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第八十四話:ギャルの選択

Scene.310 ギャルの選択


ゲブの爺さんが残りの大罪の居場所を示してくれた。

南の常夏の島々。世界のへそにある巨大な穴。そして天にそびえる霊峰。

ウチはその三つの選択肢を頭の中で吟味する。

…までもなく、一瞬で答えは出た。


「そんなの」


ウチはニヤリと笑って言い放った。


「海に決まってんじゃん!」


「え…?」


「莉央様…?」


エリナとリラがぽかんとした顔でウチを見ている。

ウチはそのクソ真面目な二人の肩をガシッと掴んだ。


「いい?よく聞いて!考えても解決しないから、今まで考えないよーにしてたけど!」


「この北の大地はまぢ寒くて死にそうなんだってばー!」


ウチは心の底から叫んだ。

剥き出しの岩肌はカチカチに凍ってる。吐く息は白い。

夜なんてリラっちの、あのチートスキルがなきゃ凍え死んでるレベルだ。


「そんなことより!」


ウチの瞳がキラリと輝く。


「海だよ、海!」


「夏だ!海だ!水着だ!ギャルだ!イケメンだ!逆ナンだ!」


ウチの脳内は既に楽園の光景でいっぱいだった。

白い砂浜。青い海。キンキンに冷えたカクテル。

そして筋肉ムキムキのイケメンサーファーを逆ナンしてやりまくるウチの姿が。


「お、お姉ちゃん…?逆ナン…とは一体…?」


「莉央様…正気ですか…?我々は七つの大罪『怠惰』を討伐に…」


(…『怠惰』の魔人がどんなヤツかなんてどうでもいい)


ゲブの爺さんもリラっちも、誰も南国のパラダイスだなんて一言も言ってないのに、ウチの頭の中はもうすっかりその気になっていた。


「行くよ、キミら!」


ウチは南の方角をビシッと指差した。


「次の目的地は南の島!バカンス!文句は聞かなーい!」


ウチはルンルン気分で歩き始めた。

背後でエリナとリラが


「えええ…」


と途方に暮れたような声を上げていたけど、知ったこっちゃない。

ウチの戦いのモチベーションはいつだって単純明快なんだ。



Scene.311 江戸時代とプライベートジェット


「…しかーし!」


ウチは南へと歩きながら、ふと我に返った。

ウチの頭の中はすっかりビーチでイケメンを逆ナンする妄想でいっぱいだったが、一つ根本的な問題を忘れていた。


「まぁ、またいつもの思いつきで決めちゃったけど…」


ウチは隣を歩くエリナとリラに言った。


「フツーに考えてこの北の果てから南国って、ちょー遠くない?」


ウチらは今、魔王領に近い大陸の北の端にいる。

ゲブの爺さんが言ってた「南の温暖な海域」ってのは、文字通りこの大陸の南の果てにある海だろう。

その距離、数千キロ?下手すりゃ万超える?


「まさか歩いてく気?江戸時代でござる!みたいな?」


ウチの脳裏に絶望的な数字が浮かぶ。

なんか移動手段ないの?

タクシーアプリとかもちろんないし、この世界馬車がメインでしょ?遅すぎじゃん。

いや、そもそも海渡るんでしょ?船とか飛行機とかそーいうのは?

せめて異世界転生ものの定番、飛竜ワイバーンに乗ってひとっ飛びとか!


「…莉央様」


ウチが一人でうんうん唸っていると、リラが静かに口を開いた。


「ご安心を。移動手段については案がございます」


「はぁ?なに、馬車でもチャーターしたわけ?金ならマモンから奪ったヤツが死ぬほどあるけど」


「いいえ」


リラは優雅に微笑んだ。


「莉央様は私のこのスキルを、ただの安全な寝室を作り出すだけの魔術だとお思いでしたか?」


彼女はそう言うと何もない空間に手をかざし、いつものように豪華なマホガニーの扉を出現させた。


「は?これが移動手段…?」


「はい」


リラは説明を続けた。


「この『女王の閨房』は、空間そのものを切り取り使役する最高位の空間魔術。入り口と出口の座標を任意にずらすことで、この空間自体が長距離の移動機関ビークルとなるのです」


つまり。

この扉に入って。中で一眠りして起きてまた扉を開けたら。

そこはもう目的地ってこと…?


「どうぞ」


リラはその魔法の扉を開いた。


「この中でお茶でも飲んでお待ちください。数時間後には南の海の匂いがする場所に到着していることでしょう」


そんなウチの今までの予想は。

すっげー斜め上から裏切られることになった!


(…マジかよ。こいつのスキル、ただの快適空間じゃなくてプライベートジェットも兼ねてたのかよ…!)


(ウチが江戸時代がどうとか、飛竜がどうとか悩んでたのがアホみたいじゃん!)


ウチはあまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。

そして目の前で涼しい顔をして立っているウチの専属ルームキーパー兼パイロットを見つめて叫んだ。


「マジか、リラっち!!」

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