第七十八話:霜炎の魔女
Scene.286 霜炎の魔女
“完璧なリラ”が光の粒子となって消え去った後。
辺りの吹雪も霧のように晴れていった。
ウチは息を切らし、互いに支え合って立つエリナとリラの元へと歩み寄る。
「…ねぇ、リラ」
「はい、莉央様…」
「なんかキミ、雰囲気変わったじゃん。涼しげなイイ女になった感じ?」
ウチの茶化すような言葉に、リラは不思議そうな顔で自分の両手を見つめた。
彼女の右手にはいつもの紅蓮の炎が揺らめいている。
だがその左手には。
キラキラと輝く鋭い氷の結晶が渦を巻いていた。
「…分かりません。ですがあの偽物の私を倒した瞬間…。彼女が持っていた氷の魔術の力が、私の魂に流れ込んできたような…。炎の激情と氷の冷静。相反する二つの力が今、私の中で一つに…」
「…なるほどね」
ウチはニヤリと笑った。
「とりあえずステータス確認してみなよ。どんだけ強くなったか見せてよ」
リラはこくりと頷き自分のステータスウィンドウを開いた。
その内容を見て彼女自身が一番驚いていた。
ウチとエリナもそのウィンドウを覗き込む。
Scene.287 パーティーの現状
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▼リラ
種族:ハイエルフ
レベル:79 → 85
【称号】
・紅蓮の魔術師 → 霜炎の魔女【進化】
・堕ちた貴族
・ミサキの剣
・己を乗り越えし者【新規】
【スキル】
・紅蓮の紋章魔術 → 霜炎の紋章魔術【進化】
・氷槍乱舞【新規】
・炎壁
・女王の閨房【SSS】
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「レベルが…6も…。それに魔法の系統まで…」
「へー。炎と氷ね。強くなったじゃんリラっち」
次にウチはエリナのステータスを確認する。
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種族:星の民(覚醒)
レベル:99 (MAX)
【称号】
・ミサキの魂の片割れ
・星詠みの巫女
・希望の光
【スキル】
・大天使の神聖魔法
・創生級治癒魔法
・絆の連鎖【新規】: 固い信頼で結ばれた仲間を支援する際、全ての補助魔法の効果が、増幅される。(パッシブ)
・サンクチュアリ・ノヴァ【究極魔法】
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「エリナはレベルカンストしたまんまか。でも便利なスキル覚えてんじゃん」
「リラさんを助けたいと強く願ったら、聖樹様が力を貸してくれたみたいです…!」
そして最後はウチだ。
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▼莉央
種族:人族(超越者)
レベル:101
【称号】
・異世界転生者
・シルヴァンの救世主
・深淵を砕く者
・大罪殺し(シン・スレイヤー)
【スキル】
・絶対支配: 覚醒済み
・神速無双剣舞
・未来予知(半秒)
・不壊の精神
・荊棘の女王の抱擁
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「よし!」
ウチは満足げに頷いた。
「最高の武器は揃った。もう寄り道は終わりだね」
ウチは凍てつく荒野の遥か先、『憤怒』の本拠地があるであろう方向を睨みつけた。
「行くよ、2人とも!」
Scene.288 凍てついた大地へ
ウチらはひたすら北へと進んだ。
温暖だった平原は徐々にその姿を変え、凍てついた針葉樹の森がどこまでも続くツンドラ地帯へと入っていた。
空気はガラスの破片のように冷たく、ウチの肌を刺す。
そして旅を続けること数週間。
ウチらの目の前にその異様な光景は姿を現した。
広大な氷河の平原。そのど真ん中に一つだけ突き出すようにそびえ立つ、巨大な活火山。
山頂からは常に黒い噴煙が上がり、空はそのせいで鉛色に淀んでいる。時折空を切り裂く赤い稲妻が山の禍々しいシルエットを照らし出していた。
「…間違いない。聖樹様が言っていた波動の発生源はあそこです」
エリナが顔を蒼白にさせながら言った。
ウチらはその火山へと近づいていく。
そしてその全貌が明らかになった時、ウチは思わず舌を巻いた。
Scene.289 喚起の城
それは城というより巨大な「怒り」そのものの彫刻だった。
火山そのものを削り出して作られている。
建材は血のように赤い溶岩石と闇よりも黒い黒曜石。
優雅な曲線や装飾は一切ない。ただひたすらに天を突き刺すような鋭角的な塔と城壁が、見る者を威圧する。
城の周りには無数の巨大な杭が打ち込まれ、そこにはかつてこの城に挑んできたであろう英雄や騎士たちの凍りついた亡骸が晒されていた。
城の麓を流れるのは堀の代わりの灼熱の溶岩の川。そこにかかる唯一の橋は巨大な怪物の背骨で作られていた。
「…なるほどね」
ウチはその地獄みたいな光景を見上げて笑った。
「色欲のあの気色悪い人形の家とは真逆。ここはただひたすらに暴力と怒りだけが支配する分かりやすい地獄か」
「凄まじい破壊の魔力です。ですがアスモデウスのそれとは違いなんの捻りもない。ただ純粋な怒りの発露…。…ある意味対処はしやすいかもしれませんわ」
リラが冷静に分析する。
「…悲しい場所です」
エリナが胸の前で手を組んだ。
「ここからは苦しみと怒りの叫び声しか聞こえません…」
ウチらは怪物の背骨の橋を渡った。
城の内部は外見以上に地獄だった。
通路は凍てつくように寒いが、壁の亀裂から流れ出る溶岩のせいで空気は乾燥しきっている。松明の代わりに、壁には人の頭蓋骨が埋め込まれ、その眼窩から青白い炎が揺らめいていた。
聞こえてくるのは絶え間ない武器の鍛造音と獣の咆哮、そして罪人の拷問の悲鳴。
ここは城であると同時に巨大な軍事工場であり、牢獄なんだ。
やがてウチらの存在に気づいた二匹の巨大な地獄の番犬が牙を剥いて襲いかかってきた。
「…上等じゃん」
ウチは二本の剣を抜いた。
「派手なお出迎えだね」
「憂さ晴らしの続きと行こっか!」




