第五十一話:新しい仲間
Scene.181 新しい仲間の秘密の能力
リラが仲間に加わった最初の夜。
相変わらずウチらはゴツゴツした岩の上で焚き火を囲んでいた。
夕食は干し肉と硬いパン。エリナが聖なる力で浄化してくれただけの生ぬるい水。
「…はぁ。やっぱ野宿は体バキバキになるし。風呂入りたい…。フカフカのベッドで寝たい…」
ウチが悪態をつくとエリナが申し訳なさそうな顔でウチの肩を揉んでくれる。
その時だった。
今までウチらの後ろで控えめに佇んでいたリラがすっと前に進み出た。
「莉央様」
「あん?」
「そのようなことでしたらこのリラにお任せください」
「は?キミに何ができるわけ?炎で岩でも温める感じ?」
ウチの皮肉混じりの言葉をリラは完全にスルーした。
彼女は焚き火の前まで進むと何もない空間に向かってその白く細い指をかざした。
「“開け”―――」
凛とした声が響く。
すると彼女の指先に空間の裂け目のような黒い亀裂が走った。そしてその亀裂が左右にゆっくりと広がっていく。
現れたのは彫刻の施された豪華なマホガニー製の扉だった。
荒野のど真ん中に不自然に浮かぶ一枚の扉。
「…は?なにこれ。幻覚?」
ウチとエリナが呆気に取られているとリラはその扉をゆっくりと開いた。
扉の向こう側から暖かく柔らかな光と花のようないい匂いが溢れ出してくる。
「どうぞ莉央様、エリナ様。お寛ぎください」
ウチは狐につままれたような気分でその扉を潜った。
そして目の前に広がる光景に完全に言葉を失った。
そこは王侯貴族が住む城の一室みたいな超豪華な寝室だった。
部屋の中央には天蓋付きのキングサイズのベッド。床にはフカフカの絨毯。隣の部屋からは湯気が立ち上っており巨大な大理石の風呂まで完備されている。テーブルの上には湯気の立つ豪華なディナーと冷えた葡萄酒まで用意されていた。
(…こいつ、マジで何者…!?ステータス!)
ウチは自分の目を疑いながらリラのステータスを確認した。
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名前:リラ
種族:ハイエルフ
レベル:78
【称号】: 紅蓮の魔術師 堕ちた貴族 莉央の剣
【スキル】
・紅蓮の紋章魔術
・魔力精密操作
・女王の閨房【SSS】: 空間を歪め、あらゆる場所に生活に必要な全ての設備が整った、絶対安全な異空間の寝室を作り出すことができる。
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…SSSスキル。
なにそれ。チートにも程があるじゃん。
ウチは驚愕と歓喜で打ち震えながらフッカフカのベッドにダイブした。
「…マジかよ」
ウチは天井を見上げて腹の底から笑った。
「これ、ウチらの旅の革命じゃん…!」
「最高じゃんキミ!全面採用!今日からキミはウチの専属ルームキーパーね!」
「はい!この身、莉央様のために!」
リラは満面の笑みで恭しくお辞儀をした。
Scene.182 元・お姫様のしょーもない昔話
その夜もウチらはリラが作り出した豪華な異空間の寝室『女王の閨房』で寛いでいた。
ウチは大理石の風呂で一日の汗を流しフカフカのガウンを羽織ってベッドに寝そべっていた。エリナがウチの髪を丁寧に乾かしてくれている。
リラはそんなウチらのために高級そうな果実の盛り合わせをテーブルに並べていた。
完璧な夜だ。
だけどウチの頭には一つの疑問がずっと引っかかっていた。
「…ねぇエルフ」
ウチは寝そべったままリラに声をかけた。
「一つ聞きたいんだけど。キミ、なんであの闘技場にいたわけ?奴隷剣闘士なんてハイエルフのお姫様がやるような仕事じゃないっしょ」
ウチの単刀直入な質問にリラの肩がぴくりと震えた。エリナもウチの髪を梳かす手を止めて心配そうにリラを見ている。
リラはゆっくりとウチの方に向き直るとその場に静かに正座した。
「…お答えします、莉央様」
彼女は語り始めた。自分の生い立ちと経歴を。
彼女の本名はリラエール・アルストロメリア。遠い東の大陸にあるエルフの国でも指折りの名門貴族の一人娘だったらしい。
エルフの魔術師は本来自然や精霊の力を借りる治癒や防御といった“清浄な魔法”を尊ぶ。
だがリラは生まれつきそのどれにも才能がなかった。彼女に宿っていたのはもっと原始的で破壊的な炎の力。エルフたちが忌み嫌う禁忌の魔術『紅蓮の紋章魔術』の才能だけだった。
「一族の恥晒し。堕ちたエルフ。私はずっとそう呼ばれて育ちました」
彼女は同じ貴族の許嫁からその炎の魔術を罵られた。家の名誉を汚すな、と。
頭に血が上った彼女は決闘の場で禁じられていた紅蓮の魔術を全力で解放してしまう。
相手を殺しはしなかった。だがその美しいエルフの顔に永遠に消えない火傷の痕跡を残してしまった。
「エルフの社会では同族の、特に顔を傷つけることは殺害よりも重い罪なのです」
リラは家名を剥奪され国を追放された。
“堕ちた貴族”として一人世界を放浪し、流れ着いたのがオアシス。金も誇りも全てを失った彼女は自らその身を奴隷商人に売ったのだという。
「…なんで?他にいくらでもやりようあったんじゃない?」
「ありませんでした」
リラは静かに首を振った。
「故郷で忌み嫌われた私のこの炎の力は闘技場では喝采を浴びました。破壊すればするほど観客は熱狂し私に富と名声を与えてくれた。…歪んでいてもそこがようやく私が見つけた唯一の居場所だったのです」
「…」
「闘技場では私の炎はただの殺しの道具でした。人々はその破壊を恐れ喝采した。でもあなたは違った」
リラはウチの目を真っ直ぐに見つめた。
「あなたは私の炎をただの力として見た。そしてその力ごと私の最後の砦だったプライドごと全てを叩き伏せ陵辱した」
「あなたに身も心も全てを暴かれ屈服させられたあの瞬間、私は初めて解放されたのです。家の名誉からも過去の罪からも。…だから私のこの力この命はあなた様に捧げると決めたのです」
「あなた様こそが今の私の唯一にして絶対の“誇り”ですから」
(…なるほどね)
ウチは全てを理解した。
(エリートコースから外されたはみ出し者か。ウチと似たようなモンじゃん、こいつも)
ウチは寝台から起き上がるとリラの顎をくいと持ち上げた。
「…ふーん。まぁしょーもない昔話だね」
ウチはニヤリと笑ってやった。
「ま、キミがウチの剣になりたいって言うなら好きにすれば?」
「せいぜい役に立ってよね、元・お姫様」




