第六十話:空っぽの凱旋
Scene.213 始まりの羽根
樹里が消えた。
ウチの腕の中に残されたのは一枚の温かい白い羽根だけ。
ウチはそれをそっと拾い上げると、自分の胸の谷間にしまい込んだ。ブラジャーと素肌の間に挟み込む。トクントクンとウチの心臓の鼓動が、羽根に伝わっていた。
(…ここにいなよ、樹里)
(キミのしょーもない嫉妬も悲しみも全部、ウチが背負ってあげる)
(…だからもう、安らかに眠りなよね)
ウチはゆっくりと立ち上がった。
背後ではエリナっちとリラっちが、心配そうにウチを見ている。
ウチが自分の過去に打ちのめされて、泣き崩れてるとでも思った?
ウチはくるりと振り返ると、わざと不敵な笑みを浮かべてやった。気を使われる前にこっちから仕掛ける。それがウチのやり方だ。
「なによ。そんなシンキくさい顔しちゃって」
ウチは二人の元に歩み寄ると、その頭をガシガシと撫で回した。
「ウチよりキミらの方こそ大丈夫なわけ?力、戻ったの?」
「…はい」
リラが自分の胸に手を当てる。その手の中に淡い紅蓮の炎が灯った。
「彼女の消滅と共に、私の『紅蓮の紋章』が…戻ってきました。なぜか以前よりも澄んだ力になった気がします」
「私もです…!」
エリナの手の中にも優しい星の光が灯る。
どうやら樹里が死んだことで、『絶対簒奪』の効果は消え、奪われた力は持ち主の元へ還ったらしい。
「そっか。なら問題ないじゃん。立てる?」
ウチは二人に手を差し伸べた。
「もう行こう!」
Scene.214 残された謎
ウチらは互いに肩を貸し合いながら、ボロボロになった玉座の間を後にした。
だけど、ウチの頭の中はもう次の問題でいっぱいだった。
マモンのあの最後の言葉。『声を聞いた』。
ヤツに『強欲』の力を与えた何者かがいる。
(樹里もそうだ。『嫉妬』の魔人になったのはキミの意志?それとも、誰かにそうさせられたの…?)
そして、一番の謎。
(大体、なんで樹里がこの世界にいたわけ?偶然?…いや、そんなワケない)
ウチをこの世界に送り込んだのは、あの白ギャル神。
だとしたら、樹里をここに連れてくることができたのも…。
(全ての元凶は一人しか思い当たらない)
(…あの、クソギャル神…!)
あいつ何か知ってる。いや、間違いなく全ての糸を裏で引いてる。
ウチは空を見上げた。この空の遥か彼方にいるであろう、元凶の顔を思い浮かべながら。
Scene.215 消化不良の復讐劇
魔王城を後にしたウチらは、近くの岩陰でキャンプをしていた。
リラっちが『女王の閨房』を出そうかと聞いてきたけど、ウチは断った。今はそんな贅沢な気分じゃない。
三人で黙って焚き火を見つめる。
(…あのギャル神が全ての黒幕だって決めつけるのはまだ早いかな…。この世界、ウチの知らないルールが多すぎる。…濡れ衣かも)
冷静に考えれば分かることだ。
だけど、思考が冷静になればなるほど、腹の底から別の熱い感情が込み上げてくる。
ウチは思わず近くの岩を拳で殴りつけた。
「…クソが!」
「お姉ちゃん…?」
エリナが心配そうにウチの顔、覗き込む。
その優しい目にウチの心のタガが外れた。
「…魔王だよ!あのクソ野郎が!」
ウチは吐き捨てるように叫んだ。
「ウチは!アイツをこの手でズタズタに殺すためだけに、ここまで来たんじゃん!地獄の底から這い上がってきたんじゃん!」
「なのに、なんであんな…!ウチの知らないところで、勝手に樹里に殺されて、それで終わりなの!?」
「あの屈辱が晴らせないなら、このやり場のないムカつきは、どこにぶつければいいわけ!?」
ウチの絶叫が荒野に虚しく響き渡った。
エリナも、リラも、何も言わずにただウチの言葉を聞いてくれていた。
「…七つの大罪の問題がまだ残ってるのは分かってる。でも、一番最初の目標だった魔王への復讐が、こんな消化不良で終わっちゃって…なんか、マジでモヤモヤすんだよ…」
Scene.216 八つ当たりの次の目標
「…決めた」
ウチは顔を上げた。
その目にはもう迷いの色はなかった。
「次の目標。…魔王の残りカス…魔王軍の四天王だかなんだか知らないけど、幹部たちがまだ世界のどっかでふんぞり返ってるんでしょ」
「…そいつらをまず全員叩き潰す」
「え…?」
「莉央様…?」
二人が戸惑った顔をしている。
「八つ当たりだよ。理不尽な逆恨み。それが何か?」
「ウチのこのムカつきが収まるまで、アイツらにはサンドバッグになってもらうの」
ウチはニヤリと獰猛に笑った。
「文句ある?」
ウチのあまりにも理不尽な宣言に、エリナとリラは一瞬顔を見合わせた。
そしてすぐにふわりと笑った。
「いいえ。ありません」
「莉央様の気が晴れるのでしたら、どこへでもお供しますわ」
こいつらマジでウチのこと甘やかしすぎでしょ。
だが、その優しさが今はありがたかった。
「よし、決まり!まずは情報収集!四天王の居場所を探すよ!」
モヤモヤした気持ちを振り払うように、ウチは立ち上がった。
復讐の代償行為。
上等じゃん。
魔王軍の残りカスども。せいぜいウチのストレス解消に付き合ってもらうからね。
覚悟しときなよ。




