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第九十話:眠れる森の秘宝

Scene.331 宝探しの始まり


「『縁』と『道標』ねぇ…」


ウチはリラの小難しい説明を聞きながら腕を組んだ。

ベルが『安息』だった頃の思い出の品探し。つまり宝探しってことじゃん。


(…ほんと困った時のリラ頼みだな)


ウチはテキパキと探索の準備を始めるリラを見て感心していた。

頭も切れるし魔法はチート級。生活能力ゼロのウチとエリナを支える家事スキルまで完璧。

マジで流石シゴデキエリートのリラ様だわ。


「さて、と」


ウチはパンと手を叩いた。


「宝探しね!燃えてきたじゃん!」


「莉央様…これは遊びでは…」


「いーの!楽しんだモン勝ちだって!」


ウチは目の前に広がる深く薄暗いジャングルを指差した。


「島で宝探しっていったらやっぱジャングルでしょ!」


「なんか思い出すな」


ウチはそう呟いた。


「昔、ガキの頃、近所の酒屋の同級生がボーイスカウトとかやってたけどこんな感じ?…まぁ知らんけど」


ウチのよく分からない昔話に、エリナとリラはただ困ったように笑っていた。


「よし!」


ウチは拳を天に突き上げた。


「探すよ、お宝ーっ!」



Scene.332 眠れる神殿


ウチは先頭を切ってジャングルの中へと足を踏み入れた。

一歩足を踏み入れた瞬間空気が変わる。

ひんやりとしていて濃密なマナと植物の匂いがウチらを包み込んだ。

村や浜辺とは違う。ここはまだ誰にも汚されていない太古の森。

巨大なシダ植物が天蓋を作り昼間なのに森の中は薄暗い。地面には光る苔が絨毯のように広がり足元をぼんやりと照らし出している。


(この森の奥深くに、何か巨大でとても悲しい何かが眠ってる…)


それが多分ウチらが探している宝物。


「行くよ、2人とも!」


「この眠れる森の秘宝いただいちゃおー!」


ウチらはジャングルの奥深く、巨大な古代樹の根が絡み合った天然のドーム状の空間に辿り着いた。

空間の中央には苔むした石の祭壇があり、その上にはウチらが探していたもの…古びた銀のロケットと一本の水晶の杖が安置されている。


「…あったじゃん」


ウチが祭壇に近づこうとしたその時だった。

祭壇の周りの地面が盛り上がり、石と苔と蔦が集まって一つの巨大な人型の姿を形成していく。

現れたのは、森そのものが意思を持ったかのような巨大なゴーレム。

だが、その巨体から放たれるオーラは、怒りでも殺意でもない。

ただひたすらに穏やかで、全てを眠りへと誘うような強烈な安らぎの波動だった。


『…何故この安息を乱すのか…旅人よ』


ゴーレム…『眠りの番人』は古い木の軋むような声で言った。


『…全てを忘れここで眠るがよい…』


その声と同時に、番人の体から柔らかな光の胞子が溢れ出し、ウチらを包み込んだ。



Scene.333 眠りとの戦い


「…う…」


その胞子を吸い込んだ瞬間、ウチの瞼が鉛のように重くなった。

体の力が抜けていく。今まで戦い続けてきた疲労が一気に噴き出してくる。

もういいか。もう戦うのは疲れた。

このままこの気持ちいい苔の上に横になって眠っちゃいたい…。


「…なんだかとても眠く…お母さんの膝枕みたいに温かいです…」


隣ではエリナがふらつき、その場に座り込んでこくりこくりと舟を漕ぎ始めている。


「…いけません…。闘う理由が…思い出せない…」


リラの瞳からも光が消え、その手から炎が消えていく。

ウチももう限界だった。抗えない眠気。全てがどうでもよくなっていく。


(…クソが…)


ウチの意識が完全に途切れる寸前。

ウチはかろうじて残っていた最後の理性を振り絞った。


(ここで寝たら、こいつらまで眠り姫になっちゃうじゃん…!)


ウチは自分の下唇を思い切り噛み締めた。

口の中に鉄の味が広がる。

その痛みだけがウチの意識を辛うじて繋ぎ止めた。


「おい!」


ウチは叫んだ。

怒鳴る力はもうない。

だがその声にはウチの全ての意志がこもっていた。


「起きな!寝てんじゃないよ!ウチの命令!」



Scene.334 嵐を呼ぶ者たち


ウチのその絶叫にエリナとリラの肩がびくりと震えた。

二人ははっとした顔で目を開ける。


(こいつの試練は眠ることへの誘惑)


(だったらウチらはその真逆をやればいい。この静寂をぶっ壊す嵐になればいいんだ!)


「歌いなエリナ!ウチらを叩き起こす気合の入った歌を!」


「凍らせなリラ!この生ぬるい空気を全部凍てつかせな!」


「そしてウチはぶっ壊す!」


エリナが声を張り上げ、戦士の魂を鼓舞する勇ましい聖歌を歌い始めた。

リラが絶対零度の吹雪を呼び起こし、ウチらの感覚を研ぎ澄ませる。

そしてウチは残された力で剣を振り回し、この神殿の穏やかな調和を片っ端から破壊していった!

花を踏み散らし、石像を砕き、壁を殴りつける!

ウチらのそのあまりにも無粋でやかましい行動に『眠りの番人』は初めて苦痛に顔を歪ませた。


『…なんと騒がしい…魂よ…』


ヤツの力が弱まっていく。

そしてついにその巨体を維持できなくなり、ガラガラと音を立てて元の石と苔の山へと崩れ落ちていった。


『…だがそれもまたことわりか…』


静かな声だけを残して。

試練は終わった。

祭壇へと続く道は開かれた。

ウチらは息を切らしながらも互いの顔を見てニヤリと笑った。

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