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第六十六話:女神のご褒美

Scene.236 女神降臨


ウチのレベル101の闘気を込めた挑発に、世界そのものが応えた。

空が裂ける。

でも、そこから現れたのは神々しい光じゃない。

ピンクと紫のネオンみたいな、けばけばしい閃光。空にミラーボールが浮かび、チープなクラブミュージックのイントロみたいな音が鳴り響く。

そして、その光の中心から、ゆっくりと降りてきた。

宙に浮かぶ貝殻のソファにふんぞり返り、片手には星屑が浮かぶカクテルグラス。

あの、白ギャル神、女神ルナ。


挿絵(By みてみん)


「やっほー、莉央っち。そんな大声出さなくても聞こえてるって。マジ、ウケる」


その、あまりにも緊張感のない登場に、ウチの疑問と好奇心は頂点に達していた。


「…アンタ」


ウチは剣の切っ先を女神に突きつけた。


「ウチの問いに答えなよね。…全部疑ってる訳じゃないけど、ちゃんと説明してくんない?」


「はいはい、分かった分かった。もー、せっかちだねキミは」


女神ルナは面倒くさそうに溜息をつくと、カクテルを一口、飲んだ。


「ま、いっか。ここまでゲームを進めたご褒美。教えてあげる。…この世界のバグについてね」



Scene.237 システムエラー


ウチは女神に全ての疑問を叩きつけた。

樹里はなぜこの世界にいたのか。

そしてウチの『絶対支配』を、なぜ未だに封印しているのか。


「まず、樹里ちゃんね」


女神はあっさり言った。


「アレを転生させたのはアタシじゃなーい。つーか、アタシにそんな何人もホイホイ転生させる権限ないし」


「は?」


「キミたちみたいな『イレギュラーな転生者』は、たまに発生すんの。世界のシステムエラーみたいなもん。魂が本来行くべき輪廻の輪からバグって外れちゃって、別の世界の死んだばかりの空っぽの体に入り込んじゃうことが稀にあんのよ。アタシはそーやって偶然、こっちに来ちゃったキミの面白い魂を見つけてスカウトしただけ」


…なんだよ、それ。

じゃあウチと樹里がこの世界で再会したのは、ただの偶然だと?


「そして次。キミのそのスキルね」


女神の目が初めて少しだけ真剣な色を帯びた。


「『絶対支配』は、魔王の権能を上書きするための対魔王用最終兵器。でも、心を失った魔王には、魂に作用する『絶対支配』は効かなかった。そして、七つの大罪は性質が違う。『支配』じゃなくて『共感』しちゃうのよ、アイツらは」


「共感?」


「そう。大罪の力の根源は、人間のドス黒い欲望や感情そのもの。だから、キミがもしあのスキルの本当の力を解放しちゃったら、本来の目的の魔王には効かないのに、大罪の負の感情と共感しすぎて、キミ自身が八人目の大罪…例えば、『復讐』の魔人にでもなっちゃう可能性があったからね」


ウチは、息を飲んだ。


「大罪を倒すのに必要なのは『支配』じゃない。キミが樹里ちゃんを倒した時に、自分で見つけた答え。…『愛』とか『贖罪』とか、そーいうクソ面倒くさい感情だよ。キミがそれに気づくまで、あのスキルはただの危険な爆弾だったわけ」



Scene.238 解かれた最後の枷


「…そういうこと」


ウチは全てを理解した。

女神様のやり方は、ムカつくくらい適当で無責任だ。

だがその結果として、ウチはここまで辿り着いた。


「ま、そういうワケだから、残りのゴミ掃除もよろしくー!」


女神はそう言うと、ウィンクして立ち上がった。


「あ、スキルの封印、もう解いといてあげるから、使い方は自分で考えな!じゃねー!」


そう言うと、女神ルナは現れた時と同じように、派手な光と音楽と共に消えていった。

嵐のような神様だった。

ウチはもう一度、自分のステータスを開いた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

【スキル】

絶対支配アブソリュート・ドミネーション: 覚醒済み

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


最後の枷は外された。

だが、このとんでもない力をどう使うか。

その選択は全てウチに委ねられた。



Scene.239 寒いっつーの!


ウチは女神が消えた空を見上げていた。

隣ではエリナとリラが固唾をのんで、ウチの次の言葉を待っている。

だが、ウチの頭の中は女神様が残していった、爆弾みたいな情報でぐちゃぐちゃだった。

ウチはもう一度、自分のステータスに目を落とす。


(支配、ねぇ…)


ウチは心の中で鼻で笑った。


(へっ、ウチが一番興味ないやつじゃん)


(誰かを従わせて、跪かせて、それで何が面白いのかな。ウチはただムカつくヤツをこの手でボコボコにできれば、それで満足なんだけど)


(あのクソ魔王。どんな手を使ってもぶっ殺したかったアイツがいない今。もうこんな物騒なだけのスキルいらないし)


ウチは本気でそう思った。

だが、同時にこうも思う。


(…つーか、マジでそうだよな。こんなヤバすぎるスキル、ウチ以外の、例えばマモンみたいな欲の塊みたいなヤツが持ってたら、世界終わってたんじゃないの?)


ウチがこの力に興味がないってことが、ある意味、この世界の最後の安全装置セーフティーなのかもしれない。


…だとしてもだ。


(しっかしなー…)


ウチは女神の最後の言葉を思い出す。


『大罪を倒すのに必要なのは、愛とか、贖罪とか…』


(ウチが、『愛』とか、『贖罪』とか…)


(マジ、寒いっつーの!ダサっ!)


考えただけで鳥肌が立つわ。柄じゃないんだっての!

ウチは衝動的にステータスウィンドウをパンッと、音を立てて閉じた。


「お、お姉ちゃん…?」


「…ま、いーや」


ウチは心配そうにこちらを見る二人に向かって、ニッと笑ってやった。

いつものウチの不敵な笑顔だ。


「使える手札は多い方がいいっしょ。」


「次のゴミ掃除の時間だ」


ウチはそう言って、荒野を再び歩き始めた。

心の中のモヤモヤも、ダサい自分も全部蓋をして。

今はただ目の前の敵を叩き潰す。

ウチにできるのはそれだけだ。

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