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第八十一話:奇跡の輝き

Scene.300 死の闇の中で


…どの位の時間が経った?

死んだのかな、ウチは。

石像の斧が振り下ろされて…。

そうだ。ウチは死んだんだ。

死んで転生して、また死んだ。

今度は本当に消えちゃうのかな。輪廻の輪からも外れてただの無に還るのか。

…まぁそれも悪くないか。


ウチはなぜか樹里のことを考えていた。

結局ウチの人生ってなんだったんだろ。

ウチは大事な仲間も守れず、エリナもリラもウチのせいで無力に力尽きただろう。

ギャル女神の期待にも応えられず、魔王も大罪も何一つ片付けられなかった。

結局いつもそうだ。ウチは何一つ成し遂げたことなんてない。


樹里。

ウチが守ってあげるなんて言って、結局それはウチの勝手な自己満足ジコマンで。

ウチがキミの弱さを見て見ぬフリして、ウチがキミを壊した。

なのにそれを逆恨みして。

この異世界で再会しても、結局ウチは樹里を2回も殺したんだ。


ごめんな、樹里。

ウチはもう死んだんだ。

これ以上ウチは誰も、何も壊したりはしないから、安心して…。


…その真っ暗な闇の中に。

ぼんやりとした白い影が浮かび上がった。

だんだんとその輪郭がはっきりとしてくる。ウチが一番よく知るその姿に。


(…ああ)


その少し内股な立ち方。

困った時に髪をいじるその仕草。


(樹里…。迎えに来たの…)


影の樹里は何も言わなかった。

ただ昔みたいにウチが知っている一番優しい笑顔で微笑んでいた。

そしてその唇がゆっくりと動いた。

声は聞こえない。でもウチには分かった。


『…もう、いいんだよ、莉央』


その一言で。

ウチの心のダムが決壊した。

涙が止まらない。熱い涙がとめどなく溢れ出してくる。

ガキみたいに声を上げて泣きじゃくった。


『あなたは何も壊してなんかないよ。いつだって不器用で、必死に守ろうとしてただけじゃん』


『私の方こそごめんね。あなたのその強さに嫉妬して、一番大事なものが見えなくなってた』


『だからもう自分を責めないで』


樹里の優しい言葉がウチの魂に染み込んでいく。

ウチがずっと聞きたかった言葉。いや違う。

ウチがずっと自分に言ってやりたかった言葉だ。


あぁ、そうか。

そうだったのか。

ウチを許せなかったのは樹里じゃない。

ウチだったのか…。

ウチがウチ自身をずっと許せずにその罪悪感から逃げるために戦ってきたのか。


ウチがそう気づいた時、目の前の樹里は満足そうに今までで一番綺麗な笑顔で頷いた。

そしてその姿はゆっくりと光の粒子になって闇に溶けていく。

最後に声が聞こえた。


挿絵(By みてみん)


『ありがとう、莉央…。私の、たった一人の、親友』


樹里が消えた。

闇の中にウチはまた独りになった。

でも、もう怖くはなかった。

ウチの心は不思議なくらい穏やかで澄み渡っていた。



Scene.301 贖罪の光


ウチの心が静寂に満たされたその時。

奇跡は起きた。

ウチの胸元。ブラジャーの谷間にそっとしまい込んでいた樹里のたった一枚の形見。

あの白い羽根が淡く温かい光を放ち始めた。


(なんだ…!?)


死んだはずのウチの魂がその光に呼応するように震える。

そしてウチは感じた。

ウチがこの世界で出会い、戦い、そして滅してきた強大な魂の残滓を。


まず現れたのは漆黒の闇。魔王と樹里が持っていた『支配』と『嫉妬』の冷たい光。

次に金色の光。全てを欲したマモンの『強欲』の輝き。

続いて薔薇色の光。全てを堕としたアスモデウスの『色欲』の香り。

最後に灼熱の赤い光。全てを焼き尽くそうとしたゲブの『憤怒』の叫び。

五つの光がウチの周りの闇の中から現れ、樹里の白い羽根が放つ光へとまるで引き寄せられるように集まってくる。


それは混沌の渦。

このままではウチの魂はそのあまりにも強大な負の感情に喰い尽くされて消滅する。


だがウチはもう恐れてはいなかった。

ウチはその五つの光を、憎しみでも恐怖でもなくただ静かに見つめていた。

そして心の中で、もう一度呟いた。


(ごめんな、樹里)


そのたった一言。ウチが自分自身を許したその瞬間。

樹里の羽根から放たれる白い光がその性質を変えた。

それはもうただの白い光じゃない。

温かくて優しくて全てを包み込むような銀色の光。


挿絵(By みてみん)


『贖罪』の光。


その銀色の光が混沌の渦となっていた五つの大罪の光をそっと包み込んだ。

破壊じゃない。浄化でもない。

ただ受け入れ、そのどうしようもない悲しみも怒りも欲望も全てを「そうだったんだね」と許すように。

そして贖罪を含めた六つの光はゆっくりと混ざり合い、たった一つの光の塊へとなっていく。

それはどんな色でもなかった。

全ての感情を内包したダイヤモンドのようなどこまでも澄み切った輝き。

その光はウチの周りの死の闇を優しく晴らしていく。

まるで夜明けの光のように。


ウチはその光景を見ながら思い出していた。

ウチが死ぬ直前。『憤怒』の魔人ゲブがウチに言った言葉。


『貴様の魂が砕け散るか、あるいは奇跡の輝きを放つか…』


(…ああ、これか)


これだったのか。

アイツが2000年も追い求めていた光は。

怒りでも力でもない。

絶望の一番底で、自分を許し他人を想う心から生まれるこの光。


(本当にそうとしか言い様のない光だった)


ウチの意識はその奇跡の輝きに完全に包み込まれた。

それは死でも無でもない。

新しい何かが始まる予感がした。

ウチの二度目の物語が。


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