第七話:女神への咆哮
Scene.29 虚ろな名声
ゼニスの冒険者ギルドでウチは一躍時の人となった。
Aランクのシリウスを秒殺したことでウチの実力はギルド中に知れ渡り、もはや誰もウチを新人と見なさない。高ランクの依頼も自由に受けられるようになった。
ウチはエリナと共に次々と高難易度の依頼をこなしていく。ワイバーンを狩りキマイラを屠り、ウチのレベルも少しずつだが上がっていく。
でもウチの心は晴れなかった。
どんな強い敵を倒してもあのAランクの男を屈服させた時と同じで虚しい。
勝利の高揚感も達成感もない。ただ作業のように敵を倒し報酬を受け取る毎日。
その繰り返しだった。
Scene.30 届かない答え
ウチは焦っていた。
魔王にかけられた呪い。【絶対支配】の封印。そしてレベルの上がりにくい呪い。
それを解くための方法を探してウチはゼニスの巨大な図書館に毎日のように通い詰めた。だがそこに答えはなかった。古文書に記されているのはただのおとぎ話や曖昧な伝説ばかり。苛立ちが募る。
「…っ!」
ウチは苛立ちを抑えきれず読んでいた古文書をビリビリに破り捨てた。
「お姉ちゃん…大丈夫?」
エリナが心配そうにウチに飲み物を差し出す。ウチは反射的にその手を振り払う。
カップは床に落ちて割れた。エリナの傷ついた瞳。
「…ごめん。悪かった」
ウチはすぐさま謝るがその苛立ちが収まることはなかった。こんなことが日常茶飯事になりウチは自分が嫌になり始めていた。
Scene.31 怒りの矛先
その夜ウチは宿のバルコニーで一人ゼニスの夜景を見下ろしていた。
綺麗だ。でもその輝きはウチの心を照らしてはくれない。
焦りと苛立ちがウチの中で渦を巻いている。
(マジないわー…。なんなの、マジで…!)
力は少しずつ戻りつつある。でもウチの最強の武器は封じられたまま。
このままじゃ魔王に絶対に勝てないしあの屈辱も晴らせない。
(なんでウチばっかこんな目に…)
その怒りの矛先はやがて一つの存在へと向かった。
ウチをこのクソ面倒くさい世界に放り込んだ元凶。
中途半端な力と適当な説明だけをよこしてあとは知らんぷり。
あのノーテンキな白ギャル神が全ての元凶。
「マジでふざけないでほしいんですけど…」
ウチの心の導火線が火を噴いた。
Scene.32 天への咆哮
ウチは部屋を飛び出した。
エリナの制止も振り切りウチはゼニスで一番高い建物大聖堂の尖塔へと登った。
眼下には宝石を散りばめたような街の夜景。空には三つの月。
ウチはその空に向かってありったけの声で叫んだ。
ウチの怒りの全てを叩きつけるように。
「ねぇ、聞いてんでしょ!? 高みの見物してる女神様!」
「いい加減にしろっつーの!いつまで知らんぷり決め込んでんの!?」
「アンタが始めたこのクソゲーの責任、ちゃんと取ってもらうからね!」
「さっさと出てこないとマジで、アンタが大事にしてるこの箱庭、本気でぶっ壊すからね!」
「ウチは、本気で言ってるんだけど!!」
ウチは天に向かって中指を突き立てた。
さあどうする女神様?
このウチの喧嘩買うの?買わないの?はっきりしてほしいんですけど!