表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/116

第六十七話:帰るべき場所

Scene.240 帰るべき場所へ


「…ねぇ、エリナ」


ウチは荒野の焚き火の前で、星空を見上げていたエリナに声をかけた。


「キミのあのデカすぎる実家。そろそろ様子見に帰ろっか」


「え…」


エリナが驚いたようにウチを振り返る。


「強欲と嫉妬。二匹始末したんだ。聖樹様の呪いも、少しはマシになってるかもじゃん?…それに何より」


ウチはニッと笑った。


「エリナの故郷を救わないとね」


「お姉ちゃん…!」


エリナの目に涙が浮かぶ。


「はいっ!」


「聖樹エリュシオン…。賢者の書でしか読んだことのない伝説の地。…承知いたしました、莉央様」


リラも静かに頷いた。

ウチらの次の目的地は決まった。



Scene.241 英雄の凱旋


旅は、来た時とは全く違うものだった。

砂漠の国ソルダートを通過すれば、街の人々がウチらの姿を見て歓声を上げ、道を開ける。解放者の凱旋だ。

やがて、ウチらは再び精霊の国アルベリアの森へと足を踏み入れた。

以前はウチらを拒み、惑わせた結界の森が、今度はまるで歓迎するかのように、自ら道を開き木々の葉がざわめいて、ウチらの帰還を祝福している。

精霊たちがウチらの周りをキラキラと飛び回っていた。

そしてウチらは、再びあの聖地へと辿り着いた。



Scene.242 聖樹の変化


「…ああ…!」


エリナが感極まったように、声を上げた。

目の前にそびえ立つ聖樹エリュシオン。

その姿は以前見た時とは明らかに違っていた。

幹を蝕んでいた黒く腐った呪いの染み。その範囲が明らかに小さくなっている。

枯れ落ちていたはずの枝からは、新しい銀色の若葉が芽吹き始めていた。

そして、樹そのものから、以前よりもずっと力強い、清浄な生命の光が放たれている。


「聖樹様が喜んでいます…!苦しみが少し和らいでいます…!」


エリナが駆け寄り、その幹にそっと手を触れる。

すると、聖樹の意識がウチらの脳内に直接語りかけてきた。


『…ありがとう、我が子らよ。あなたたちが、大地を蝕む二つの呪詛を、滅してくれたおかげです』


だが、その声にはまだ、苦しみが滲んでいた。


『ですがまだ脅威は残っております。残る五柱の大罪が、この世界のどこかで毒を吐き続けている限り、完全な再生は叶いませぬ』


「…へっ。そっか」


ウチは天を突く聖樹を見上げた。


「だったらやることは変わらないね」


魔王への消化不良の復讐劇は終わった。

だがその代わりに、ウチには新しい、そしてもっとデカい目標ができた。


「残りのゴミどもも、さっさと見つけ出して掃除するだけじゃん」


「ねぇ、エリナっち。キミの実家、完全に元通りにしてみせるから」


「はいっ、お姉ちゃん!」



Scene.243 旅の終わりを思う夜


その夜、ウチは一人眠れずにいた。

リラが作り出した豪華な寝室の窓から外を見る。

窓の向こうには、月明かりを浴びて幻想的に輝く、聖樹エリュシオンがそびえ立っていた。


(…ところでさ)


(そんな、簡単にはいかないだろうけど…)


(もし、大罪全部倒して…聖樹様が完全に復活したらさ)


(…ウチ、そのあと、どーすんだろ)


唐突に浮かんだ、あまりにも現実的な問い。

ウチがこの旅のゴールテープを切った、その一歩先。

そこには何が待ってる?


(元の世界ではもうとっくに死んでるわけだし。今更、帰れないよね?)


(…まぁ、帰ったところで、待ってる人もいないけど)


ウチは自嘲気味にフッと笑った。

じゃあ、この世界で生きていくの?

戦いが終わったこの世界で、ウチは何をして?

ウチはベッドで幸せそうに眠っている二人の寝顔を見た。

エリナっちと、リラっち。

ウチのたった二人の相棒。


(エリナっちだって聖樹様が元気になったら、眠りから覚めた星の民の本当の家族とかいるだろうし…)


(リラっちだってなんだかんだ、エルフの元・お姫様だ。故郷の連中と和解する日が来るかもじゃん。…ずっとウチと一緒にいる訳にもいかないよね、そりゃ)


そうだ。

この戦いが終われば、彼女たちには帰る場所ができる。

ウチがその帰る場所を作ってあげるんだから。

でも、そしたらウチは?

ウチはまた独りぼっちになるの?

歌舞伎町で、誰のことも信じられずに、独りで生きてたあの頃みたいに?


胸の奥がきゅう、と痛んだ。

寂しいなんてクソダサい感情。

とっくの昔に捨てたはずだったのに。


(…この旅が終わらないでくれたらいいのに)


そんな最低な願いが心の底から込み上げてきた。

エリナの故郷を救うための旅。

その旅が終わらなければ、ウチらはずっと三人で一緒にいられる。


(…なんてね。これから助けようって聖樹様には、ちょっと罰当たりなこと考えちゃった)


ウチは窓枠に額を押し付けた。

その時だった。


「…ん…おねぇ、ちゃん…」


ベッドで寝ていたはずのエリナが、寝ぼけながらウチの方に手を伸ばしてきた。

ウチはベッドの側に戻り、その小さな手をそっと握ってやる。

エリナは安心したように、またすーすーと寝息を立て始めた。


(…今は、まだ)


ウチはその温かい手を握りしめた。


(今はまだウチは独りじゃない)


(…だったら、それでいっか)


先のことなんて考えるのは全部終わってからだ。

今はただこの温もりを守るためだけに戦う。

ウチは、そう心に決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ