第六話:大都市ゼニス
第六話行くよ!
新しいステージ大都市ゼニス!ちょーアガる!
Scene.25 大都市ゼニス
数週間の旅の果て、ウチらは大陸中央に位置する大都市『ゼニス』に到着した。
その規模はクロスロードの比じゃなかった。天まで届きそうな巨大な城壁に、あらゆる種族が行き交う雑多な人混み。活気と熱気、そして欲望が渦巻いている。…ウチは嫌いじゃなかった。歌舞伎町を思い出す、ウチがいた世界の匂いだ。
Scene.26 ギルドの洗礼
早速ゼニスの冒険者ギルドへと向かう。そこは城のようにデカくて豪華だった。
そしてそこにいる冒険者たちもクロスロードの連中とはモノが違う。全身を魔法の武具で固めたAランクパーティーや伝説級の冒険者が普通に酒を飲んでいる。
「よぉ、そこの嬢ちゃんたち。見ねぇ顔だな」
ウチが依頼掲示板を見ていると一人の男が声をかけてきた。
Aランクの腕章。顔だけは無駄に整った軽薄そうな男、シリウス。
ウチはそいつの顔を一瞥すると興味なさそうに視線を掲示板に戻した。
シリウスはウチの態度に少し眉をひそめたが、すぐに気障な笑みを浮かべ隣のエリナに話しかける。
「Fランクかよ、ウケるな。こんな可愛い子たちが来るところじゃねぇぜ。…俺が守ってやろうか?」
男がエリナの肩に手を置こうとする。その腕を、ウチは無言で掴んだ。
Scene.27 価値の証明
「…いってぇ! 何すんだ!」
「そのキタない手、どけてくんない?」
ウチの氷のような視線に男の顔が引きつる。
「…面白い女だ。上等だ。ギルドの訓練場でツラ貸せや。俺の“価値”をその体で教えてやる!」
訓練場はやじ馬でいっぱいだった。誰もがAランクのシリウスが勝つと信じていた。
「賭けをしようぜ」
とシリウスが言った。
「俺が勝ったら、お前は今夜、俺のものだ」
「いいよ」
ウチは笑った。そしてヤツの目の前まで歩み寄る。
「でもその前に、おにーさんの本気度、見せてもらおっかな」
ウチは自分の革ベストのサイドを編み上げていた紐を一本、指でくいと引いた。服が僅かに緩み脇腹から胸の膨らみのラインが露わになる。
「ほら。キミが本当に欲しいのって、ウチとの賭けの勝利なんかじゃなくて、コレでしょ?」
シリウスの視線がウチの肌に釘付けになる。
その欲望にぎらついた目を確認した瞬間、ウチの表情から、挑発的な笑みがスッと消えた。代わりに浮かんだのは心の底からの冷たい軽蔑。
「…くだらな」
ウチがそう吐き捨てた瞬間、シリウスは我に返り怒りで顔を赤くした。
「キミ…!」
ヤツが激昂して殴りかかってくる。だがもう遅い。
ウチはヤツの鳩尾に強烈な蹴りを叩き込んでいた。
「がはっ…!?」
「よそ見してんじゃないよ、雑魚が」
ウチは崩れ落ちたシリウスの顔面をヒールで踏みつけ、その喉元に剣を突きつけた。
一瞬の出来事だった。
「…これが、ウチの価値。…分かった?」
Scene.28 勝利の虚しさ
ウチはギルドの酒場で一人、祝杯を上げていた。
あの決闘の後、ウチは一躍この街の有名人になった。
だけどウチの心は少しも晴れなかった。
グラスの中の琥珀色の液体をただじっと見つめる。
それを一気に煽っても、酒の味はよく分からなかった。