第六十四話:空っぽの満ちる夜
Scene.228 消化試合と埋まらない穴
魔王軍四天王、残り二人。
ウチらは次の獲物を求めて旅を続けた。
そして、見つけ出した三人目と四人目。
…正直、話にならないレベルだった。
三人目は疫病を操る『疫将軍』とかいうジジイ。
ウチに近づく前にエリナの聖なる光のシャワーを浴びて浄化(笑)されて消滅した。秒殺。
四人目は騎士道精神(笑)とかいうのを重んじる『魔騎士団長』。
ウチに一騎討ちを申し込んできたけど、その長ったらしい口上を述べてる途中でリラの紅蓮の炎に背中から焼かれて炭になった。秒殺。
…と、それはもう大変な有り様でした(完)。
こうしてウチらは、あっけなく魔王軍四天王を全員討伐した。
解放された街の連中は、ウチらを英雄だ救世主だと崇め奉った。
だけどウチの心は全く晴れなかった。
(…終わった。…終わっちゃった)
(でも、結局なんもスッキリしない)
本当は魔王への復讐の件、こんな事で気が晴れる程度の悔しさじゃない。
ウチの魂に刻まれたあの屈辱。
こんな雑魚どもを何匹血祭りに上げたところで、埋まるはずがないんだよ。
「お姉ちゃん、やりましたね!」
「莉央様、お見事でした」
エリナとリラが、純粋な尊敬の目でウチを見ている。
(…チッ)
こんなドス黒い感情、こいつらに見せられない。
こいつらにまで悲しい顔させたくないしな。
ウチは無理やり口の端を吊り上げた。
「当たり前じゃん。ウチを誰だと思ってんの?」
Scene.229 女だけの優しい時間
まぁそんでもって。
その夜。
ウチらはいつものように、リラが作り出した豪華な異空間の部屋で祝杯を上げていた。
「四天王全員討伐おめでとー!」
「おめでとうございます!」
エリナとリラが楽しそうにはしゃいでいる。
ウチはそんな二人を見ながら黙って酒を煽った。
…ダメだ。笑えない。
ウチの空元気と心の穴に、二人はとっくに気づいていたんだろう。
エリナがそっとウチの隣に座った。
リラがウチの後ろに回り、その肩を優しく揉み始めた。
「…お疲れ様です、お姉ちゃん」
「莉央様は、少しお休みになる必要がありますわ」
ウチは何も言わなかった。
ただその優しさに身を委ねた。
その夜、ウチらは本当にバカみたいに騒いだ。
美味い酒を浴びるほど飲んで、ガキみたいにじゃれ合って、そして肌を重ねた。
ウチの心の穴を埋めるように。
エリナとリラの温もりがウチを優しく包み込んだ。
―――三人の肌がどう溶け合ったのか。
誰の涙が誰の肌を濡らしたのか。
その甘くて温かい夜の詳細は言うまでもないっしょ。
Scene.230 守りたいもの
翌朝。
ウチは柔らかな日差しの中で目を覚ました。
ウチはベッドの真ん中で、右にはエリナが、左にはリラが。すやすやと幸せそうな寝顔でウチにしがみついて眠っていた。
その無防備な寝顔を見ていると、ウチの胸に今まで感じたことのない温かい感情が込み上げてきた。
(…結局、ウチのこのモヤモヤは消えちゃいない)
(…でも)
ウチは二人の髪をそっと撫でた。
(こいつらが隣にいる。ウチを信じて、ウチのために戦って、ウチのしょーもない八つ当たりにも文句一つ言わずに付いてきてくれる)
(…ウチはもう独りじゃないんだ)
魔王への復讐。
その黒い執着が、こいつらの温もりの前で少しだけ色褪せていく気がした。
(復讐なんてもう、どうでもいいのかも)
(…いや、やっぱ思い出すとクソムカつくけど)
(でも、それ以上に守りたいモンができちゃった)
ウチはフッと笑った。
(マジでめんどくさい)
だけどその面倒くささが、今は何よりも愛おしかった。
ウチは二人の寝顔を見ながら静かに目を閉じた。
もう少しだけこの温かい朝の中に浸っていたかった。




