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第七十九話:鋼の魂

Scene.290 地獄の番犬との激闘


ウチらの前に立ちはだかる二匹の巨大な地獄の番犬。

その口から吐き出される炎はただの火じゃない。触れた者の闘争心を無理やり増幅させ、狂戦士バーサーカーへと変える呪いの炎だ。


「エリナ!リラ!あの炎のブレスだけは食らっちゃダメ!」


ウチは一匹を引き受け正面から突っ込む。

相手はデカくて速い。でも、ウチの神速の動きにはついてこれない。

ウチはヤツの巨体を的確な剣捌きで切り刻んでいく。

もう一匹はリラとエリナが相手をしていた。


「凍てつきなさい!『氷槍乱舞アイシクル・ダンス』!」


リラが新たに手に入れた氷の力で、番犬の足元を凍りつかせ動きを封じる。

そこにエリナの聖なる光が降り注ぎ番犬が纏う邪悪なオーラを浄化していく。


「今です、リラさん!」


「ええ!燃え尽きなさい!『紅蓮のクリムゾン・アロー』!」


動きを封じられ弱体化した番犬の心臓をリラの炎の矢が正確に貫いた。

見事な連携。こいつらマジで強くなった。

ウチも残った一匹を首ごと斬り落とし戦いは終わった。



Scene.291 『憤怒』の目的


ウチらが番犬の死体を乗り越え、城の奥へと進もうとしたその時。

通路の奥から拍手をしながら一人の魔人が姿を現した。

禍々しい鎧を纏った悪魔の騎士。


「見事だ人間ども。我が主の番犬を退けるとはな」


男はウチらを見下しながら嘲笑うように言った。


「だが勘違いするな。我が主…『憤怒』の魔人様は、破壊や征服には興味がない」


「は?」


「我が主はこの世界を一つの巨大な『鍛冶場』と捉えておられる。戦争憎悪苦痛…それらは全て魂を鍛え上げるための炎と鉄槌なのだ」


男は恍惚とした表情で語り続ける。


「弱い魂は砕け散り、強い魂だけが残る。そうして幾千幾万の魂を淘汰したその先に生まれる、たった一つの最強の魂。究極の戦士を生み出すこと。それこそが我が主の2000年に渡る唯一つの悲願なのだ!」


…イカれてる。

こいつの目的は戦争を起こすことそのもの。

世界を巨大なバトルロイヤルの実験場にすることだったんだ。



Scene.292 2000年を生きる魔人降臨す


「そして、その実験もどうやら今日で終わるやもしれんな」


悪魔の騎士がウチを見てニヤリと笑った。

その瞬間。城全体が地震のように激しく揺れた。

通路を流れる溶岩が一斉に沸騰し、壁の頭蓋骨の眼窩から吹き出す炎が勢いを増す。

凄まじい圧。ウチら三人はその場に膝をつきそうになる。

そして“ソイツ”は現れた。

通路の一番奥。玉座の間に続く広間に鎮座していた、巨大な黒曜石の玉座。

その玉座がギギギ…と音を立てて動き出しゆっくりと立ち上がった。

玉座そのものが本体だったんだ。


背丈は5メートルを優に超える。黒曜石とマグマで形成された巨大な鎧の巨人。

その顔は憤怒の形相を浮かべた鬼神の面頬で覆われている。

七つの大罪『憤怒』の魔人。


彼はその燃え盛る瞳でウチだけを真っ直ぐに捉えた。

そして火山が噴火する前触れのような低い低い声で言った。


『…良い眼だ』


『久方ぶりに見る。…鋼の魂を持つ人間の女』


『貴様こそ我が2000年の探求の終着点となるやもしれんな』


問答無用。

最強の魂を見つけたこの魔人はウチを“試す”ためにその巨大な拳を振り上げた。

その圧倒的な威圧感に、さっきまで、ウチらを、見下していた、悪魔の騎士は、為す術もなく、立ち尽くしている。


「お待ちください、我が主ゲブ様!まずは、私が…!」


だが、ゲブはもうウチしか見ていない。

振り下ろされた巨大な拳は、ウチだけを狙っていた。

そして、その攻撃の余波が哀れな悪魔の騎士を跡形もなく飲み込んだ。


(…は?自分の部下巻き込んで、死んだんですけど!?)


最後の喧嘩の相手としては不足はない。

面白いじゃん。

やってやんよ2000年ニート。



Scene.293 2000年の武術


ゲブの巨大な拳がウチに襲いかかる。

ウチはそれを神速の動きでかわす。

だがヤツの攻撃は一撃では終わらない。

拳、蹴り、肘、頭突き。その巨体からは想像もできない洗練された武術の連撃。

まるで四方八方から同時に岩石をぶつけられているような凄まじい猛攻だった。


(…チッ!速いだけじゃジリ貧か!)


ウチは防戦一方。ヤツの攻撃の隙間に剣を滑り込ませるが、黒曜石の硬い鎧にキンと音を立てて弾かれるだけ。

ダメージが通らない。


「お姉ちゃん!援護します!」


「燃え尽きなさい!『霜炎の螺旋フロストフレア・スパイラル』!」


エリナの聖なる光がゲブの動きを僅かに鈍らせ、そこへリラの炎と氷が螺旋を描いて突き刺さる新しい合体魔法。

だがゲブはその直撃を受けても一歩も引かなかった。


『…小賢しい』


ゲブはその燃え盛る瞳でウチだけを見据えている。

まるでエリナとリラなど存在しないかのように。

ヤツの目的はただウチの魂を試すことだけ。



Scene.294 『憤怒』の権能


「…そうだ…!」


ゲブはウチの剣をその巨大な手で受け止めながら歓喜の声を上げた。


「その闘志!その怒り!それこそが魂を輝かせる炎だ!」


ヤツがそう叫んだ瞬間、部屋の空気が一変した。

ズンと体全体にのしかかる不可視の重圧。

それは重力じゃない。もっと精神的な魂そのものを押し潰すようなプレッシャー。


「なんだこれ…!?」


体が重い。ウチはヤツの猛攻を捌きながら反撃の一撃を叩き込んだ。

その瞬間ウチの体にかかる重圧がさらに増した。


「ぐっ…!」


剣を振れば振るほど。闘志を燃やせば燃やすほど。

ウチの体がどんどん重くなっていく。


「莉央様!?」


リラが援護のために最大火力の炎を放とうとする。

だが彼女が魔力を高めた瞬間、その体もまた強い重圧に押し潰され、魔法が霧散した。


「…ダメです莉央様!攻撃してはいけません!」


リラが叫ぶ。


「この空間では我々の『闘志』そのものが我々を押し潰すかせとなっています…!戦えば戦うほど我々は無力になる…!」


なんだよそれ。チートにも程があるじゃん。

戦うことを封じられたら、どうやってコイツを倒せっていうの!



Scene.295 鋼の魂


ウチの動きが完全に止まった。

足が地面に縫い付けられたように動かない。

右腕の剣一本を持ち上げることすら億劫だ。

エリナもリラもその場に倒れ伏し苦しそうに息をしている。

手も足も出ない。ウチらは完全に無力化された。


ゲブはそんなウチらを静かに見下ろしている。

その瞳には勝利の驕りはない。

ただまるで鍛冶師が鍛え上げた剣の出来を確かめるような厳格な光だけが宿っていた。


『…どうした鋼の女よ。その程度か?』


その声は失望の色を滲ませていた。


『その程度の怒りでは魂は磨かれんぞ』


『…もっとだ。もっと我に見せてみろ』


『貴様の魂の輝きを』


ウチはヤツの圧倒的な力の前にただひれ伏すことしかできなかった。

クソが。

こんな屈辱は魔王にやられて以来だ。

だが今回は快楽も何もない。

ただ純粋な「力」の差だけがそこにあった。

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