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第五十三話:リベンジマッチ

Scene.186 復讐のコンパス


ウチは三つに分かれた道の真ん中…東へと続く一番険しい道を顎でしゃくった。


「決めた。東に行く」


「東…!?莉央様、それは魔王軍の支配領域へと向かう道ですわ!危険すぎます!」


リラが慌ててウチを止めようとする。

だけどウチの目はもう、その先の見えない敵だけを捉えていた。


「うん、そうだよ。だから行くんでしょ」


「お姉ちゃん…」


エリナが心配そうな、でも覚悟を決めた目でウチを見ている。

ウチは自分の魂に刻みつけられた、あの屈辱の傷跡にそっと触れた。


(忘れたわけないじゃん。ウチがこの世界に来て最初に味わったあの地獄を)


レベル99?英雄?救世主?

そんなもんどうでもいい。

ウチのこの旅の始まりはたった一つ。

あの銀髪のクソ野郎に力でねじ伏せられ、女としてズタズタにされたあの日のリベンジだ。

殺しても足りないくらいの激情。それがずっとこの胸の奥で燃え続けている。


「強欲も暴食も所詮は前座。ウチの本当の喧嘩相手は最初からアイツだけ」


ウチは不敵に笑った。

あの頃とは違う。力も仲間も覚悟も全てが揃った。


「今ならヤツに雪辱を果たせるはずだ!」


ウチのその揺るぎない決意に、リラもエリナも、もう何も言わなかった。

ただ静かに頷くだけ。


「はい、お姉ちゃん。どこへでもついていきます」


「莉央様の剣はここに」



Scene.187 魔王領への道


ウチらは東へと進路を取った。

進むにつれて景色は急速にその表情を変えていく。

乾いた岩だらけの荒野は徐々に黒い痩せた土壌へと変わっていった。空は鉛色の雲に覆われ太陽の光は弱々しい。

時折吹く風は鉄の匂いと血の匂い、そして不快な魔力の残滓を運んでくる。

道端には黒焦げになった村の残骸。打ち捨てられた鎧や錆びた剣。そして風化した人骨。

魔王軍が通り過ぎた跡だ。ヤツらの破壊と支配の爪痕が大地に深く刻みつけられている。


「…ひどい」


エリナが小さな声で呟く。

だけどウチは足を止めなかった。

同情も怒りも今は全て力に変える。


数日後。ウチらは巨大な裂け目の前に立っていた。

大地が裂けその遥か対岸に黒い雷雲が渦巻く禍々しい大地が広がっている。

空にはワイバーンとは比べ物にならないほど巨大なドラゴンの群れが旋回していた。

ここが境界線。人間たちの世界と魔王が支配する闇の世界との境界線。

ウチは裂け目の向こう側…その一番奥で天を突き刺すようにそびえ立つ黒い城を睨みつけた。

あの忌まわしい魔王城だ。


(…ただいま、クソ野郎)


ウチは静かに呟いた。


(忘れモノ、取りに来たよ)


(アンタにくれてやった、ウチの“プライド”をね)



Scene.188 絶望の崖と二人の専門家


ウチらは人間界と魔王領を隔てる巨大な裂け目の縁に立っていた。

下は底が見えない真っ暗な闇。対岸までは直線距離でも数キロはありそうだ。橋なんて当然ない。


「…さてと」


ウチは腕を組んで二人の仲間に向き直った。


「城までどうやって行こっか?エリナっち、リラっち、いい方法ない?」


ウチの丸投げみたいな質問に、エリナはうーん、と顎に手を当てて考え込んでいる。


「…この裂け目からは強い瘴気が吹き上げています。普通の鳥やワイバーンでは越える前に翼が腐ってしまうでしょう。…私が光の道を作れればいいのですが、この距離と瘴気の濃さでは途中で力が霧散してしまいます…」


「ふむ…」


聖女様でもお手上げか。

じゃあ残るは一人。ウチはリラの方に視線を向けた。


「…莉央様」


リラは恭しく一礼すると、自信に満ちた笑みを浮かべた。


「お任せください。この程度、私の空間魔術の前では子供の水たまりと同じですわ」


「へぇ。言うじゃん」


「ですが、この場で大規模な転移魔術を使えば、対岸の魔王軍に即座に感知されるでしょう。…ここは隠密に進めるべきかと」


リラは裂け目の縁ギリギリまで歩くと、眼下の深い闇を見下ろした。


「裂け目の中腹あたり。瘴気が最も渦を巻いている場所に空間の歪みがいくつかあります。そこを中継地点として利用し短距離の連続転移で対岸まで渡るのが最も安全かと。…少し船酔いのような感覚があるかもしれませんが」


「上等じゃん。それでいこ!」


やっぱこいつ使えるな。

ウチは満足げに頷いた。



Scene.189 女の年齢


「…ところでさ」


準備を始めるリラとエリナを眺めながら、ウチはふとずっと思ってたしょーもない疑問を口にした。


「キミらってどっちが年上なの?」


ウチのあまりにも唐突な質問に、二人はきょとんとした顔で動きを止めた。

エリナは見た目は10歳そこらのガキ。リラはまぁエルフだから見た目じゃ分かんないけど、少なくとも成人して何年か経ってそうな雰囲気。普通に考えればリラの方が年上だ。でも…。


「わ、私は…その…」


エリナがもじもじと指を絡ませる。


「聖樹様から生まれたのがいつなのか…正確な日付は分かりません…。でも物心ついた時から知識としてこの星のたくさんの記憶を持っていましたから…その、魂の年齢という意味では私の方がずっとお姉さんかもしれません…」


エリナは最後少しだけ胸を張って言った。

なるほどね。『魂の年齢』か。

すると今まで黙っていたリラがむっとした顔で反論した。


「…ですが莉央様」


「実際にこの世界で生きて、呼吸をして、食事をして、涙を流して過ごしてきた時間の長さで言えば、明らかに私の方が年長者ですわ。私はあなた様と出会うまでに100回以上季節の移ろいを見てきましたから」


…100歳超えかよこのエルフ。


「ですから、社会的な経験値で言えば私の方がお姉さんということになります」


リラもふんと胸を張る。


「むぅ…」


「ふふん」


エリナとリラがどっちが「お姉さん」かっていう、超絶しょーもないことで火花を散らし始めた。

ウチはその光景を見て腹を抱えて笑った。


「あはははは!どっちでもいいじゃんそんなの!」


「キミらはどっちもウチのちょー使える右腕と左腕!それでいいでしょ!」


ウチは二人の頭をわしゃわしゃと撫で回してやった。


「さあ準備はできた?行くよ、魔王城へ!」


「「はいっ!」」


二人の声が綺麗にハモる。

リラの空間魔術が発動しウチらの目の前に最初の転移ゲートが開かれた。

さあ、リベンジマッチの始まりだ。

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