第五十話:光と影
Scene.178 執念の追跡者
オアシスを出て三日目の夜。
ウチらは岩だらけの荒野でキャンプをしていた。
エリナが作った相変わらず味の薄いスープを飲みながら火の番をしていると、暗闇の中から一つの気配が音もなく近づいてくるのに気づいた。
「…誰?」
ウチが剣に手をかけると、焚き火の光の中にその姿がゆっくりと現れた。
見覚えのある美しい尖った耳。燃えるような赤い髪。
闘技場での奴隷のボロ布じゃない。上質なエルフの旅装束に身を包んでいる。
「…はぁ」
ウチはもう一度深いため息をついた。
「マジでしつこいんだけど、このエルフ」
そこに立っていたのは『紅蓮の』リラだった。
「莉央様。エリナ様。…お久しぶりです」
「ぜーんぜんお久しぶりじゃないし。なんでキミがここにいるわけ?ザハラのとこに天下りさせてあげたじゃん。国軍のエリート魔術師様になったんじゃなかったの?」
ウチの呆れたような問いかけにリラはまっすぐウチの目を見て、その場に跪いた。
「私はザハラ殿に仕えることよりも、莉央様にお仕えすることを選びました」
「は?」
「三日三晩不眠不休であなた様の痕跡を追い、ようやく追いつきました」
マジかよこのエルフ。完全にストーカーじゃん。
隣でエリナが少しだけ警戒したような不安そうな顔でリラを見ている。
Scene.179 光と影と剣
ウチはリラを睨みつけた。
「いらないって。ウチら二人で十分だし。キミみたいなか弱いお姫様がいても足手まといになるだけでしょ」
「足手まといにはなりません」
リラは顔を上げてきっぱりと言い切った。
「エリナ様はあなたの『光』でしょう。その神聖な力であなたを癒し導く光。…ならば私はあなたの『影』となり『剣』となります」
その真紅の瞳に狂信的とも言える強い光が宿っていた。
「あなたの進む道を阻む全ての障害を私のこの炎で焼き尽くす。あなたの手を汚させるまでもない雑魚どもを始末する。それが、あの日あなたに全てを暴かれ屈服させられた、私の見出した新たな“誇り”です」
…なるほどね。
エリナっちはウチのブレーキであり癒し。ウチが人間でいるための最後のストッパーだ。
でもこいつは違う。
こいつはウチの欲望とか破壊衝動を全部肯定して、その一番汚い部分の代行者になろうとしてる。
エリナとは真逆なんだね。
光と影。星と月。
癒しと破壊。聖女と魔女。
白と紅蓮。
(…悪くないじゃん)
ウチは内心で舌なめずりをした。
確かに火力はあればあるだけいい。それにこいつがいればエリナっちの負担も減る。
Scene.180 新しい旅の始まり
「…はぁ、しょーがないなー」
ウチはわざと心底面倒くさそうな顔で言った。
「好きにしなよ。ただし足手まといになったらソッコーで置いてくかんね。文句言わないでよね?」
「…!はいっ!莉央様!」
リラはパァッと顔を輝かせると深々と頭を下げた。
こうしてウチらの二人だけの気ままな旅は終わりを告げた。
ウチを中心に、右に絶対的な愛と信頼を向ける聖女エリナ。
左に絶対的な忠誠と崇拝を誓う魔女リラ。
…なんだかマジで悪の女王様にでもなった気分。
「ま、ウケるからいっか」
ウチらの新しい奇妙な旅がまた始まる。




