表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/116

第八十話:砕け散る鋼

Scene.296 鉄槌の時間


『…それで、終わりか』


ウチらを見下ろす『憤怒』の魔人ゲブの声には、明確な失望の色が浮かんでいた。


『なんと脆い。鋼の魂かと思ったが、ただの鉛だったか』


その言葉はウチのプライドを深く抉った。

だけど体が動かない。

ヤツの権能『闘争の重圧』はウチらの闘志そのものを重力に変えて、その魂を押し潰している。

反抗すればするほどウチらは無力になる。


『ならば砕け散るがいい。貴様らは我が至高の一振りとなるためのただの鉄鉱石にすぎん』


ゲブがゆっくりとその巨大な手を振り上げる。

だがその一撃はウチらに直接向けられたものじゃなかった。

ヤツはこの玉座の間そのものを操った。


ゴゴゴゴゴゴ…!


城全体が鳴動する。

玉座の間を囲むように林立していた巨大な悪魔の石像。

その石の瞳に一斉に赤い光が灯った。

そしてギギギ…と関節を軋ませながら台座から降り立ち、その巨大な石の戦斧やメイスを構えてウチらへと歩み寄ってくる。

同時に床を走る溶岩の水路が沸騰し、灼熱の溶岩を間欠泉のように吹き上げた。


『さあ最終工程だ』


ゲブの声が響く。


『その魂が砕け散るか、あるいは奇跡の輝きを放つか。…見せてもらうぞ』



Scene.297 砕け散る魂


ウチらはもはやなす術もなかった。

重圧で動けないウチらに、歩く災害のような石像たちが容赦なくその鉄槌を振り下ろす。


「きゃあああっ!」


「ぐっ…!」


エリナとリラが石像の一撃で吹き飛ばされた。

直撃じゃない。ただその衝撃波だけで二人の体はボロ雑巾のように舞い、壁に叩きつけられて気を失った。

残るはウチ一人。

ウチの目の前に巨大な石の戦斧が迫る。

ウチは最後の力を振り絞り、残された右腕一本で剣を構えそれを受け止めようとした。


バキィッ!


だがレベル101とはいえ、ヤツの圧倒的な重圧の前ではあまりにも無力だった。

ウチの右腕の骨が砕ける鈍い感触。

そして共に戦い抜いてきたウチの二本の愛剣が、あっけなくへし折れた。


「が…はっ…!」


ウチの体はボールのように吹き飛ばされ広間の中心へと転がった。

全身を打撲と骨折の激痛が襲う。

口から血が溢れ出し、視界が赤く染まっていく。


(…ああ、クソ…)


薄れゆく意識の中、ウチは見た。

エリナとリラが倒れている姿を。

そしてウチにとどめを刺そうと、石像が再びその戦斧を振り上げるのを。


(ここまで、か…)


(エリナ…リラ…)


(…ごめん…)


ウチの心が完全に折れた。

もう何も考えられない。

ただ絶対的な死が目の前に迫っていた。



Scene.298 最後の覚悟


薄れゆく意識の一番奥で。

ウチの魂が叫んでいた。


(ああ、そうだ。ウチはいつだってそうだった)


善悪なんてどうだっていい。

正義もクソもない。

ただ守りたいモノがある。

そのためならなんだってしてきたじゃん。


(エリナとリラを。あの二人を、どんな汚い手を使っても絶対に守る!)


ウチの腹の底に最後の覚悟の炎が灯った。

残された最後の手。

ウチが心のどこかでずっと使うことを恐れていた禁断の力。

これを使ったら、ウチはもうウチではいられなくなるかもしれない。

魔王や樹里と同じ、人の道を外れた化け物になるのかもしれない。


(…上等じゃん)


(こいつらを守れるんなら悪魔にでもなってあげる)


(これだけはどうしても使いたくなかった。けどね…!)


ウチは残された全ての精神力を振り絞り、そのスキルの名を魂で絶叫した。


(ウチは遂に「支配」のスキルを発動した!)



Scene.299 応えない切り札


―――『絶対支配アブソリュート・ドミネーション』!!


ウチは確信していた。

次の瞬間、この城の全ての魔物がウチの前にひれ伏すと。

ゲブのあのクソみたいな重圧も消え失せ、石像どもは動きを止めウチの新しい手駒となる、と。

そしてウチはこの新しい力でゲブを蹂躙するのだと。

だが。


しん…


世界は静まり返っていた。

何も起こらない。

ウチの目の前で、石像の戦斧はその軌道を変えることなくウチの脳天へと振り下ろされようとしている。

ゲブの重圧も消えない。

ウチの体は動かない。

ウチの魂の絶叫は誰にも届かず虚しく霧散した。


(…え?)


(そんな!)


(何も起こらない!?)


ウチはパニックに陥った。

もう一度叫ぶ。

ひれ伏しなよ!跪きなよ!支配されなよ!

だがスキルは応えない。


(嘘でしょ…?)


目の前に迫る石の刃。

全てがスローモーションに見える。


(散々気を持たせて、女神の切り札みたいに出し惜しみしておいて…)


(魔王にも大罪にも使わずに、ウチがウチでいるためにずっと封印してきた最後の力が…)


ウチの心に浮かんだのは怒りでも悲しみでもない。

ただ、あまりにも皮肉で滑稽なこの結末への乾いた笑いだった。


(…結局一度もまともに使えないなんて…)


―――そしてウチの意識は完全に闇に呑まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ