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セクター06は圧が強い

「それで、これどうやって入るんだ?」


 浮かぶ塔は瓦礫に覆われ、その下には深淵まで続きそうな奈落が広がっている。

 視界に映る黒い闇は底知れず、光を吸い込むように暗く沈んでいた。

 瓦礫の隙間からは、わずかな風が“ヒュッ”と耳をかすめ、鉄の錆びた匂いと土の湿った香りが鼻を突く。

 現実的な進入方法として考えられるのは、どこかに橋を出す装置があると見るべきだろう。


「僕、良い事思いついた」


「却下」


「落とすの早くない? 僕まだ何も言ってないよ?」


 美食家の提案で良い思い出は、正直無い。

 どれもこれも滅茶苦茶で、理性を吹き飛ばすようなものばかりだった。


「ほら、ここってさ瓦礫いっぱい浮いてるじゃん」


「うん」


「それに乗って、ジャンプして渡れないかな〜って」


「あ〜」


「待て、ハク。そこ納得するのか?」


 少しはマトモな提案に思わず納得しかける―――――いや、現実的に考えたら普通に却下だが。

 だが、ここら一帯は宙に浮かぶ瓦礫の山。

 もしこれらを足場にできれば、橋を出す装置など必要ないし、攻略も大幅に時短できる。


「既に乗れる事は確認済みよ。行きましょう」


「お、流石トロイ。仕事が早ぇ」


 俺たちは迷わず瓦礫の上に飛び乗る。

 小さな足場は不安定で、少し傾いただけで足元の瓦礫が“ガラガラ”と崩れる音がする。

 わずかな揺れの振動が全身に伝わるが、立つくらいなら造作もない。


「……まさか、こんな危険な事やらされるとは」


 心なしかその赤い単眼に怯えが混じってる気がする。

 小さな足場に落ちたら即死――――――普通に考えれば怖がるのも当然だ。


 俺達は瓦礫を飛び移って塔の二階にあるテラスのような場所に降りる。

 室内を覗き込めば、そこは”室内”と言って良いのか怪しい空間が広がっていた。

 床は吹き抜けており、暗闇の奈落が顔を出している。

 残る足場は狭く、少ない。

 一歩でも踏み外せば、命がどうなるかは目に見えていた。


「高所恐怖症が数回死ぬマップ構成してるね」


「ここは大穴の下から流れ出る重力とセクター自体の重力が干渉し合う事で形成されている。その影響で瓦礫は宙に浮くなどの物理法則が狂っている」


 気になった俺は、検証のために手近な石を奈落に落としてみた。

 一階の下に到達した瞬間、石は落下速度を増して一瞬で視界から消える。


「わぁお」


「これは押し合う力というより、”引き寄せる力”だね。どっちも引き寄せてるから結果的に宙に浮いてるだけかな」


 『下から流れ出る重力』――――――そう聞いて、もしかしたら、奈落に落ちても逆に上に押し出されるかもしれないと淡い希望を抱いていた。

 しかし結果は見ての通りで、逆に引き寄せられて奈落まで落とされる仕様のようだった。

 

「そう甘くはねぇか。仕方ない、地道に攻略するか」


 俺達は室内に入り限られた足場を伝って登っていく。

 風が室内に吹き込み、“ヒュウッ”という鋭い音が、瓦礫の揺れと共に緊張感を増幅させる。

 その時、視界の端で一瞬、何かの影が横切った。


「〈クイックバレット〉」


 動き回る影を捉え、トロイは二丁拳銃を取り出し、鋭く銃弾を放つ。

 影は瞬間的に動きを止め、怒りの唸り声と共に姿を現した。


M(マグネット)-Beetle(ビートル)が出現しました]


 クワガタのような体格を持ち、二本の角の先端は四角く、赤と青の色で彩られている。

 触れれば微かに磁力を感じるような、金属特有の冷たい存在感が漂っていた。


「へぇ、虫のロボットだ! 面白い!」


「他の惑星には居ないのか?」


「うん、少なくともロボットが敵として出てくる事は――――――っ?!」


 その瞬間、美食家はマグネットビートルに引き寄せられる様に強制移動させられる。

 下は奈落であり、このままだと先程投げ入れた石ころと同じ末路を辿るだろう。


「――――――結構やるじゃん」


 間一髪の所で美食家は浮いた瓦礫に手を掛け、九死に一生を得たようだ。


「〈雷槍〉」

「〈デッドライン〉」


 俺が槍に雷を纏わせ攻撃し、トロイが真紅の弾丸を放つ。

 その合わせ技に耐えられなかったのか、マグネットビートルは呆気なく粉砕された。


[マグネットビートルを撃破しました]

[素材アイテム:磁石の角×2、鋼鉄の羽×3]

[スキル〈反重力〉を獲得しました]


「厄介ね、あの虫。奈落に落とす事に特化してるわ」


 ただの虫だと油断させ、突然引き寄せて落とす――――――《セクター07》も含め、雑魚敵の手強さは侮れない。


「真面目に解析してないで、助けてくれないかな〜」


「〈グラヴィティ手腕〉」


 その美食家の呼びかけに応じるように、ケロスは彼を浮かせ元の位置まで戻した。


「おぉ、便利だね〜入り口に入るときにも使えれば良かったのに」


「当然効果範囲がある。あそこから入り口まで届かない」


 美食家は『それもそうか』と言った具合で肩をすくめる。

 何処にでも物を運べるなら最初っからしてるだろうしな。


 俺達は探索を続ける為に上に登る。

 この塔の道は瓦礫の螺旋階段状になっていて、天井も吹き抜けになっている。

 どうやら、何処に行っても落下の恐怖から逃れられないらしい。


「スキル〈反重力〉か……ここでは便利そうだな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


〈反重力〉

分類 基礎スキル

概要 重力の影響を20%軽減し、重力エリアでの移動速度低下を半減する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 重力の影響の軽減――――――まさに、このエリアにピッタリなスキルと言える。

 あの厄介なマグネットビートルの引き寄せ効果も軽減してくれるなら、付けない理由は無い。

 この探索モードの内に〈雷耐性強化〉と入れ替えるべきだろう。


[警告:《逆重塔》の重力干渉により、移動速度が低下します]


 タイミング良く重力干渉を得る空間へと突入した。

 俺は〈反重力〉により移動速度低下の影響を半減出来ているから、少し重りが付く程度に感じる。


「げっ、異常空間じゃん!!」


「お前らって〈反重力〉のスキル手に入れた?」


「あ〜何か手に入れてたね……これか」


 二人はまだ異常空間にそこまで慣れてないのか、少々ぎこちなくスキルの変更を済ませる。


「……確かに全然違うわね」


「ちなみに聞くが……半減してない状態だと、どれくらい動き辛くなるんだ?」


「うーん……家具を運んでる時くらい?」


 そりゃ重すぎだな。

 そんな状態で戦闘なんて出来るはずが無い。

 こういう異常空間では、いち早く耐性系のスキルを手に入れて装着しておくのが良いのかもしれない。


「でもスキルスロットの枠一つ潰しちゃうのが嫌だよね〜」


「そうね、あるのと無いのとじゃ動き方が全然違うもの」


 異常空間では耐性スキルが必須――――――――その分、スロットは圧縮され、万全なパフォーマンスを維持するには一つも欠けられない。


「前方敵を発見」


 ケロスが短くそう伝えると、いつの間にか目の前に新たな敵が現れていた。

 壁に張り付くその機械は、ニヤケ面を浮かべた猿のような姿をしている。


F(フリップ)-Monkey(モンキー)が出現しました]


 手に持ったボール状の物体を投げつけてくる。


「〈ピンポイント〉」


 美食家は手持ちのナイフを取り出して投擲、そのボールを撃ち落とそうと精密に飛んでいった。


 ――――――――だが、飛んだのはナイフだった。


 そのナイフはボールと接触した瞬間、その弾力によって急激にあらぬ方向へと飛ばされ奈落へと落ちていく。


「今度は弾き飛ばす弾って訳だ」


 このセクターの雑魚敵は、落下の恐怖を利用した理不尽さを体現している。

 フリップモンキーは次々と球を投げつけ、瓦礫を飛び交いながらこちらの隙を狙う。


「要するに、当たらなければ良いんでしょ?」


 トロイは身軽に球を避け、瓦礫を飛び移りながら距離を詰める。

 俺と美食家も、奈落を背に慎重に飛び移りつつ、フリップモンキーの正面に立つ。


「〈雷槍〉」

「〈クロスファング〉」

「〈デットライン〉」


 三人の攻撃が同時に交差し、雷が空気を震わせ、衝撃で瓦礫が微かに崩れる音が響く。

 フリップモンキーは苦悶の表情を浮かべ、金属が軋むような音を立てて粉々になった。


[フリップモンキーを撃破しました]

[素材アイテム:鋼鉄の尻尾×1]

[道具アイテム:弾力の球体×5]


「俺が撃つまでも無かったな」


 ケロスは右腕の砲身を仕舞う。

あれだけ悪質で理不尽な雑魚敵も、この三人なら一連の動作の中で落ち着いて処理できる。

 瓦礫と奈落が入り混じる不安定なエリアでも、呼吸を整え、動きのリズムを崩さなければ致命傷は免れることを示していた。


「そう簡単にやられる程か弱くじゃないよ」


「むしろ、拍子抜けね」


 流石美食家とトロイだ、何時にも増して強気だな。

 じゃあ――――――


「あれも余裕で対処出来るよな?」


 壁に張り付く黒い影――――――二本の触手のようなものがこちらへ伸びてきた。

 触手型の巨大な機械ロボットであり、その表面には赤く光るセンサーが無数に並び、触手は瓦礫に沿って自在に伸び縮みしている。


T(ターミネーター)-Tentacle(テンタクル)が出現しました]


「「勿論」」


 黒光りする触手型の機械は、瓦礫の隙間を自在に伸縮し、こちらの動きを封じるように空間を支配しているような錯覚を覚える。


 《セクター06》――――――《逆重塔》の中ボスを前に俺達は一歩も引かず武器を構えた。

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