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でんでんむしむしかたつむり

 《逆重塔》の内部に響く金属音――――――それは単なる衝撃音ではなく、空間そのものが呻き、ねじれるような異音だった。

 瓦礫が“カラカラ”と不規則に転がり、天井からは黒い触手が幾本も垂れ下がる。

 空気は重く、微かにオゾンのような匂いが混じっていた。

 金属の錆と埃、機械油の匂いが混ざり合い、戦場に足を踏み入れた瞬間から全身の神経を刺激する。


「醜い外見のカタツムリだこと。一体何をしてくれるのかしら」


 その瞬間、塔の壁一面に赤い目が開いた。

 ギラリと光る無数のセンサーが同時にこちらを捉える。

 蠢く触手が空気を切り裂き、鉄が軋む音と共に襲いかかってきた。


「おいおい、こんな狭い場所で質量攻撃かよ」


 振り下ろされた一本が瓦礫を粉砕し、衝撃波が全身を打ち抜く。

 触れた瓦礫は奈落へと落ち、わずかなバランスの崩れが即死に直結する。

 周囲の瓦礫が舞い上がり、床はもはや安定していない。


「流石に……回避がキツイね〜攻撃は単調だけど、範囲が尋常じゃないや」


 黒い触手は速度こそ見切れるほどだが、その()()()が問題だ。

 加えて数が多く、事実上の全体攻撃として機能していた。

 瓦礫を巻き込みながらの攻撃は、物理だけでなく心理的な圧迫感も伴っている。


 その様子を見たケロスが右腕を変形させ、砲口が紫色の光を帯びる。


「〈グラヴィティ砲〉」


 重力弾が発射され、触手の一部を強制的に沈めた。

 歪んだ空間が“ギュオン”と音を立てねじれ、床ごと敵を押し潰す。

 瓦礫の塊が跳ね、砕けた金属片が弾けるように飛ぶ。


「(口笛を吹く音)。やるねぇ、良い火力してんじゃん」


 だが、それでもなお、一面の触手は止まらない。

 美食家がナイフを構え、トロイが双銃を回転させる。


「〈ピンポイント〉」

「〈デットライン〉」


 銃弾が火花を散らし、ナイフが触手を切り裂くが、次の瞬間、敵の本体から無数の球体が浮かび上がった。

 光を帯びた青い球体―――――その表面を走る稲妻が、不穏にパチパチと弾ける。


「〈グラヴィティ障壁〉」


 ケロスが即座にドーム状のフィールドを展開する。

 爆発の衝撃を抑え込み、仲間を守る。

 EMPの炸裂が周囲の瓦礫を浮かせ、空間そのものを震わせていたのだ。


「ちっ……! 完全に仕留めに来てるな」


 俺達はEMPの波動が消えた瞬間、各々の武器を構え、〈グラヴィティ障壁〉から飛び出て攻勢に出る。

 だが、空気が微かに震え、視界が揺らいだその瞬間――――――


「何だ、身体が……!」


 黒い身体に潜んでいた巨大な眼が赤く光り、空気を歪ませる見えない波動が襲う。

 筋肉が硬直し、脳が命令を下しても身体が従わない。

 足元の瓦礫が微かに滑り、重力の圧が肉体に重くのしかかる。


「おいおい、奈落まで叩き落とす気か!」


 ターミネーターテンタクルは、その瞬間を見逃さない。

 触手が赤く光り、静かに振り上げる。

 空気が震え、奈落の重力を利用した一撃は、まさに“死刑宣告”の圧を帯びていた。


「〈グラヴィティ手腕〉」


 触手が振り下ろされたその時、ケロスの念動が走り、俺の身体が宙に引き上げられる。

 触手が瓦礫を砕き、爆風が下から吹き上がる。

 奈落の風圧が頬を切り裂きながらも、かろうじて踏みと留まる事が出来た。


「有難う、助かった!」


「礼には及ばん」


 相変わらずケロスは痒い所に手が届く。

 《セクター07》での共闘経験が活きているな。


「ハク、勘が鈍ってるんじゃない?」


 美食家がニヤリとこちらを振り向く。

 先程までマグネットビートルに落とされてた奴とは思えない発言だな。


「〈クイックバレット〉」


 二丁拳銃が閃き、真紅の弾丸が眼球を狙い撃つ。

 そして美食家が跳躍し、両手にナイフを構える。


「〈クロスファング〉」


 その攻撃に合わせる様に側面の触手を切り裂いた。

 ターミネーターテンタクルは甲高い悲鳴を上げ、他の触手と共に機体を震わせる。


 ――――――その瞬間だった。


 ターミネーターテンタクルの本体が、制御を失ったかのように暴走を始めた。

 触手が制御不能に蠢き、塔内部の空間を切り裂く。

 壁に叩きつけられた瓦礫が跳ね返り、回転する触手の先端が空気を引き裂く音は、まるで金属の嵐そのものだった。


[スキル〈挑発者〉が発動しました]


 触手が激しく振り回され、床や壁に衝突して軋み、粉塵と火花を巻き上げる。

 空気の圧が異常に変化し、呼吸するだけでも胸が押し潰されるようだ。


「ちっ……発狂モードか!」


 触手の暴走は予想以上で、攻撃の方向やタイミングが全く読めない。

 瓦礫が空間を漂い、暴れる触手が突風のように襲う。

 頭上で振り回される触手が、塔の天井を叩き、鉄骨の軋みと衝撃音が重なって耳を突く。


「そう怒らないで、これでも喰らって大人しくしてなよ。〈クロスファング〉」


「駄目押しね。〈デットライン〉」


 美食家が跳躍して、ナイフで触手を斬り裂く。

 トロイの真紅の銃弾が高速で触手に突き刺さり、爆発と閃光が迸る。

 それでも、暴走する触手の勢いは止まらず、塔全体を揺らすほどの破壊力を伴っている――――――


「そろそろ仕留めるぞ。〈グラヴィティ障壁〉」


 ケロスはドーム状に重力障壁を張る。

 その意図を理解した俺は体勢を立て直して、その障壁に登り高らかにジャンプする。


 その瞬間、無数の触手が俺に襲いかかるが―――――――


 もう、遅い。


「〈雷槍〉ッ!」


 槍先に雷が走り、眼球へと突き刺さる。

 雷撃が脳核を貫き、内部の回路を焼き尽くした。

 触手が暴れ、塔全体が悲鳴を上げるように揺れる。


 機体は大爆発を起こし、その欠片がゆっくり奈落へと吸い込まれていった。

 静寂――――――重力に縛られていた空間が、ようやく呼吸を取り戻したようだった。


[ターミネーターテンタクルを撃破しました]

[素材アイテム︰触装ケーブル繊維×5、テレキネティック・コア、EMP触媒ユニット×2、ダークシェル・オブシディアン]

[スキル〈雷攻撃強化〉を獲得しました]

[スキル〈雷霆〉を獲得しました]


「今回も危なげなく倒せた様だな!」


「あったよね、”危なげ”」


「せっかく敵の掴み攻撃入れられた時にスクショ準備してたのに、残念」


 うるさいやい、最後良ければ全て良しだろうが。

 こいつらの前で判断ミスすると、毎回おちょくって来るの何なんだよ。


「さ、そんな事よりスキル確認っと〜お、中々良さそうなスキル落ちてるじゃ〜ん」


 切り替え早すぎだろとツッコミを入れそうになるが、この程度で苛ついてたら胃が持たないから、自分もスキルを確認する事にした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


〈雷攻撃強化〉

分類 基礎スキル

概要 自身の雷系の攻撃に与ダメージが50%増加する。


〈雷霆〉

分類 基礎スキル

消費エナジー 10

概要 自身の武器を雷そのものと化し放つ御業。雷攻撃力の300%のダメージを与える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 雷攻撃力が300%も……!

 消費エナジーは重いが、それに見合った火力をしている。

 〈雷電炉〉もあるから、戦闘中にエナジーを全回復して、即座に〈雷霆〉を放つ事が可能だ。

 近接戦闘ばかりだった俺に、ついに飛び道具が手に入ったって訳だな。


 俺は〈挑戦者〉と〈刃閃〉を外し〈雷攻撃強化〉と〈雷霆〉を付け替える。


「よし、この調子で登っていくか」


 吹き抜ける風が、さらなる試練の到来を告げているような気がした。

 この最上階にどのような敵が待ち受けているのかと胸を踊らせながら、一歩一歩足を踏みしめ登っていくのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「随分と手厚い待遇じゃないか」


 空気が薄く、音がやけに遠く感じる。

 赤い霧は濃度を増し、まるで血の蒸気の中を歩いているかのようだった。

 瓦礫が静止し、重力が“止まっている”ように感じる。

 それほどまでに空間が異常だった。


「歓迎ってより、“観察”されてる感じだね」


 彼の視線の先、霧の中に光が瞬いた。

 まるでこちらの動きを逐一読み取るように―――青白い閃光がゆっくりと形を成していく。

 霧が裂け、浮かび上がる青い球体。

 それはただのコアではなく、透明で微細な回路が脈打ち、光の網が神経のように全身へ伸びていた。

 塔の中枢、いや、“塔そのもの”がその意識で構成されているかのようだ。


[この先はエリアボスです。挑戦しますか?]

[はい いいえ]


「だってさ、どうする? 逃げるなら今だぜ?」


 冗談めかして俺は言う。

 だが、二人の反応は、いつもの通りだ。


「ハク、分かってて言ってるんだろ? ――――僕達に、最初っから”退路”なんて単語は存在しない」


 美食家はニヤリと笑い、光るナイフを構えた。

 霧がその刃に反射し、血のような光を放つ。 


「えぇ、ここまで来たんですもの。最後まで、美しく終わらせて差し上げましょう」


 トロイが銃口を回転させ、弾倉を入れ替える。

 その音が、緊張の中で妙に鮮やかに響く。


 実に頼もしい二人だ。

 ならば、俺も気を引き締めて頑張るしかない。


「――――――決まりだな」


 俺は微かに笑い、『はい』を押した。


 瞬間、床が震える。

 低い唸りが空間を満たし、金属の軋みが重なっていく。

 塔の奥から、何か巨大な“意思”が目覚める感覚――――――


[エリアボス:管理AIゼータフェイスが起動しました]


 青白い光が爆発的に膨張し、赤い霧が一瞬で吹き飛ぶ。

 その中心で、塔の構造物が――――崩壊しながら()()()()()()いく。

 壁面を覆っていた金属板が浮かび上がり、瓦礫は軌道を描きながら空中に配置され、回路のような陣形を形成していき、やがてそれらは一つの“顔”のような形状を形作った。


 それは造形というより、“錯覚”に近い。


 漂う瓦礫の配置、発光する回路、青白いコア光が組み合わさり――――――霧の中に、巨大な人の顔のような幻影が浮かび上がっていた。


 塔が“表情”を持ち、こちらを見下ろしている。

 その“眼”が開いた瞬間、空気が一気に凍りつく。


[――――侵入者、確認。セクター06管理領域へのアクセス権を検証中]


[不正認証――――――排除プロトコル、起動]


「うわ、言葉のチョイスが殺意高いね」


 美食家が肩を竦め、しかしその足取りは一歩も引かない。


「準備出来てるか? ケロス」


「勿論完了している。私は三人のサポートに回ろう」


 金属の壁が波打ち、床が隆起する。

 浮遊する瓦礫が周囲を旋回し、まるで意思を持つ衛星のように配置されていく。

 空間全体が、敵の“神経”であり“手足”だと理解するのに、時間はかからなかった。


「それじゃ、せっかくここまで来たんた――――――楽しませてくれよ?」


 俺は槍を構え、青白い“顔”と対峙する。

 その瞳の奥で無数の回路が瞬き、まるで笑っているかのように揺らめいた。


 ――――――これより、戦闘開始となる。

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