第五十七話:絶対簒奪
Scene.201 二人きりの地獄
羨ましいからというそれだけの理由でただ、奪う。
それが七つの大罪『嫉妬』の権能…【絶対簒奪】。
「莉央の全てを、私が奪い尽くす最後のショーを」
樹里のその言葉を合図に、ウチは床を蹴った。
だが、その動きはあまりにも遅すぎた。
「無駄だよ、莉央」
ウチの二本の剣が樹里の喉元を捉える、その寸前。
ピタリ、と空中で停止した。
見えない壁。いや、違う。これはウチがよく知る魔王が使っていた絶対的な『支配』の力…!
「あなたのその神速(笑)の剣も、私の前じゃ止まって見える。だって、私はあなたの全てを知ってるんだから」
樹里はウチの剣を指先でつまむと、まるで玩具でも払いのけるように弾いた。
ウチは体勢を崩し、無様に床を転がる。
Scene.202 奪われるレベル
「莉央、あなたレベル99なんですってね。すごいじゃない。人間が頑張って、やっと辿り着ける最高の数字」
樹里はゆっくりとウチに近づいてくる。
その緑色の瞳が品定めをするように、ウチの魂の奥底まで見透かしてくる。
「…羨ましいわ」
「…だから、それも私にちょうだい」
樹里の白い指がウチの額にそっと触れた。
その瞬間。
ウチの存在そのものが、内側からゴッソリと吸い出されていくような、絶対的な喪失感が全身を駆け巡った。
目の前に半透明のステータスウィンドウが勝手に開く。
そしてウチは、絶望的な光景を目の当たりにした。
【レベル:99】→【レベル:84】→【レベル:56】→【レベル:39】→【レベル:10】→【レベル:1】
「あ…ああ…」
まるで嘘のようにウチの力が消えていく。
99あったレベルは、たったの1に戻ってしまった。
Scene.203 塵芥の戯れ
力が抜ける。
立っていられない。
ウチはその場にへななへと崩れ落ちた。
剣が鉛のように重い。
「どうしたの、莉央? あの威勢の良かったあなたは、どこに行っちゃったの?」
樹里がウチの髪を掴んで、無理やり顔を上げさせる。
彼女はなぶるようにウチをいたぶる。
何度も何度も蹴り飛ばし、魔力で床に叩きつける。
ウチはただなす術もなく、その一方的な暴力に耐えることしかできなかった。
「やめて!お姉ちゃんに、何するの!」
力を失ったエリナが叫ぶ。
だが、その声は虚しく響くだけ。
Scene.204 最後の略奪
「…でも、あなたはまだ諦めてない」
ボロボロになって床に這いつくばるウチを見下ろして、樹里はつまらなそうに言った。
「その目。昔からそう。私が一番嫌いで、一番羨ましかった、その絶対に折れない目」
樹里はウチの前にしゃがみ込むと、ウチの左腕を掴んだ。
「だから、奪ってあげる」
「あなたがもう二度と剣を握れないように。あなたのその不屈の象徴」
「その左腕、私がもらってあげる」
「やめてぇぇぇぇぇぇっ!」
樹里の緑色に光る手が、ウチの左の肩口にめり込む。
肉を引き裂かれる痛みじゃない。
骨を砕かれる衝撃じゃない。
ウチの左腕が存在そのものを否定され、光の粒子となって分解されていく、おぞましい感覚。
ウチの絶叫が、玉座の間に響き渡った。
左腕があった場所には、もう、何もなかった。
痛みと喪失感で、ウチの意識は闇に堕ちていった。




