第四十九話:黒狐と白星
Scene.174 世界が動き出す音
ウチがオアシスで英雄様ごっこをやらされてる間に、世界は勝手に動き始めていたらしい。
『強欲』の魔人マモンがその力を失った。
そのニュースは普通の民衆にはまだ届いていない。七つの大罪なんて、おとぎ話の中にしか存在しない災厄だから。
だが、知る者は知っていた。
「…これが、近隣諸国の諜報員たちが、本国に送った報告書の写しだ」
レジスタンスの新しい司令部になった元・マモンの城の一室で、ザハラが数枚の羊皮紙をウチに手渡した。
そこには、各国の暗号めいた文面で同じような内容が書かれていた。
『“金色の王”、堕つ。砂漠の国、解放さる』
『実行犯は二人組の女。その正体不明』
『目撃情報によれば、一人は黒衣を纏い妖艶な戦い方をする銀髪の女。もう一人は星の如き神聖な力を持つ金髪の少女』
『両名のコードネームを、『黒狐』と、『白星』とす』
「…黒いキツネと白い星の子、ねぇ」
ウチはそのあまりにも安直な二つ名に、思わず噴き出した。
(ウケる!カップ麺じゃないんですけどー!)
そのくだらない二つ名が世界を駆け巡っている。
だが、それは間違いなくウチらの存在が、歴史の水面下を大きく揺るがした証拠でもあった。
Scene.175 別れの時
そんなこんなで、数週間。
オアシスの街はブランの爺さんとザハラを中心に、驚くほどの速さで復興を遂げていた。
元スラム街だった場所には新しい家が建ち、子供たちの笑い声が響いている。もうウチらが、ここにいる理由も義理もない。
「…行くのか」
街の正門。
見送りに来たザハラが寂しそうに言った。
「キミがいればこの国はもっと安泰だというのに」
「ガラじゃないって言ったでしょ。ウチは政治家とか向いてないの。それに、まだ掃除しなきゃならないゴミが残ってるし」
ウチはザハラの肩をポンと叩いた。
カイトは涙目でウチに手を振っていた。
「姉ちゃん!また、絶対会いに来いよな!」
「バーカ。キミが一人前の男になったら考えてあげる」
ウチはそっぽを向いて答えた。
Scene.176 奈落に残したもの
「お姉ちゃん、リラさんは…よかったのですか?」
エリナが辺りをきょろきょろと見回しながら尋ねた。
(…ああ、あの、エルフね)
マモンがいなくなった後、闘技場の奴隷たちは全員解放された。リラもブランの爺さんも、今は自由の身だ。
アイツ、なんかウチに付きまとう気マンマンだったけど、ザハラに頼んで足止めさせてる。
(正直、あんなお姫様の面倒まで見てる余裕ないし)
ウチはエリナの頭をわしゃわしゃと撫でた。
ここで出会ったみんなとも、これでお別れだ。
Scene.177 新たなる旅の始まり
ウチらはオアシスの街を後にした。
どこまでも続く広大な砂漠。道はいくつにも分かれている。
「お姉ちゃん、これからどこへ向かいますか?」
エリナがウチの隣に並んで尋ねた。
聖樹様の話じゃこの大陸にはまだ大罪がいるはず。でもどこにいるかは分からない。あるいはもう魔王の城へ向かう?
「さぁねー。どこでもよくない?」
ウチは空を見上げた。どこまでも青くて高くて自由な空。
「どーせみーんな、いずれウチが掃除しちゃうんだし」
ウチはニッと笑った。久しぶりに何もかもから解放された気分だった。
「今は気分。とりあえず当てもなく進もっか。風の吹くまま気の向くまま、的な?」
「えっ?」
「そっちの方が面白いモンに出会えそうじゃない?」
ウチは一番道の広そうな街道を指差した。
その先がどこに続いているかなんて知らない。
でもそれでいい。
ウチとエリナ。『黒狐』と『白星』。
二人の気まぐれな旅がまた始まる。
それだけで最高に気分が良かった。
莉央はまだまだ成長しまーす。
評価・ブックマーク、どうかお願いしまーす。




