、体力ゲージが一気に減少する。
赤く点滅するUIが視界の隅に灯った。
「あと一発ね!」
セキュリティが、わずかに口角を上げる。
その眼光は氷のように冷たく、戦闘AIのような精密さでこちらを狙う。
「攻守交代のつもりか? なら、俺も真似させて貰うぜ!」
――――――ここからが本番だ。
空気が弾けた瞬間、世界が静止する。
視界に走る稲妻。
音が遅れて、追いつく。
「〈雷霊再臨〉」
轟音。
雷鳴と共に、俺の身体が分解された。
粒子となり、雷そのものへと変貌していく。
皮膚は光に溶け、神経は電流と化す。
鼓動が消え、代わりに心臓の代わりを雷が打った。
「……特別スキル!」
セキュリティの目が見開かれる。
次の瞬間、世界が光で塗り潰された。
稲妻が地を走り、瓦礫を貫く。
俺はもはや肉体を持たぬ雷霊。
速度は常識を超え、視界の中を幾筋もの光跡が走り抜ける。
攻撃するたび、雷が体に宿り、"電荷"が増幅する。
一撃、また一撃。
閃光が軌跡を描き、周囲の建物が砕け、光の粒子と化す。
雷槍を纏った拳で殴り抜け、蹴りと共に稲妻を散らす。
まるで、戦場そのものが呼吸しているかのようだ。
「速い……それで私を追い詰めたつもり?」
セキュリティの頬に冷や汗が伝う。
それでも、彼女は退かない。
弾倉を蹴り出し、空中で組み替え、即座に再装填。
反射の動きで放たれる弾丸は、雷光を裂き、数発が掠る。
だが――――――もう遅い。
「電荷」は臨界に達していた。
「〈雷霆〉ッ!」
俺の身体が閃光に包まれ、世界が白に染まる。
雷鳴が全域に轟き、街路が震え上がる。
光が爆ぜた瞬間、己が形を取り戻す。
再構築。
回復と同時に、炸裂する雷の奔流。
白閃が夜を喰らい、視界の全てが焼き尽くされた。
雷光の奔流が周囲を包み込み、爆風が走る。
遠くに、セキュリティのシルエットが吹き飛び、しかし――――――その口元には笑みがあった気がした。
轟音に紛れて、彼女の声が微かに聞こえていた。
――――――――〈ルナティックリフレクション〉と。
その瞬間、煙の中から銃弾の雨が飛び出した。
「なっ……!」
そして、俺の視界は暗転した。




