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第七十四話:汚れの美しさ

Scene.269 目覚める街


アスモデウスが消え去りその権能が霧散していく。

街を覆っていた完璧な美の幻影が剥がれ落ちていく。

建物は変わらず美しい。だがそこに宿っていた非人間的なまでの調和はもうない。

ただの美しい抜け殻だ。

そして人々。

ウチが火をつけた欲望の炎もアスモデウスが見せていた絶対的な美の幻影も全てが消え去った。

後に残されたのは巨大な混乱と戸惑い。


「…あれ?俺なんでここで裸で踊って…?」


「きゃあ!あなた誰よ!なんで私の隣に!」


「う…頭が痛い…。まるで二日酔いみたい…」


街のあちこちで人々は長い夢から覚めたように呆然と立ち尽くしている。

偽りの幸福感も偽りの満足感ももうない。

代わりに腹が減るという感覚、誰かを妬むという感情、未来を憂うという不安。

人間らしい面倒くさくてどうしようもない感情が一斉に彼らの心に戻ってきたんだ。


解放。

それは必ずしも甘いもんじゃない。

この街の本当の再生は、このクソ面倒くさい現実と向き合うことから始まる。

まぁウチの知ったこっちゃないけどね。



Scene.270 カッコつかない英雄の現実問題


「…終わったね」


ウチは疲労困憊の体を引きずってようやく立ち上がった。

エリナとリラもアスモデウスの快楽の呪縛から解放され、ふらつきながらもウチの元へ駆け寄ってくる。


「お姉ちゃん…!」


「莉央様…!ご無事で…!」


ウチはそんな二人の顔を見て、そして自分の足元を見て顔を引きつらせた。


「…ねぇキミらさ」


「はい?」


「…その、なんだ。…濡れてるんですけど」


ウチの指摘に二人は自分の足元を見て、そして顔をボンッと音を立てそうな勢いで真っ赤にさせた。

アスモデウスのあのえげつない快楽攻撃。

そのせいでウチら三人は見事に揃ってお漏らししちゃってたんだ。


「ひゃっ!?い、いつの間に…!わ、私こんなはしたない…!」


「こ、これは…!あくまであの邪悪な魔術の不可抗力な影響でして…!決してその、したくてした訳では…!」


エリナは半泣き。リラは必死に言い訳をしている。


「…ウチもだけどね」


「…マジ最悪。三人揃ってお漏らしとかどんな罰ゲームだよ」


この街を救った英雄(笑)の姿がこれかよ。


「…これじゃ格好つかないし。このままじゃ人前に出れないじゃん」


ウチらが顔を見合わせて途方に暮れていたその時だった。


「…あ」


ウチは思い出した。

ウチらには最強の切り札があったんだ。


「リラっち」


「!…はい、莉央様!」


リラはウチの意図を一瞬で理解した。


「ただいまお着替えと最高級のお風呂のご用意を!」


彼女はこの広場のど真ん中で何もない空間に向かってそのSSSスキルを発動させた。

現れる豪華なマホガニーの扉。


「行くよキミら!撤収!」


ウチらは周りの人間たちが自分たちのことでそれどころじゃなくなってる隙にコソコソとその魔法の扉の中へと逃げ込んでいった。

英雄の凱旋なんてあったもんじゃない。

ウチらの戦いはいつもこんなしょーもないオチが付くんだ。



Scene.271 凱旋のその先に


リラのSSSスキルのおかげでウチらのしょーもない失態は誰にも知られることなく処理された。

『女王の閨房』の中で風呂に入り新しい服に着替え身だしなみを整える。


挿絵(By みてみん)


そこはあまりにも快適で安全な空間だった。

激戦の後だ。疲れ切った体をこのままフカフカのベッドに預けて堕落の限りを尽くしたい。


「莉央様、エリナ様。今宵はこのままゆっくりとお休みください。祝杯の準備も…」


リラが気を利かせてそう提案してくる。エリナもこくりと頷いた。

ああ、そうだね。いつもならここでアンタらと一晩中いちゃいちゃしたいとこだけど。

…だが。


「いや」


ウチは首を横に振った。


「残念ながらそーもいかない」


ウチは二人を見据えた。その瞳にはもう遊びの色はなかった。


「忘れたの?『強欲』と『色欲』。聖樹様を一番苦しめてた悪影響のデカい二柱をようやくぶっ倒したんだ」


「…!」


「一刻も早く戻って聖樹様の様子を確認しなきゃ。それに残りの大罪について次の指示も仰がないと」


ウチの言葉に二人の顔が引き締まる。そうだ。ウチらの戦いはまだ終わっていない。

ウチはニッと笑った。


「コイツの故郷を救わないとね」


「はいっ、お姉ちゃん!」


「承知いたしました、莉央様」



Scene.272 再び聖樹の元へ


ウチらは『女王の閨房』から外に出た。

解放された快楽都市ヴァニタスは混沌と再生の熱気に満ちている。人々がウチらの姿を見つけ駆け寄ろうとしてくるが、ウチらはそれに目もくれず真っ直ぐ街の北門へと向かった。

感傷も栄誉も今はらない。

ウチらの目的はただ一つ。

再び始まった長い長い旅。

だが来た時とは足取りの軽さが違った。

大きな任務を二つも達成した自信。そして聖樹がどれだけ回復しているかという確かな希望。

ウチらは最短ルートで荒野を駆け抜け砂漠を横断し魔王領の跡地を通過した。


そして数週間後。

再びその神聖な森へと帰ってきた。

森は以前よりもさらに生命力に満ち溢れていた。木々の葉は青々と茂り精霊たちの歌声がそこかしこから聞こえてくる。

ウチらは聖樹エリュシオンの根元へと辿り着いた。


その姿を見てウチらは息を飲んだ。

聖樹を蝕んでいた黒い染みはほとんど消え失せ、その巨大な幹全体が内側から発光するように白銀の輝きを放っていた。

空へと伸びる枝葉はまるで星屑を散りばめたようにキラキラと輝いている。


『…お帰りなさい、我が子らよ』


聖樹の声がウチらの心に響く。

その声はもう苦しげではなく温かくそして力強い慈愛に満ちていた。


「ああ、ただいま。…どうやら思った以上の効果だったみたいじゃん」


「聖樹様…!」


エリナが感極まってその幹に抱きついた。

ウチらの戦いは無駄じゃなかった。

その確かな実感がウチの胸を熱くした。

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