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第九十二話:2000年越しの恋

Scene.341 リラファイヤーと星空のダンス


その夜ウチらは月見の頂きの山頂でキャンプをすることにした。


「莉央様お任せを。これが『キャンプ”リラ”ファイヤー』ですわ」


リラがドヤ顔で作り出したのは、紅蓮の炎と絶対零度の氷が螺旋を描いて燃え上がる、超絶アーティスティックな焚き火だった。暖かくて涼しい不思議な炎だ。


エリナは聖樹の力が戻りつつあるこの地で、星の民の儀式をやり遂げたことがよほど嬉しかったんだろう。

三つの月の下彼女は、一人楽しそうにくるくると踊り始めた。

そのあまりにも無邪気で美しい光景に、ウチとリラもいつの間にか手を引かれて踊りの輪に加わっていた。

ウチはデタラメなギャルのパラパラ。リラは優雅なエルフの宮廷舞踊。

めちゃくちゃな組み合わせだったけど、ウチらは腹を抱えて笑い転げた。

そして踊り疲れたウチらは、そのまま星苔の絨毯の上に寝転がって、満天の星空を見上げていた。


Scene.342 ご都合主義への疑念


翌朝。

ウチらは祭壇に戻り実体化した『月雫の結晶』を手に入れた。

これで夢渡りの儀式に必要な二つの宝は揃った。

だけどウチはそのあまりにも出来すぎた展開に首を傾げた。


「…たださ、これ、子供向けアニメじゃないんだから」


ウチは手に入れた二つの宝物を見ながら言った。


「なんでそんな夢に入るための重要アイテムが、こんな都合良くこの島にあんの?」


「何のためにわざわざこんな所に?試練?はぁ?誰が?何のために?どーやって設置したの?」


ウチの疑念にエリナとリラは顔を見合わせた。


「このままじゃなんか動機のないご都合主義ばっかじゃん。納得できる経緯を説明してほしいんだけど」


ウチがまるでこの世界の作者にでも文句を言うようにそう言い放った時。

エリナがそっと口を開いた。

彼女は二つの宝物を両手で優しく包み込んでいる。


「…分かります。このアイテムをここに置いた人の気持ちが…」


「あん?」


「これは試練ではありません。…ベル様を愛した一人の女性が未来の誰かに託した必死の願いなんです」



Scene.343 2000年前の恋物語


エリナの星の記憶が二つの宝物に残された古い記憶を読み解いていく。

彼女が語り始めたのは2000年以上昔の物語。

ベルがまだ『安息』の神だった頃。この島々には星の民が住んでいた。

そしてベルには誰よりも愛した伴侶がいた。

星の民の巫女でアストラという名の女性だったらしい。


アストラは誰よりもベルの優しさとその力の危うさを理解していた。

ベルの『安息』の力はあまりにも強大で純粋すぎる。

もし彼が深い悲しみに囚われたら、その力は世界を癒すのではなく停滞させる呪いとなるだろうと。


「彼女はその日を恐れてこの仕組みを作ったのです。ベル様の心がもし堕ちてしまった時のための、最後の保険として」


眠りの番人はベルの力を封じ込め、暴走を防ぐための封印。

星の民の結界は、ベルのことを本当に理解できる星の民の血を引く者しか通さないための鍵。

そしてこの二つの宝物。

彼女の思い出のオカリナを『縁』に。

二人が愛を語らったこの山の星空を封じ込めた水晶を『道標』に。


「いつかベル様を本当に救ってくれる誰かが現れることを信じて…」


アストラはこの二つの宝に願いを込めて、この場所に隠したのだという。

…なんだよ、ちょーロマンチックな話じゃん。


「…ケッ。しょーもない」


ウチは照れ隠しにそっぽを向いた。


「だけどまぁ納得はした。だったらなおさらやらないとね」


「そのアストラとかいう女の、2000年越しの願いもウチらが叶えてあげるしかないじゃん」


ウチは宝物を手に取り立ち上がった。

さあ怠け者の王子様を助けに行こっか。



Scene.344 夢渡りの儀式


ウチらはベルの寝床であるガジュマルの木の根元へと戻ってきた。

リラがその厳かな手つきで地面に複雑な魔法陣を描き始める。

魔法陣の中心にはベルが寝ているハンモック。

その頭上の位置に『月雫の結晶』を置くと結晶は三つの月と共鳴するように淡い星の光を放ち始めた。


「準備は整いました」


リラは真剣な顔でウチら一人一人に最後の指示を出す。


「エリナ様。あなたにはこの『追憶のオカリナ』を奏でていただきます。その音色が私とベル様の魂を繋ぐ架け橋となります」


「は、はい…!」


「そして莉央様。あなたには私とエリナ様が無防備になっている間、儀式の守護を。夢の外からの万が一の干渉があればそれを断ち切ってください」


「…うん」


「ベル様。あなたはただ深くお眠りください。そしてあなたの魂が最も安らいだ幸せな夢を思い浮かべてください」


全員の役割が決まった。

いよいよ作戦開始だ。ウチは気合を入れて拳を握りしめた。



Scene.345 いざ、夢の中へ


「ねぇイケメン!行くよ!」


ウチがハンモックで寝る準備万端のベルに叫ぶ。

だけどベルは「んあー」と気の抜けた返事をすると気持ちよさそうに目を閉じた。


「…ってキミただ寝るだけじゃん!」


ウチのツッコミにベルは片目をうっすらと開けてにぱーっと笑った。


「うん。ボク寝るの得意だからさー。任せて」


「…チッ!」


一番楽な役どころじゃん、このイケメン…!

ウチが悪態をついている間に儀式は始まってしまった。

エリナがおそるおそる『追憶のオカリナ』を口に当てる。

その瞬間ウチの頭の中に直接あの切なくて美しいメロディが響き渡った。

魔法陣が眩い光を放ち始める。

魔法陣の中心に座るリラが目を閉じ深く集中していく。

すると彼女の体から半透明の魂だけの姿がすーっと抜け出した。

魂のリラはエリナが奏でるオカリナの音色の糸に導かれるように、眠っているベルの額へとゆっくりと吸い込まれていった。

ダイブは成功したらしい。


ウチは剣を抜き放ち、魂の抜け殻となったリラの体と、必死に演奏を続けるエリナの前に立った。


「…さてと」


「キミらのことは、ウチが守る!」


外の世界の番人はウチだ。

ウチは二人が無事に帰ってくるまでこの場所を絶対に守り抜く。

それがウチの今の戦いだった。

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