第八十三話:調停者
Scene.306 器と呪い
ウチは目の前の岩の賢人ゲブに食ってかかった。
「…ちょい待ってよ爺さん。話はだいたい分かったよ。でも、一つおかしいじゃん」
『…申してみよ』
「マモンは元々人間で、娘を亡くしたただのおっちゃんでしょ?誰かから力を授かったみたいなこと言ってたし。樹里だってそう。あの子はウチと同じ、ただの日本のキャバ嬢だった。そんな、大昔の神様なんかじゃないでしょ?」
ウチの疑問にゲブは静かに頷いた。
「大罪の力ってのは、血筋みたいに受け継いだりすんの?現にウチも今、五つもその力を受け継いではいるけど…。なんかよく分かんないんだけど」
『…うむ。お主の疑問はもっともだ』
ゲブはその岩の口をゆっくりと開いた。
『『大罪』…堕ちた八柱神は、もはや定まった形を持たぬ。彼らは力そのもの。意識だけの概念存在となって、この世界を彷徨っておる』
「…」
『そして彼らは常に探しておる。自らの器となる魂をな。その感情に最も近い魂を持つ、定命の者を…』
ゲブの言葉にウチははっとした。
『『強欲』は全てを失った男の渇望に付け込んだ。『嫉妬』は友を羨む少女の心の隙間に入り込んだ。…そして、その魂を乗っ取り、器としてこの世に顕現する』
「…!」
『器となった者は、その人間としての魂を大罪の力に喰われ、新たな魔人として生まれ変わる。元が神であろうと人間であろうと関係ない。…それが今の大罪の正体じゃ』
そういうこと。
マモンも樹里も大罪という呪いに魂を乗っ取られた、ただの被害者だったのかもしれない。
『じゃが、お主は違う』
ゲブはウチを真っ直ぐに見た。
『お主は器ではない。大罪を喰らうのではなく、その根源にある呪いを『贖罪』の力で浄化し、あるべき姿へと還す、『調停者』じゃ』
「調停者…」
『お主がその身に受け継いでおるのは、大罪の呪いではない。…世界の柱となるべき、八柱神の本来の聖なる力なのだ』
Scene.307 神々の覚醒
(…なるほどね)
ウチのこの力は、破壊のためのものじゃない。
再生のための力。
ウチはゲブに向き直った。
「OK、爺さん。話は分かった。残りの三匹…『暴食』『怠惰』『傲慢』。そいつらの居場所のヒントを教えて」
「全部ウチが浄化(掃除)して、この面倒くさい物語とっとと終わらせてあげる」
ウチの覚悟を認めたゲブが、その岩の手をウチの頭上にかざした。
『ならば、目覚めるがいい。お主の中に眠る真の力を』
その瞬間。ウチの魂の中で一つになっていた光が爆発した。
ウチのステータスウィンドウが目の前に強制的に展開される。
そこに表示されていた【絶対支配】のスキル名がガラスのように砕け散った。
そして、その代わりに五つの新しい黄金色のスキルが生まれ、輝き始めた。
【統治】【繁栄】【愛情】【好敵】【義憤】
それはウチが浄化した五柱の大罪の本来の姿。
世界の柱となるべき神々の権能。
そして、ウチのレベル表示がスロットマシーンのように凄まじい勢いで回転を始める。
101から、200、300、400…。
【レベル:505】
そのありえない数字が表示された瞬間、ウチの全身から世界そのものを揺るがすほどの、神々しいオーラが溢れ出した。
その余波はウチの隣にいたエリナとリラにも降り注ぎ、二人の体もまた眩い光に包まれた。
(…レベル、505…)
(もう、人間に戻れそうにないじゃん、これ)
Scene.308 新生・ウチらパーティー
光が収まった時。ウチらは完全に生まれ変わっていた。
▼莉央
種族:人族(超越者) → 調停者【神格】
レベル:505
【称号】:神々の調停者 星を救う者
【神技スキル】:
・統治のオーラ:王の気質。全ての味方を鼓舞し敵を萎縮させる。
・繁栄の祝福:幸運と富を呼び込む。(パッシブ)
・愛情の奇跡:創生級治癒魔法の上位互換。死者すら蘇らせる可能性がある。
・好敵の天敵:相手が強いほど自身の能力値がそれを上回るように上昇する。
・義憤の断罪:悪しき者に対してのみ発動可能。全ての防御と耐性を無視する処刑技。
▼エリナ
種族:星の民(覚醒)
レベル:99 → 125【限界突破】
【スキル】:
・星光の審判【新規】:天から星の光を召喚し広範囲の敵を塵へと還す対軍勢魔法。
▼リラ
種族:ハイエルフ
レベル:85 → 98
【スキル】:
・絶対零度/超新星【新規】:霜炎の紋章魔術の極致。絶対的な停止の氷と全てを焼き尽くす炎を同時に操る。
「…これが今のウチら…」
「…力が満ちてきます…!」
「…莉央様と共に戦えるなら、悪魔にも神にもなってみせますわ」
ウチらは互いの桁違いのパワーアップに驚きながらも、不敵に笑った。
Scene.309 最後のゴミ掃除の場所
「OK、爺さん」
ウチは満足げに頷くと、ゲブに向き直った。
「で、残りの三匹はどこ?」
ゲブはゆっくりと語り始めた。
「まず、『安息』の成れの果て、『怠惰』は。…南の温暖な海域。全ての時間が停滞した『永遠の凪が支配する島々』に眠っておる」
「次に、『糧』の成れの果て、『暴食』は。…特定の場所を持たぬ。じゃが、今は世界のへそと呼ばれる『巨大な大穴』に落ちてくる、全てのものを喰らっておると聞く」
「そして、最後にして最強の『自尊』の成れの果て、『傲慢』は…」
ゲブは天を仰いだ。
「天に最も近い場所。…雲を突き抜け星々に届く、『天頂の霊峰』の頂に、己こそが神であると世界を見下ろしておるわ」
「…なるほどね」
ウチはニヤリと笑った。
「海と穴と山か。…いいじゃん!」
ゲブは満足そうに頷くと、ウチに背を向けた。
「わしは聖樹様の元へ向かう。この身、星の守り手として捧げるために。…達者でな、英雄よ」
そう言うと、ゲブの体は大地に溶けるように消えていった。




